はじめの一歩
「ここ、は…?」
目の前に広がるのは草原と青い空。ぱっと見ると平凡でのどか。悪く言えば何もない場所。
俺は、確か変な場所で…、赤い、【カギの実】を食べて、それから……、それから?それからどうした?俺は、何をしていた?そもそも、俺とは、誰なんだ?
「やぁ!そこの青年!」
「っ!?」
(さっきまで一切、人の気配など感じなかったのに…!)
いきなり、声をかけられ、ぱっと振り向くとそこにはニコニコと意味もなく笑みを浮かべた男が立っていた。
「だ、誰だ?」
「ボク?ボクはアルタフィル。アフィと呼んでくれても、フィルと呼んでくれても構わないよ」
「……で、俺に何の用だ?」
「怖いなぁ。そんなに睨まないでおくれ。ボクは言ってしまえば、君を迎えに来た者、かな?」
「……迎えに?ってことは、さっきの変な声の仲間か?」
「ハハハハッ!変な声は、いいねぇ!だけど、あの声の主はこの世界の神だ。あまり失礼なことは言わない方がいい。まっ、大して気にしないお方だけどね」
「神?そういえば、新世界への道って言ってたな。じゃあ、ここは違う世界、なのか?」
「違う世界というのがどこを指すかは君次第だけど、ここは君たちの言葉でいえば、異世界さ。君たちのように生死の境を彷徨った魂が選択の結果、この世界で新たな生を受ける。そういう世界。…というわけで、改めまして、ようこそ新世界【コメディカルティア】へ!!」
「【コメディカルティア】?何かふざけた名前だな」
「きっついなぁ~。別にボクらがつけたわけじゃないし、気にはしないけどね。ここで駄弁っていても時間の無駄だし、とりあえず行こうか?」
「行く?行くってどこへ?」
「僕たちの住む町さ!まぁ、行けばわかると思うけど、話は道中ゆっくりしよう。ハッキリ言って、郊外だと何か出てくるかもしれないしね。まぁ、新たな住人が来た場所にはよほど運が悪くない限り化物なんて現れないんだけども、君たちは生死の境をさまよった存在。もしかしたら不運な事故による死亡なんて場合には生来運の絶対値が低い場合もあるから用心するに越したことはないだろう」
「……わかった」
何か気に食わない言い方だったが、反論しようにもいまいち頭がボーっとして考えがまとまらないので、とりあえずこの男についていくことにした。気になることは、こいつの言う通り道中聞けばいいだろう。
「さて、まず何から聞きたい?まぁ、聞きたいことは山ほどあるだろうけどね」
こいつ、チャラいな。ハッキリ言って、信用できそうにもなかったが、今のところはこいつを頼るしかないので、気になる疑問は解消しいこう。
「…じゃあ、さっき迎えに来たって言っていたが、どうやってオレがあそこにいるってわかったんだ?それに、さっき現れた時、全く気配を感じなかったのはなぜだ?」
「……へっ、そこ?最初にそこにいく?」
「………??」
はて、なんで、こいつはこんなに驚いているんだろう?おかなことでも聞いてしまったのか?
「なんだ、何か変なことを言ったのか?」
「あぁ、いや、すまない。なんでも聞いてくれと言ったのに……」
申し訳なさそうにする態度も気になったが、その次に放たれた言葉に俺はさらなる衝撃を受けた。
「だって、普通は自分が何者かわからないことから聞いたりしない?」
「っ!?」
「おっ、何でわかったって顔をしたね。わかりやすい人だ」
「……なんでわかったんだ?」
「おぉっ!一気に警戒したねぇ。まぁ、簡単だよ。異世界から来た人、まぁボクらは【落ち人】って呼んでるんだけど、そういう人たちは記憶を対価にしてこちらの世界に来るからだよ?で、記憶を対価と言ってもすべてが一気になくなるわけではないんだけど、『新世界で生活していくんだから古い自分を忘れて新しく生まれ変わりましょう!』っていうのがうちの神様の考えなわけなのさ。だから、まず自分のことは忘れちゃうんだよねぇ」
なんつーいい加減な神だ。普通自分のこと以前にもっと忘れてもいいことがあるだろうに。
「あっ、呆れた?それとももう既に後悔し始めちゃった?」
あまりに愉快そうなその面に俺は、若干の苛立ちを込めながら
「……どっちもだ」
そうそっけなく返すことで答えておいた。