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船上の一幕

「あ~これうんまぁ~!」

 顔をそよぐ風、それを感じながらコリコリとする食感を楽しむと内から外から磯の香りが広がっていく。


 俺たち――いつものパーティメンバーにシスターハイネ、マグタを加えたメンバーは今、女神ディアイラの言葉に従い、帝国へと向かうべく船に乗っていた。


「それにしても、不思議な食べ物だよな~」

 ミルルはそう言うと、薄緑色の物体に視線を移した。

 それは見た目は石のような海藻で名称はサンゴ草。海底でサンゴのように石化することからその名前が付けられたものだった。

「だよね!このままだったら石みたいなのに、お湯で戻したら食べれるなんて信じられないよ!」

 双子の片割れルルミちゃんもミルルの意見に賛同し、美味しそうにサンゴ草に齧りついてはポキッと折れる音が聞こえる。


 そして、そんな爽やかな光景とは真逆の光景が船先では繰り広げられていた。

「「「うげぇぇええええ」」」

 ヤノン、キャロル、マツリが気持ち悪そうに手すりにもたれ掛りながら海を覗き込んでいた。

「…………」

 そして、そのすぐ横ではグロッキーになりすぎて白目を剥いているマグタ。

 この間襲いかかってきた人物と同一人物とは到底思えないほどに彼は衰弱し、修道服も体調を表すように赤から青へと変色していた。

「マツリ!大丈夫でござるか?」

「ほら、しっかりなさいな」

 そしてそんな4人の背中を擦ったり、薬を渡したりしつつ看病しているムサシとシスターハイネ。戦場は見事に船酔いするグループと船酔いしないグループに分かれていた。


「大変そうだな」

「だよなー。船酔いする体質じゃなくてよかった~」

「ボクも~」

「よっし、じゃあそろそろ別メニュー。サンゴ草の唐揚げを作るか!」

「「賛成~!」」

 船酔いグループを無視して盛り上がっているとシスターハイネの叱責が飛んでくる。

「ちょっとあなた達!食べてばかりいないでこちらを手伝いなさいっ!」

「「「えぇ~!」」」

 文句を言った俺たちに、彼女は無言で杖を構える。

「うわわっ!わかった。わかりました!」

 だから、こんな狭い場所で攻撃しようとするのはやめろ!

 渋々と看病グループに加わっていったのだった。


「…帝国って後どれぐらいで着くんですか?」

 ヤノンの看病をしつつ、気を紛らわせようと質問をしてみた。

「そうね、大体あと4、5日ってところかしら?ただし、天候が安定していたら…だけどね」

「あ、あと、5日も続くのですか…?」

 絶望で顔面蒼白にしつつ、ヤノンが胃の中の物を吐き出していく。

 うぅ~ん、この話は逆効果だったか。

 だけど他に聞くこともないしな。

「帝国ってどんなところなんです?」

 なんかイメージ的には独裁国家っていうイメージがあるんだが。向こうの世界の知識、と言ってもゲームや小説などの知識だが。それでは帝国とは悪のイメージがすごく強い。

「帝国はこれから向かう大陸を支配する一大国家ね。帝国は唯一大陸制覇を成し遂げているわ」

 へぇ~、そりゃ凄い。

「正確に言うと制覇というよりは皇帝の名の下に国が団結していると言えばいいのかしら?わかりやすく言えばあなた達がいたペンタ連合国、あれはもっと大規模にしたものが帝国よ」

 つまりは、多数のキングを置いてそれを皇帝が統一しているのが帝国か。

「そして、帝国は実力主義の世界。冒険者たちをはじめ、大陸全体のレベルが最も高い国。それは生活水準や人々の精神的な面でもずば抜けていると言えるわね。

 実際、その力を見込んで教会の現本部があるのが帝国領ですからね」

「…教会本部。たしかシスターハイネもそこから派遣されてきたという話でしたが?」

 教会は冒険者ギルドと世界を二分する大勢力。その組織が本部を置くとなると相当な手練れたちが住まう魔窟とも言えるだろうな。

「そうよ。ただし、大陸についてもすぐには本部には向かいません」

 すぐには向かわないということはいつか歯向かうってことか。

 元々本部の人間だし、報告の義務などもあるのだろう。

 そんな俺の考えを読んだかのようにシスターハイネは捕捉する。

「…本来ならばすぐにでも教会本部へと向かいたいところですが」

 その時、チラッと彼女がマグタを見たような気がした。

 おそらく、マグタをそのまま同行させてもいいのか迷っているのだろう。

「それでも、女神ディアイラ様から直接託宣を受けた以上、まずは彼女が示された帝国へと赴くのがあなたの使命であり、それを見届けるのは私の義務です」

 あぁ、そっちの理由もあったのか。

 そりゃそうだよな。

 神が話したことは放置しておくわけにはいかない。それが教会の人間ならばなおさらだろう。

 その原因の一端を俺が関係しているとなると複雑な気分だが。

 彼女が一番用心しているのはマツリの存在、次点で俺と言ったところか。

 あぁ、これは自惚れとかじゃないからな?

 マツリは神をその身に降ろし、【対話】を持っていない人間にも神の声を聞かせることができる。そして、俺は降臨した神から直接託された人間。

 どうあっても彼女にとっては自分の命よりも大切なそして貴重な人間に映っていることだろう。

(そんな大した人間じゃないと思うがな…)

 まあ、いろいろあるし、今は船旅を楽しもう。


 この世界に来てから初めて堪能する海の幸。

 時折襲いかかてくる魔物も【調理】しながら、俺たちは最強の大陸を統べる帝国へと舵をきったのだった。

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