ブタの串焼き?丸焼き?
主人公初の戦闘シーンです。
「せりゃああ!!」
『貴婦人の話題』のホームを出た俺たちは、順調に依頼品を確保していたのだが現在は魔物に襲われている。というか、魔物を見つけたペルニカさんによって実戦練習をさせられているという方が正しいかもしれない。
魔物はブヒヒントン。その名の通りまるっきりブタだ。違いがあるとすれば鎧をまとっていて凶悪な牙があることぐらい。ちなみに鎧のように見えるのはこいつの脂肪が固まってできた殻であり、大人の個体になればなるほどより頑丈になっていく。
ペルニカさんの指導は俺が戦うことに怯まない程度に段階を踏んでくれるので大変ありがたいが、やられるギリギリになるまで手を貸してはくれないので結構キツい。
現に俺の武器が全く歯が立たず、むしろ刃が欠けていっていいるのに彼女は腕を組んだ状態で動こうともしない。
俺の武器は包丁だ。包丁と言ってもバカにするなよ?なんていったって身の丈ほどもある包丁だからな!
…えっ?それは、本当に包丁かって?包丁だよ!元の世界でもマグロの解体包丁なんかは結構出かかったんだから。ちなみになぜ包丁かというと単純に俺のジョブが料理人だからそれにあった武器をということになった。まあ、その中で冒険者っていうイメージが一番強かったのがこの包丁だっただけだが…。
この世界に剣や槍といった元の世界での一般的な武器はあまり存在しない。同族殺しが禁止されている世界であり、同族で殺意を向けてしまうとその感情が一気になくなってしまう。そのような負の感情が魔物を産んでいるわけだが……。そのため、人間相手に使うような武器は儀礼用の見た目重視の飾りにしか使えない。
「ブギャヒィィ!」
「うおっ!」
「コラー!ボーっとするんじゃない!戦場だったら死んでるぞ!」
「す、すいません!」
ちくしょう!このブタのせいで怒られたじゃないか…。だったら、使うか。
「喰らえブタ野郎“フレア”!」
呪文を唱えると小さな火の玉がブタ野郎にぶつかる。運よく眉間に当たったおかげでブタ野郎が怯んだ隙を逃さず下顎に包丁を振り抜いた。しかし、刃が欠けた包丁では大したダメージは与えられず、少し体を後ろに反らした程度。
(だったら…!)
「“フレア”“フレア”“フレア”ーーー!!」
複数の火の玉をブタの足元に放ち、小さな爆風を起こす。その衝撃でブヒヒントンは仰向けになり、無防備な腹をさらした。瞬時に起き上がろうとするが、俺も飛び上がり、包丁を突き刺す。
「ブビイイィィ!」
悲鳴を上げるが、まだまだ余力はある。ここで油断すれば一気に形勢が不利になるのは目に見えている。かと言って【フレア】を使っても大したダメージは与えられないのは明白。
……どうする、どうすればいい?
自問自答している間にもブヒヒントンは鎧状の皮をうまく使って起き上がろうとして来る。振り落とされないように必死でしがみついているが、このままでは時間の問題だ。
俺がやられそうになったらペルニカさんは助けてくれるだろう。だが、いつまでもそれじゃあ意味がない。ペルニカさんが一緒に行動しているのは俺の借金返済までと言う短期間限定。それからは独りで行動しなくちゃいけないんだ!だったら、どうするか自分で決めろ!
何か決定打を与えられるようなもの…、そうかコレならイケるかもしれない。
「残りの魔力全部くれてやる!上手くいけよ“フレア”!!」
ブヒヒントンに刺さっている包丁の腹へ全魔力を使い切る勢いで俺は【フレア】を使っていく。すると、あと10発は撃てるだろうと思っていたのに途中で一気に魔力が消失していく。
いや、消失してるわけじゃない!これはむしろ何か別のモノに魔力を奪われてる!
「……これは!」
魔力の減少に原因を探していた俺の目に飛び込んできたのは、真っ赤に燃える包丁だった。まるで包丁そのものが炎を纏っているようなそんな状況。そんな状況だったが、魔力減少の原因のことなど忘れ、包丁に魔力を注ぎ込む。それが正解だと本能がそう告げている。
(これで駄目なら、もう打つ手はない!ここが俺の正念場だ!見せろ、根性!!)
「いっけーーー!!」
残りの魔力をすべて注ぎ込んだことで一気に脱力するのを感じる。
(どうなった!?)
「……よかった」
包丁はより炎の魔力を帯び、煌煌と輝きを放ちつつ自己主張していた。まるでそれこそが本来の姿なのだと言わんばかりに。
力が溢れてくるのがわかる。これならいける!そんな確信を抱き、残った力で包丁を押し込むと包丁はブヒヒントンの身体を焦がしながら身体を貫いた。
ブヒヒントンの大きさは大体普通の豚よりも二回りほど大きい感じです。
次回は主人公が使っていたフレアや最後に使った技がどういうものかを簡単に説明します(ペルニカさんが)