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亡者との再会

 ペース早めで進行しておりますので物足りなく感じるかもしれませんが、ご了承ください。

 深夜。教会本部の前に、一つの人影が現れた。

 その人影はしばらく教会を凝視したのち、ゆっくりと歩きはじめる。


「――止まりなさい」

 そこに掛けられる有無を言わさぬ声。

 見上げた先には一人のシスターが突きを背後に背負い、立っていた。


「私の名はデミ・ハイネ。教会枢機卿が一角!卑劣な蛮行におよび、神聖なる教会を穢す者に神罰を与える」

 厳かな声色で伝え、跳躍する。

「……」

 亡者と呼ばれた襲撃者も彼女を迎撃すべく武器を構える。

 その武器を遠く離れたところから見ていたシィドは声を上げる。


「シスターハイネ!その武器は危ない避けろっ!!」


「っ!!」

 咄嗟の声に反応し、辛くも射線上から外れたシスターハイネ。

 地面に転がりながら、彼女は先程まで自分がいた空間が切り裂かれているのを目にした。


「……生きていたんですね」

 完全に物陰から姿を現したシィドはゆっくりと襲撃者――亡者へと近付いていく。

 その顔には動揺と安堵が入り混じっていた。

 亡者もシィドが自分の正体に気付いていると察し、無言でローブに手をかける。

 そして、襲撃が始まって以来幾度も返り血を吸ったローブの下に隠された素顔がようやく顕わになる。


「――久しいな。シィド」


 ローブを取り払った亡者――イリス・アネストは月光で照らされる中、純粋に再会を喜ぶかのように笑みを浮かべていた。

 顔の右側には大きな傷跡があり、傷跡を隠すように黒い布が巻かれていた。


「……報告を聞いてよもやと思いましたが、本当に生きているとは思いませんでした」

 シィドたちは生き残った教会職員の話を聞き、そのような――人を殺す――ことが出来るのは一人しか知らないとかつて戦い、そして命を救ってくれた人物のことを思い浮かべた。

 しかし、すぐさま頭を振って否定する。

 彼女は死んだのだ。それも自分たちの目の前で。

 だが、一度芽生えた不安はそう簡単に拭い去れるものではなかった。

 ――彼女の死体は見つかっていない。

 ――彼女が殺した人間の首も見つかっていない。

 ――あの崩落の中、逃げる手段を示した彼女には別に逃げ道があったのではないか?

 そんな疑問が湧いては消えを繰り返していく。

 だから、今宵シィドたちは待ち伏せることにした。

 シスターハイネはもとより亡者を許すつもりなどなかった。彼女はシィドたちが様子見をすると言っても、それに力を貸すことはなく、自分の手でケリを着けると言って聞かなかった。

 だからこそ、シィドたちは物陰に隠れた。

 もしかしたら彼女以外があのジョブに目覚めたのかもしれないという僅かな希望に縋るために…。

 しかし、結果は最悪の形で現れた。

 亡者が取り出した武器を見た瞬間、シィドは敵の正体を悟った。

 亡者の武器は自分がへし折った剣だったからだ。


「……どうやら、あの崩落無事に逃げ延びることはできたようだな」

 敵対しているにも関わらず、彼女はシィドたちの無事を喜んだ。

「やはり、ジュリアン様は正しかった。すべてがジュリアン様の仰るとおりに進んでいる」

 いや、無事を喜んだのではなく、忠誠を捧げた人物の正しさに酔いしれていた。

 残された左目に何を映しているのか。左目はかつて見た時よりもひどく濁っているようにシィドたちには感じられた。


「……再会の挨拶は済みましたか?」

 それまでじっと黙って機会を窺っていたシスターハイネだったが、シィドたちが目の前の亡者に畏怖を覚えた瞬間、攻勢に打って出た。

 いくつも放たれる魔法。

 それがぶつかっては爆発を起こし、亡者となったアネストの全身を包んでいく。

「――温い」

 しかし、シスターハイネの攻撃は彼女の前では意味をなさなかった。

 ブンッと風切り音がしたかたと思うと、爆炎が裂け、無傷のアネストが姿を現す。

「今宵は良い日だ。まさか普段は本部の奥深くで引きこもっている枢機卿と遭遇できるとは…」

 胡乱気な瞳でアネストはゆっくりと近付いていく。

 その歩き方はまるで魂の入っていないような…まさに亡者だった。

「…あなたの、目的は何なのですか?」

 アネストの様子に得体のしれない恐怖を感じながら、シスターハイネは詰問する。

「……目、的?」

 アネストは質問の意味がわからないと言わんばかりに、ボーっとして笑い始めた。

「何がおかしいのですか?」

「いや、何。目的か、私の目的など知れている。我が主をジュリアン様を穢した教会の連中を葬ること以外にあると思うか?」

「………やはり、そうですか」

 半ば予想していた答えに、シスターハイネはただ頷くだけ。

「では、もはや目的はないのではありませんか?」

 少なくともここには、と彼女は意味深な発言を続けた。

「…………?」


 傍から聞いていたシィドたちには何のことかわからなかった。

 だが、シスターハイネはここには目的はないという。それは、彼女に襲撃の様子を伝えに来た信者たちの様子から襲撃者に狙われる覚えがある。あるいは被害者に共通するものがあるはずだと推測し、襲撃の時まで彼女は資料を漁っていた。

 そして、見つけた。

 共通点はとある支部の名前と教会の恥部ともいえる不祥事の数々。すぐにでも糾弾すべきだが、その相手はもう物言わぬ死体と成り果て、【降霊】をしたところで罪に問えるわけではない。ここから先は神の使途ではなく、神の領域だった。


 だからこそ、彼女はアネストに問いてみた。

『彼女の復讐すべき相手はもやはここにはいない。何のための復讐なのか?』

 しかし、その真意が彼女に伝わることはなかった。


「……目的ならあるさ。教会にはまだ生きている人間がゴロゴロいるだろう?」

 さも不思議なことを言っていると彼女は一笑に付した。

 復讐を成し遂げた彼女の目的はもはや別のものへと移り変わっていた。

 自分たちを、自分の主を裏切った教会そのものへの復讐へ。


「……何を言っても無駄なようですね」

 アネストの眼を見て、彼女はすべてを悟った。

 だからこそそれ以上は何も言うまいと武器を構える。

 それはアネストも同様だった。

 彼女は確かな意思で、信念の宿っていない剣を構えた。


「「――――!!」」

 二人の気迫と殺気が重なり合った時、まるで打ち合わせをしていたかのように同時に動いた。

 アネストは先程どうようにすべてを切り伏せるために。

 シスターハイネは先程とは打って変わって、魔法を使わず、杖術によって説き伏せようと真っ直ぐに杖を突き出した。

 想いの強さは変わらない。ならば、二人の勝敗を分かつのは覚悟の強さ。

 何を犠牲にしても構わないという覚悟が、この時の勝敗を決した。


 ビキッ…!ぶつかった衝撃で武器に罅が入り、粉々に砕け散った。

「グッ…!?」

 破片が飛び散り、視界を覆い尽くす中、それでも前を見ていた彼女は相手が一瞬目を逸らした際にも純粋に攻撃を放った。

「ぐあああっ!」

 傷を負い、悲鳴が上がって遅れて武器が地面に落ちる。

 一瞬の攻防。終わってみると呆気ないほどの幕引き。

 折れた杖が刺さったアネストは貫かれた肩を押さえ、突き刺したままの姿勢で固まるシスターハイネは荒い呼吸と共に、肩を上下させていた。

 そして、痛みで苦悶の表情を浮かべるアネストの瞳には先程までとは打って変わって、亡者と呼ぶには似つかわしくない、生気がたしかに宿っていた。


 武器を折られてなお、自分の信念を曲げることがなかったシスターハイネ。正気を失い、過去の妄執に囚われているアネストが現在いまを生き、世界を愛している彼女に勝てるはずなどなかったのかもしれない。

 次回アネストが語る事。彼女がもたらす情報が彼らの旅をより過酷なものへと変えていく。

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