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宿命の一歩

 予告通り、ザイ視線のお話です。

 ――俺は今、何をしている?

 ――なぜ、こいつと戦っているんだ?

 目の前の男は不快だ。弱いくせに立ち向かってくる負け犬だ。負け犬のくせに、ただただ根拠もない争いを仕掛け、自分が傷ついていく。そんな奴だ。

 ――こいつは何に対して怒っている?

 元の世界のこととはいえ、両親を殺されたことか?自分自身も殺されかけたことか?それとも、自分が存在すら知らなかった妹をそんな男に預けていたことか?

 ――わからない。こいつのことが何もわからない。

 こいつの攻撃は今の俺にとっては脅威ではない。自分の中に新しい力が芽生え始めているのも感じているし、おそらくはそれを使えばすぐにでもこいつを倒すことが可能だ。そもそも、地力が違い過ぎる。この世界に来てからどれほどの努力を重ねようとも、俺の過去を超えることなどできはしない。

 ――なのに、何故?何故、こいつと戦っているんだ?何故こいつは倒れないんだ?

 ――わからない。わからない。わからない。

 ――気持ち悪い。




 俺は、地球にいた頃はごく普通の生活をしていた。ちょっとだけ環境が人とは異なっていただけの普通の生活を。

 俺の両親は、とある機関の研究員だった。人を拷問したり、殺したりと苦しめる方面の薬を開発することに神経を注いでいる人物だった。息子の俺の眼から見てもわかるほどに、両親は狂っていた。

 俺には兄がいた。兄と俺の違いは、純粋だったかどうか。

 俺は純粋だった。両親と同じく、狂った方向に純粋だった。

 そんな俺に目を付けた両親はありとあらゆる知識を俺に与えた。まだ、碌に学校に通うよりも前から俺は人を傷つける手段にだけ特化していった。

 そして、兄は普通の人間だった。

 何をやっても普通な人間。それは、狂った家族の中においては異端にも映るほどの普通。

 そして、どんな世界であっても異端とは排除される存在だ。

 ある日から兄の姿を家の中でもほとんど見なくなった。そして、たまに見かけても酷く憔悴していてとても同じ人物だとは思えなかった。

 やがて兄は死んだ。両親の実験台にされて殺された。

 そこでようやく俺は気付いた。自分が兄の死に何も感じない狂った人間なのだということに。

 それから、俺は良くも悪くも狂っていった。

 そして、とうとう両親を殺した。

 別にどうということはない。ただ、危険薬品を取り扱っていた両親の研究室を吹き飛ばしただけだ。吹き飛ばしたのは研究室の一角だったが、もともと法の管理下に置いても劇薬指定されている物を不用意に置いておくような場所だ。小さな火種一つあれば大惨事に繋がることは明白だった。

 ただ、ここで一つだけ誤算が生じた。

 その誤算とは、爆発がきっかけとなって街一つを滅ぼすほどの大事件になってしまったことだ。

 燃え上がった火の手。そして、煙に混じって流れ出る有害物質。それが風に乗って漂い多くの人間の命を奪っていった。

 それを見ていた時、俺は無意識に嗤っていた。

 それから爆発のある度に嗤うようになっていた。

 あぁ、世界は狂っている。そう思い、俺は単純なテロ行為に及んでみた。

 その結果として、異世界に行くことになるとは全く思わなかったが…。




「ザイィィィ!!」

 まったくもって煩わしい。

 火のついたナイフを振っているガキを薙ぎ払い、爆発させるべく手を伸ばす。

 その手が弾かれ、殴られる。

「……ぐっ!」

 思わず声が漏れる。重い攻撃だった。先程までの何かを考えている行動とは違い、純粋に感情の赴くまま、怒りのままに攻撃してきていた。

「ははっ」

「だから、何を嗤ってんだ!」

 嗤ってる?そうか。俺はまた嗤っていたのか。

 そう言えば、こいつがキレた時も俺は嗤っていたのだったな。

 何がおかしいのだろうか?

 こいつとの戦いは地球にいた頃も合わせれば、3度目だ。前2回は圧倒的に俺が勝利して見せた。今回も同様の結果になるはずだった。

 だが、こいつはまだ立っている。初めこそ、この後に起こることに対処するためか余力を残した戦いだったが、今は違う。

 こいつも全力だ。

 まさかこれほどやるとは思っていなかったが、こいつとは戦う予感がしていた。

 前回の戦いであの忌々しい女神に邪魔をされ、そしてペソがこいつの妹だと聞かされてから。

 あの時から、俺の心は妙に荒れていた。

 自分でも理由はわからない。もしかしたら、俺にも罪悪感というものがあって、知らないうちに殺していた人間だということに動揺したのかもしれない。あるいは、というかこれがほぼ正解だと思うが、あの女神に無理やり押し付けられた子供を律儀に育てていた自分に腹が立っただけかもしれない。それも、自分が殺した人間の娘だ。余計に苛立ちが募ったのだろうか?

 そんな時、俺はあいつらに出会った。




『フォルプランツ?聞いたことのないクランだな』

 目の前に突如として現れた似非紳士風の男が口にした組織の名前。帝国では聞いたことのない組織に俺は怪訝なものを見ていた。

『ふぉふぉふぉっ、残念ですが、クランではありません。ですが、さすがは帝国最強のクラン『終焉の来訪者』の盟主クランマスターであらせられる。このような突拍子もない話をする我々を受け入れて下さるとは!』

 誰が受け入れているだ!

 貴様らのような怪しさ満点、むしろ怪しさしかないような人間を受け入れるわけがないだろうが!

 そもそも、俺は貴様らが本当に人間かどうかすらも疑っているわ!

 似非紳士と共に現れていた人物?に目を向ける。

 そいつ、いやそいつらは明らかに胴体とは異なる頭部を抱えている化け物だった。

『……で、そのフォルプランツとやらが、俺に何の用だ?その化け物を退治してほしいという依頼だったら、ホームに行け』

 ただでさえ、苛立っているのにこんな面倒くさそうなやつらの相手などしておれん。そう思い、俺はその場を離れようとした。

『……何の真似だ?』

 だが、動こうとした俺の首には刃が。しかも、あと一歩でも動けば切られていたという絶妙な場所。まるで俺がどういう行動をとるか予め知っていたかのような。

 この時、初めて目の前の集団に怖気を感じた。

 得体のしれないものを相手取っているような不気味さを。

『まあまあ、落ち着いてくださいな。我々は争いに来たわけではありませんので』

『とてもそうは思えないがな』

『ふぉふぉっ、これは手厳しい!…兄者、剣を下してください』

 似非紳士の言葉で剣を下す鎧。

『…ほう、そいつはお前の兄貴か。随分似てない兄弟だな。それとも、お前も首が外れたりするのか?』

『まあ、いいではありませんか。似ていない兄弟もいる。そうではありませんか?』

 揶揄するように言葉を投げかけるが、気にした様子もなく話を進める似非紳士。その態度に肩透かしを食らった気分を味わいながらも、話くらいは聞いてやるかと思うようになっていた。

『……で、話っていうのはなんだ?』


 そして、聞かされた話のあまりの突拍子のなさに、今度こそ信じられなくなった。

『旧き神の復活だと…!?そんなことが起こり得るのか!』

 あの女神と会った時に違和感はあった。あいつが同族殺し何て大層なことをやってのけるような人物には見えなかったのだ。

 それが、まさか最後に美味しいところだけをかすめ取った存在だったとは…。

 この世界に伝わっている神話が崩れ、さらに邪神ときた。さすがの俺でも笑えてくる。それほどまでに荒唐無稽な内容だった。

『そうです!そして、我々はそのために力を集めています』

 似非紳士――ビジュワールという男が言うには、ある力を持つ者。あるいは持つ可能性のある者を集めているという。

 まず似非紳士の兄。鎧の男ヴァルジャーのジョブ鍵師。そして、ヴァルジャーが抱えている頭だけの女ジュリアンは旧き神の言葉を伝える通訳。あともう一人テレポーターという移動手段を確保しているそうだが、肝心な力を持っている人物たちがまだ見つかっていないという。

『肝心な力。それこそが魔女と開発者メーカーなのです』

 そして、俺は開発者の素質がある人間らしい。

『待て、意味が分からん。そもそも開発者とはどういう力なんだ?』

『我々もまだ掌握できていない力なので完全には説明はできませんが、神がおっしゃるにはスキルを生み出すことのできる存在だとか』

『スキルを生み出すだと!?』

 そんなことができれば、この世界ではまさしく最強だ。

『そして、魔女とはスキルとは別の力…魔法を生み出せる存在だと我々は聞いております。そして、魔女こそが神の復活の鍵となる存在であると』

 こいつらの話が真実だという保証はない。だが、これほど面白い話もない。この世界に来てから鬱屈としていた気分が晴れていくのを感じる。

『…いいだろう。その話に乗ってやる』

 こうして俺はフォルプランツなる連中に力を貸してやることにした。


 事態が一変したのは、俺がフォルプランツに入ってから少しした頃。

 魔女が目覚めたことに気付いた連中が魔女を確保しに行って帰ってきた時だった。

『……それ、が、魔女だと!?』

 俺は珍しく狼狽したし、驚愕した。

 なぜなら、奴らが連れ帰ってきたのは幼子。それも俺が見知った存在だった。いや、見知ったなどという表現は生ぬるい。そいつについては俺が一番知っているという自負がある。いかに、そいつと離れた時間があろうとも、一年近くほぼ離れることなく過ごした俺よりもそいつを知っている人間がいるとは思えなかった。

『ふぉふぉ、さてこれで残すはあなたの覚醒を待つだけとなりましたな』

 祭壇にその幼子――ペソをまるで供物のように寝かせながら告げられた言葉に、俺の意識は一瞬過去に飛んだ。

 それは、まだ両親が生きていた時代。最後に兄を見た時。あの時のような、どうしようもない感じとそれでいて血が沸き立つような不思議な感覚だった。


(あぁ、これが俺の運命だったのか)

 その時もこう感じたが、今もそうだ。俺は抗えない運命の力を感じ取り、そして受け入れた。




 そうだ。何を迷う必要がある?俺は、もう狂うことを受け入れたではないか!

 だったら、目の前のごみを倒し、新たな力を手に入れる。ただそれだけだ!

「…来い、虫けら。前世の因縁ともども、俺の宿命への糧としてくれる」

 手を広げ、迎え入れるような仕草。

 まるで物語に出てくる魔王のようだと思いながら、俺は心のそこから嗤ってやった。

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