ピラファ火山②一攫千金
間違って次の話を投稿してしまいました。
お騒がせして申し訳ありません。
……天は我を見捨てなかったっ!!
告げられた値段に俺は感激で震え、天を仰いだ。
先ほどの魔物の名前はクリアイタートルというとてもレアな魔物だったようでそいつの素材、中でも甲羅はとても高値で買い取りされていた。その額なんと……500万M!
やったよ!一気に借金生活から解放されるぜ!
………だけど、そんなに上手くはいかないのが人生ってやつだ。
俺は、素材を売るのをやめた。
正確にはまだ売らないというのが正しい。よくよく話を聞くと、クリアイタートルの甲羅は非常に防御も優れており、防具として使われることも多いという。俺は、これでゴーグルを造れないか試すことにした。もし、ゴーグルが作れればあとは口布を揃えるだけで俺自身も防臭は完璧。
家も今度こそは防臭が完璧にされるだろうから家の中では堂々とカラシシの実を加工できるはず。
そんなこんなで現在鍛冶師ギルドへ来ている。
「…で、どうです?できますか?」
「できるにはできるが勿体ねぇな。クリアイタートルの甲羅なんて売れば大儲け、売らないにしても自分の防具として使う方がよっぽどいいと思うんだがな」
「それは、そうなんですけど…。やっぱり諦めきれないんですよ」
「ワシらからすれば諦めてもらいたいもんじゃが…」
渋々ながらも請け負ってくれるようだ。さっすが、職人!話が分かる!
「ありがとうございます!エルドさん!」
「…やめい。エルドさんなんて呼ばれるとむず痒い。おやっさんでいい」
「はい、おやっさん!」
「ただし、ゴーグルに加工はできるが、ゴーグルのベルトなどがないと本格的に作ることはできん。お前さん、誰か頼みたい裁縫師はいるか?」
「だったら、ルンデルハウスさんでお願いします。この服を用意してもらったのもあの人ですし」
「おっし、わかった。じゃあ、ルンデルハウスにどんなものがいいか話して来い。そしたらこっちでも作業を始めてやる」
「あらぁ~、いらっしゃい。今日はどんな用事?そ・れ・と・も、アタシに会いに来てくれたの?」
いつ見ても、この人のキャラは濃いな。
俺は簡単に事情を説明した。
「…へぇっ!クリアイタートルを倒すなんてシィドちゃん意外とついてるのね~!」
「で、どうでしょう?できますかね?」
ルンデルハウスさんはむさくる……いや、魅力あふれる腕を組んで考え込むような仕草をしたかと思うと、店の奥に引っ込み何やら分厚い本を持ってきた。
ドシッ!
表紙のかすれやページのくたびれからよく使いこまれていることが窺われる。かろうじてタイトルの『用途に合わせた布選び』という文字だけは読むことが出来た。
太い指でペラペラとページを捲り、目当てのページを開き本を渡してくる。
「……ゲブロッグ?」
渡されたページには黄色い丸々とした体のカエルらしきものが描かれていた。
「…おそらくシィドちゃんの要望に合うとすればそれ。正確に言うと必要なのはその魔物の胃袋の皮よ。他にもいるにはいるけど、そいつらはフィアード周辺にはいないし、危険度も高いわ。この魔物だって本来はシィドちゃんには早いと思う」
普段と違い、真面目な態度で語る様子から尋常じゃない危うさを感じた。詳しく聞いてわかったのは、ゲブロッグを含め俺の要望に合う素材は比較的危険な魔物が多いということだ。
それでいて目当ての素材を手に入れられるかどうかは運の要素が強い。
俺一人だったら絶対に勧めず、ギルドに依頼して調達してもらうのを待つべきだとまで言われてしまった。ただし、それだといつ手に入るのかは冒険者たち任せになってしまう。そこで、借金がある今ならば指南役としてペルニカさんがついている。それに加え、難易度的にこの仕事ならばリリィさんにも頼むことができるという点から見ても挑戦してみる価値はあると告げられる。
それでも危険なことに変わりはないが、一人で行かせて確実に死ぬよりはいいと判断した結果だった。
「ゲブロッグは基本的に火山の火口付近に群れで生息しているはずよ。素材として扱うのは結構大変だし、胃袋は最低でも5つは必要よ。ついでに胃袋以外の皮も持って帰ってくれれば買い取るわ。ギルドの方に行けば追加依頼と言う形で報酬も上乗せされると思うからギルドに相談しなさい。でないとリリィちゃんまでは来てくれないわよ」
ルンデルハウスさんのアドバイス通り再びギルドへ行って説明をすると、冒険者ギルドから追加依頼とリリィさんの同行要請書を渡された。
なんでもゲブロッグは火口付近からあまり動かないので大して被害は出ない。そして、強い魔物でもあるため好き好んで討伐に行く冒険者も少ないのだという。
しかし、黙って増加しているくのを見過ごすわけにもいかないのでギルドから時折高額の報酬と引き換えに間引きを頼むそうだ。前回の討伐から時間も経っているのでどうせ倒すのならついでにみたいな感覚で頼まれてしまった。
その後、リリィさんに同行要請書を渡すと、同行してもらう代わりにいくつかゲブロッグの素材を渡すということで話が付いた。
そういう経緯で、ゲブロッグを求めてピラファ火山を登っているのだが……、はっきり言おう俺は今猛烈に後悔している、と。
勘弁してくれよ。何だよこの暑さ。
隣を歩いてるリリィさんも口にこそ出さないが辛いのだろう。先ほどから大量の汗をかいて目が虚ろだ。
いっそやめて帰ろうとか思い始めた時、先頭を歩いていたペルニカさんが手で止まれと合図を出していた。
「……いましたの?」
疲労困憊の様子だったリリィさんは気を引き締め臨戦態勢を取って、隣にしゃがみ込む。
「……うん、とりあえず一体」
指差した先には図鑑で見た魔物、ゲブロッグがたしかにいた。




