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はじめの二歩

冒険準備編が開始です。

「ふああ~、朝か」

 カーテンの隙間から差し込む朝陽が顔を照らす眩しさで目を覚ますと、今ではすっかり見慣れた部屋で出かける準備を始める。酒場で泥酔して目が覚めたら全く知らない部屋にいたことと4日も経っていたことにはさすがに驚いたが…。

 目覚めてからは慌ただしい日々を送っている。アフィが気を利かせてくれたおかげでジョブには早々についていたのだが、冒険者の登録や冒険者をするうえで必要になってくる知識を覚えたり、装備や魔法を使ってみたりと慌ただしい日々を過ごし気が付けばもう家ができる日になっていた。

「さて、今日も元気に借金返済頑張るか!」

 装備を整え、気合を入れてから部屋を出る。この部屋とも今日でお別れかと思うと感慨深いものがある。

 荷物は少ないが、この部屋を使うのは今日で最後なので名残惜しみながら部屋を後にし、カウンターにすべての荷物を預ける。冒険者になったおかげで冒険者ギルド内の預り所に荷物を預けることができるのは嬉しい限りだ。

 じゃあ今日も元気に行くかな。目指せ借金の早期返済!残りはあと38万500M。

 ……えっ?増えてる?うるせえ、装備とか買ったら必然的に増えたんだよ!これでも少しは返済したんだゴチャゴチャ文句は言うな!

「……はぁ、早く減らねえかな」

 足取りが重くなるのを感じながらギルドを後にした。


 ギルドを後にして向かったのはフィアード最大手クラン『貴婦人の話題』の本拠地。白い豪邸と呼ぶにふさわしい建物で、門扉には彼女らのクランのシンボルであるティーカップを持った女性が描かれている。

 中ではテーブルに座って駄弁っている者、寝ぼけ眼で寛いでいる者や装備の点検に余念のないモノなどがいる。

「こんにちはー、今日もよろしくお願いします」

 挨拶をして中に入ると気づいた人たちが声をかけてくる。

「あっ、シィド君!いらっしゃい」

「シィド、どうよ?少しは強くなったのかん?」

「しぃどくぅん、いらはい~~」

 ここ数日ずっと通い続けて知り合いになった人たちから声をかけられるのももう慣れてしまった。その流れでカウンターに行ってペルニカさんを待つのがここ数日の流れとなっている。しかし、今日はいつもとは違った。

 俺がカウンターに近づいて行くと轟音が鳴り響き、次いで扉が吹き飛んできた。

「うわぁっ!」

 慌てて飛びのくと扉がカウンターに当たり、カウンターともども粉々に砕け散っていく。

 その光景に何事かと皆が吹き飛んだ扉の方向をじっと見つめていたが中から現れた人物を見た瞬間に緊張が取れ、またかといった感じで作業に戻っていく。俺も同様に見つめていたが、煤だらけになってごほごほと煙を吐き出している姿を確認すると納得してしまう。

「何の騒ぎですのっ!?……って、ヤノン!またあなたですのっ?」

 騒ぎを聞きつけて二階の居住スペースから盟主(クランマスター)であるリリィさんが現れた。朝が弱いらしく、いつもは昼前にならないと起きてこないので、寝間着に上着を羽織っただけのあられもない姿で現れていた。

「いやぁ~、すいませんマスター。今度はイケると思ったんですけど、やっぱりドクドク桐は加工には向かないんですかね?」

 注意された人物は叱られたのをどこ吹く風と聞き流し、失敗の原因を考え始めていた。

 彼女はヤヤ・ヤノン。『貴婦人の話題』の新入りで、あまりにも施設を破壊することから悪い意味の有名人。ノエルと並びフィアード問題児トップ5に挙げられる人物だった。

 初めて冒険者ギルドを訪れた時に会ったジュリさんがギルドを訪れていたのも彼女がホームを破損したためその報告に来ていたのだという。本人は何をしていたのかというと彼女じゃないと何を使ったかわからないので破壊されたホームの修繕を行っていた(やらされていた)。

 俺自身も彼女の騒動に巻き込まれるのは初めてというわけではない。彼女は大体2日に1回は問題を起こすのだ。

「シィド君、こっちこっち」

 未だ呆然と突っ立っていると奥の方でペルニカさんがこっちへ来い来いと手招きしている。

「……へっ?し、シィド…さん?」

 なんだろうと思いつつペルニカさんのところへ向かおうとしたところ、ペルニカさんの声で俺の存在に気付いたらしいリリィさんと目が合う。ペルニカさん結構な小声だったのにあれで聞こえたのか。上級レベルの冒険者の身体能力に感心してしまう。ただ、ペルニカさんがあちゃ~という顔をしているのに気付けていたらこの後に訪れた悲劇を避けられたのかもしれないと俺の未熟さを呪追うことになった。

「…き、」

「……き?」

「キャアアーーー!!」

 徐々に顔を真っ赤にしたリリィさんが悲鳴を上げたか思うと彼女愛用の傘で顔面を横薙ぎにされていた。

「ぶへぇ!!」

 俺はその勢いのまま壁にめり込み必死に抜こうとしている間にリリィさんはドタバタと自室へ戻って行ってしまった。

「…ぶはぁっ!あ、あぶねぇ…!」

 まったくなんだってんだ?いまいち状況が呑み込めずに混乱していると……、

「いやいや、私の代わりに怒られてくれるなんてなんていい人なんでしょう」

「……ヤノン。誰が身代わりに怒られたんだよ!俺はそもそも怒られた理由すらわかってねえっつうのに…」

覗き込むようにしゃがみ込んだヤノンは無駄にニコニコしながら話しかけていたのに、俺の答えを聞くむしろニマニマに変わり、さらに愉快そうな顔をしてくる。

 こいつのこういうところがダメなところだと思うのだが…。まあ、こういう奴にはちゃんと天罰が下るようになっているから問題ないか。いつの間にか彼女の背後に立っているペルニカさんが拳を振り上げているのを眺めながらそんなことを考えてしまう。

「少しは、反省しろっ!!」

「ぎゃん!」

 頭に重い拳骨を受けたヤノンはそのままばたんと倒れると他の団員たちが慣れた手つきで彼女を引きずっていく。顔を床にがんがんとぶつけながら引きずられていく彼女を見ながら、せめて腕を持ってやればとも思ったが自業自得なので深く言及するのはよそう。

「…見苦しいところをみせて悪かったね」

「いえ、もう慣れてますから。……あっ、いえ別に深い意味はなくてですね…」

「……ははっ、わかってるよ」

 げんなりしてしまったペルニカさんに悪気はないと伝えようとしたのだが…。慣れちゃったからつい口をついちゃったんだよな。

「……ちょっと、時間も経っちゃったしさっさと行こうか?」

 リリィが戻ってこないうちにとぐいぐい引っ張られて本日の仕事へと向かっていく。

 ……結局リリィさんはなんであんなに慌ててたんだろうか?


「…えっ!?シィド君、リリィが何であんな風になったかわからないの?」

 道中、ペルニカさんとホームでのリリィさんの様子の原因がわからないと告げると驚かれてしまった。

「ええ、そんなに驚くことですか?」

「……はぁ、落ち人って皆こんなに鈍いのかな?だったら、リリィも大変だよ。…いい、シィド君。リリィは君に寝間着姿を見られたのが恥ずかしかったんだよ」

「…へっ?そうなんですか?別に気にしませんけど」

 普段からリリィさんは寝起きが弱いから朝方に行くとだらしない姿を見せている時があるのでまったく気にならない。ペルニカさんに伝えると「…はぁ」とため息をつかれてしまう。

「まったく、わかってないなぁ~。女っていうのは身だしなみに気を使う生き物なんだよ?しかも、リリィは貴族の令嬢のような優雅な女性に憧れているんだから。そんな彼女が寝間着を見られて恥ずかしくないわけないでしょ!」

「でも、リリィさんが好きなのはアフィじゃないんですか?」

「そういう問題じゃないの!よほど嫌いな人間じゃない限りは相手がどう思うかも考えるんだからね」

 女心がまったくわかってないんだからと憤慨しながら彼女が去っていく姿を首を傾げながら見つめていた。

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