ここでの居場所
有言実行!!宣言通り、投稿しました。
「どうよ!これが、急ピッチで仕上げたお前さんの家だ!」
「……ここが、俺の…家」
外観は極めてシンプルなログハウス。屋内に入ってみてもこれと言って特筆する点は見当たらないリビングと寝室。それでいてこの小さな家屋には広すぎるキッチン。
「別れた日の夜に町長の奴がお前さんがジョブを料理人にしたからキッチンを広めに造ってやってくれって頼まれたからキッチンだけはちょっと広めに造ってる。まあ、一人暮らしならこれで十分だろうよ」
複数のかまどに食材をしまっておける戸棚、桶などもある。
これだけあれば後は材料を集めたりするだけで十分だろう。ここ数日の間に必要になりそうな物はある程度揃えておいたし、大丈夫!
「やあやあ、完成したみたいだね」
「アフィ!」
なんで、アフィがここに?まあ、別に来てもいいけど…暇なのか?
初日にも思ったが、町長のくせにこんなにフラフラしてていいのか?
「よう、遅かったな!」
「ちょっと、仕事が立て込んでてね。すぐに戻らないといけないからさっさと始めよう。親方、鍵を」
「ほらよ!まったく、新しい家が出来た日にはその家で酒盛りをするのが常識だっつーのに、忙しい話だな」
「親方が子供の時代の話だろう?今では住人も増えてるし、それにもうすぐ年の暮れだ。報告しなければならないこともあるから忙しいんだよ。親方たちだけでやってくれ」
親方から鍵を受け取るとアフィは呆れているようだ。
「アフィ、一体何をしに来たんだ?というか、なんでお前が鍵を…?」
「簡単だよ。新しい家が出来たら、鍵に住人を認識させないと使えないんだよ」
面倒だよな~と笑いながら告げているが、結構重要じゃないか。この世界だと結構簡単にピッキングとかされそう。いや、むしろ扉ごと壊していくか?
(……あれっ?だけど、)
「なあ、ふと思ったんだけど、基本的には金目のモノとかはそれぞれ所属のギルドに預けるもんなんじゃないの?」
「……まあね。だけど、自分がいない間に勝手に家の中にいられるとかは嫌でしょ?」
「……うっ、たしかにそれは嫌だ」
「ということで、早く手を出して。こっちだって暇じゃないんだから」
「へいへい。まったく、いつも仕事サボってるからそんなことになるんだと思うぞ」
渋々手を差し出し認証を済ませると、アフィは仕事は終わったとさっさと出ていってしまい後には親方と俺が残され……あれっ?親方?
いつの間にやら親方も姿を消している。一体どこに?……なんか嫌な予感がするけど、まいっか。
ひとまず、内装も確認したし、いったん冒険者ギルドに戻って荷物や報酬を引き取って来るか。
「たしかに返却していただきました。また何かありましたらお気軽にお声かけください」
「はい!モニカさん、お世話になりました」
モニカさんに部屋の鍵も返したし、これでここで済ますことは一通り済ませたかな。
冒険者ギルドに戻ってからペルニカさんと合流し、報酬などを受け取ったが問題なども起きずにいつも通り指導役の報酬を払ってから別れた。
部屋に戻ってからはそれまで準備しておいた荷物をまとめて部屋を出る。この部屋にいたのは半月程度たったのにいざ去るとなるとなんだか寂しい感じがするよな。
………なんでこうなった?
「ガハハハッ、どうだぁ!?この家の住み心地は」
「……はぁ、いいですけど」
「聞こえねえよ!もっとでかい声で言えやぁ!」
「親方~、そんなに喚いてたら聞こえるもんも聞こえねえでしょうよ!まぁ、若人さっさと飲んで飲んで騒ごうじゃねえか!」
……勘弁してくれ。
冒険者ギルドから帰って新居に戻った俺が見たのは酒樽を囲んで玄関の前で酒盛りしている親方たち鍛冶師ギルド大工職の職人たちだった。
「おっ、やっと帰ってきやがったか。さっさと鍵を開けろや。外じゃあ、気分が盛り上がらねえだろうが!」
目ざとく見つけた親方が催促してくる。あっ、駄目だ顔が引き攣る。
逃げ出したい気持ちを抑えながらどうやって言い訳しようかと考えていたが、いつの間にか周りを職人に両腕を取られ、そのまま
引きずられていってその流れのままに酒盛りに突入したのだ。
「この家を造った時にここで酒盛りをすれば気分よく酔えると思ったんだよなあ~」
「親方、そんなこと言って毎回似たようなことを言ってるじゃないっすか?そもそも酒盛りが楽しめるような家を造ってるんじゃないっすか?」
「バーカ、ワシらはプロじゃぞ?どんな快適空間を作るかがワシらの役目と言うやつじゃ!そういうお前らはまだまだ未熟!」
「…はいはい。ささっ、どうぞどうぞ」
「おっ、悪いなぁ」
本当何をしに来たんだ、この人たち?
「……まあ、酒盛りも楽しんだし、ワシらが一斉に入っても大した問題なし。さらに酒盛りで騒いでも周囲から不快だと言われるようなこともなし。…うむ、完璧な仕上がりじゃ!」
「………親方、今とってつけたような理由を言いませんでした?」
「そんなわけなかろうて、いいからお前さんも飲まんかい」
結局、この酒盛りは日付が変わる近くまで行われ、職人たちは嵐のように去って行った。
…………つ、疲れた。
家が出来たその日、家の出来を楽しむ間もなく日付が変わり、次の日は夕方まで泥のように眠っていた。
騒いで、疲れて眠って、そんな何でもないような毎日があっという間に過ぎていく。
――それでも、誰とも繋がっていなかったこの世界でほんの少しまた誰かと繋がれた気がした。
次回、フィアードを惨劇が襲います。