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魔女の森④小さな魔女

「とりあえず、工房内を案内しよう。作られる工程を見ておけば、何かいいヒントがうかぶかもしれんからな!」

 言われるままについていくと、その先には先程までとは全く異なり、熱気が漂っていた。

「おお~、今日も皆血気盛んだな!」

 血気盛んは違うような気がするが…。まあ、言いたいことは伝わるから問題ないか。たしかに、工房は代表のチェコさんの態度とは裏腹に神聖なほどの張り詰めた空気が伝わってくる。

 ここがいかに職人たちにとっての聖域であるのか。それを物語っているような、見ているこっちが息を詰めてしまうような雰囲気が充満していた。


 至る所で、杖を作り上げるカンカンという金属音や削る音が聞こえてきて物作りの楽しさを思い出させてくれる雰囲気が伝わってくるようだ。


「…さて、どこから案内するか。とりあえず、材料から見ていくか?」

 そして、向かった先には様々な材料が所狭しと並べられていた。

「これは、竜蛇ナダルヘルの牙、こっちはボーンバイソンの角と骨の欠片、こっちは――」

 材料を一つ一つ手に取って解説をしてくれるが、そのどれもが一筋縄では手に入らないような貴重な素材ばかり。

(今の、俺たちでもこれらをすべて集めるのにどれだけの時間がかかるか…)

 改めて魔女の森のレベルの高さに驚嘆してしまった。

「どうじゃ?ピンと来るものはあったか?」

「……どれも素晴らしい素材でしたけど、それを見ただけでは何とも」

 そして、シスターハイネも杖に関しては妥協するつもりがないらしい。

 自分の中のイメージがうまくできていないのか、彼女は未だに悩ましげな表情を浮かべ、決めあぐねているようだ。

「では次、行ってみよう!」

 めげることなく次の場所へと向かうとは、チェコさんもお茶らけて見えるがちゃんとした職人なんだな。


「次は、杖の形じゃ!素材が魔物あるいは植物、鉱石などと様々あるからな。それに応じた形になっていく。素材も合わせればその組み合わせは数千、数万通りを軽く超える」

 その中から、自分の気に入った形。つまりはフィットしたものを選んでいくのか。

 こりゃ根気のいる作業だな。そう思ったが、実際は違うらしい。

「まぁ、大体作る職人によってこの素材はこの形!と決めてしまっておるが…」

 職人も作りたい物を作るという方針があるらしく、よっぽど細かく注文がない限りは自分たちの気に入った形に収まるそうだ。

「客が求めるのは性能。それに、素材を指定した段階で客もある程度どういう形になるかわかっているからなぁ」

 苦笑しつつ、「これまでの先達たちの積み重ねにはなかなか及ばんよ」と自分の未熟さを恥じているようだ。


 杖の形としては、ゲームや小説などでよく見た先がぐるぐると蜷局とぐろを巻いた形になっているもの(素材は植物)。それに、シスターハイネが使っていた(アネストさんに壊された)ような金属の棒状で先端に石がはめ込まれているタイプが多かった。

 変わった物はやはり魔物素材の物で、それは素材の形を生かすようにしてものが多かった。


「よーし、では最後。杖の最も重要な魔法を込める作業を見せてやろう!」

 段々乗ってきたチェコさん。この人、たぶんだが本来の目的を忘れ始めていると思う…。


「凄いな…」

 こんなに魔法が使われてるの初めて見た。

 工房の一番奥、そこで行われていたのは様々な魔石に魔力を込めている光景だった。

「一応、ここではちゃんと錬成師がやってるけど、魔法を使っているのはいろんなジョブの人がいるよ~」

 言われてみれば、魔法を使っている人と魔石を作っている人は別の人の場合が多いな。

 というか他人の魔法を込めることも出来るのか。

「…あれは“ライト”じゃないのか?」

 ふと気づくと、俺も使うのことのできる光魔法“ライト”のように光の魔法を使っている人が。ただ、“ライト”はその名の通り明かりを灯すだけの魔法のはず。だが、目の前の光魔法は確かなダメージを与えるいるように見られる。

「あれは、同じ光魔法でも“シャイニー”ね」

「“シャイニー”?」

 聞いたことないな。

「簡単に言えば“ライト”と違って、攻撃に使うタイプの魔法ってことよ」

 あれっ?何か、呆れられてる?

 たったこれだけで?

 未だにこの人のことはようわからんわ。

「他にも“フレア”や“アース”などいろいろあるぞ」

「本当ですね~。なんというか凄いのですが、目がチカチカしてくるのですよ」

「……まったくだな」

 せめて外でやれよと思わずにいられない。

「なんなんだあんたら!文句ばかり言って!!」

「「「さ~せん」」」

 だって退屈なんだもん。

 俺たちの言葉と心が合致した瞬間だった。




「はぁ~、無駄に疲れた」

 見学だけで疲労困憊になってしまったチェコさんはそのまま自分で作ったケーキを食べていた。

 ちなみに、俺とマグタ以外は皆ごちそうになった。

 やっぱり、子供と女の人は甘いモノが好きなんだな。

「…やっぱり、いまいちピンと来ないのよね」

 シスターハイネ?文句を言うのはいいですけど、不満と共にケーキを食べ進めるのはどうかと…。もう既に5皿目ですよ?

「ふぅ~む、ここまで難しい客は初めてです…」

 とうとう、チェコさんが頭を抱えてしまった。


「よし!お主ら、今持っている武器を全部出せ!」

 苦肉の策?いや、単なる暴走?

 突如としてそんなことを言い出したチェコさんに、俺たちは意味が分からずただただ視線を向けるだけ。

「どうした?早う、早うせいよ~」

 いや、意味わからんよ。

「今しかないのだ!今私は糖分を摂取して頭がフル回転中!まさに、今ならば世紀の大発明が思い浮かぶはずなんだよ!」

 ……信じられない。

 どう見ても、今のチェコさんは駄々っ子そのものだ。

 全員が視線で「どうする?」と相談するが、いい案など出ては来ない。

 だったら、しょうがない。やるか。


「しゃあねえ、どうせいいアイディアなんて出てこないんだから出してやるか…」

 そうして俺たちの武器がテーブルの上に並べられていく。

 ヤノンのドッキリクラッカー、ムサシの葱丸。それに俺の灼月と骨付き肉。こうしてみると、このパーティってほとんど武器を使わないメンバーだったんだな。

「おおっ!こ、これは一体……」

 当然、食い付くのは俺の骨付き肉。

 そりゃそうだよな。




「ぺしょ~」

 チェコがシィドの武器に食い付くより少し前、早々とケーキを食べ尽くし暇になったペソは再び工房に戻って来ていた。

 幼い少女の瞳に魔法の光が映し出されては消えていく。その瞳は新しいものに爛々と輝き、大きく見開かれていった。

「ペソッ!!」

 そして、目の前で消える光に手を伸ばしては消える。それを繰り返していくうちに、彼女の中である力が芽生えていく。


『――いい子ね。あなたに力をあげましょう』


 風に乗って届く女性の声。それは少女にだけ届くと流れるように消えていく。

 この時、少女の右手に施されていた模様が人知れず変化したのだった。




「これは、なんっとも面白い!!」

「わかった。わかりましたから!」

 だから、俺の武器にくを持って行かないで。小躍りするのはやめい!

「なんなのだこれは!どうやって手に入れた!?」

「……はぁ~、やれやれ」

 こうなるともう何を言っても聞かないな。

 俺は渋々と特殊スキル【調理】について説明していった。


「なんと!【調理】そんな面白いスキルが出ていたのか!なぜ私には現れないっ!?」

 くっそーと本気で悔しがっていた。

(なんとなくだけど、気分いいな)

 ちょっとした優越感を味わっていると、チェコさんが何やら思い付いたようだ。別に何か言ったわけではないが、見開かれた目とピーンとアンテナの様に立ったアホ毛を見れば嫌でもわかる。

 さて、どんな無理難題が飛び出すのやら…。

「シィド!一緒に杖を作ってくれ。お菓子で作られた杖を!」

 まさか、そう来るとは…!

「それ、最高っ!!」

 そして、俺が答えるよりも早く一番テンションが上がった声。

「……シスターハイネ?」

 本当にあなたですか?

「シィドさんお願いしますね!」

 あぁ、これもう決定事項なんだ。


(そう言えば、異様にケーキに食い付いてたもんな~)

 何を言っても聞きそうになり二人を諦観しつつ、奇想天外な杖が出来そうだな~と不安を感じたのだった。




「…ようやく目覚めたか。魔女め!」

 魔女の森から遠く離れた場所で力の波動を感じ取った者たちがいたのだが、シィドたちがその存在に気付くのはまだしばらく先の話だった。

 次回材料調達

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