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世界の成り立ち

「どういう意味です?」

 彼女――女神ディアイラが答えるよりも先に、俺はチタニアさんに尋ねた。

「……?どうもこうもあるまい。そのままの意味じゃよ」

 だが、チタニアさんは俺の質問こそ意味がわからないという感じだった。他の面々を見てもチタニアさんの言葉には納得している様子を見せるが、俺の言葉には彼女同様に首を傾げている。

「…だって、彼女は選択の間であった神物じんぶつそのものじゃないですか!」

 納得できなかった俺は喚き散らす。

「……何?」

 その瞬間、チタニアさんの雰囲気が剣呑なモノに変わった。


「シィド、お主が会ったのは本当に目の前の…その女に乗り移っているモノなのじゃな?」

 マツリのことを知らないチタニアさんは彼女を指差しつつ尋ねてくる。

 俺は質問の意図がわからなかったが、素直に頷き返した。

「……そうか。ふむ、シスターハイネが言っていたようにシィドがこの世界に起こった様々な異変の元凶という説。あながち間違いではないかもしれんな」

「どういう意味です?」

「お前が会ったという女神じゃが、私たちは会っていない」

「えっ…?」


「いや、正確に言えば神には会ったが、その時の神はこいつではない。という方が正しいかもしれんな」


 つまり、チタニアさんたちと俺が会った神が別神だということか?

 そんなバカなという思いが頭に溢れてくるが、彼女たちの真剣な表情は嘘をついているようには見えない。そもそも、チタニアさんなら俺をからかうためということも考えられるが、他の3人が俺をからかう理由が思い当たらない。

「…何か失礼なことを考えておらんか?」

 チタニアさんから鋭い指摘があったが、今は無視。それよりも大事な案件が目の前にあるのだから!

「後で覚えておれよ?」

 …………早まったかもしれない。


「…ふむふむ、下界の者は存外相手を見ておるようじゃな。これは我々神も見習わねれならんかもしれん」

 問い質されたはずの彼女は腕を組み、大げさに頷いていた。

「だが、そうじゃな…。この状況は説明するのが簡単なようでいて面倒臭い。よってその質問は棄却する!」

「「「ハァッ?」」」

 そんなことできる空気じゃないだろう!

「…それを許すと思うか?」

 ほら、見ろ!チタニアさんがやる気になっちまったよ!

「じゃが面倒じゃし…、それにこの娘を見てみろ」

 彼女は這いつくばったままのシスターハイネを指差した。

「このように神を信仰する教会の人間が平伏しておる時点で妾が超常の存在であることは明白。よって答える必要はない!」

 堂々と言い切るなぁ…。

「だが、答える義務はあると思うがの!」

 チタニアさんもなんだか引っ込みがつかなくなってるみたいだし…。

 これは荒れるぞ、そう思ったがことは思いのほかあっさりと進んだ。


「そう言われればそうじゃの。よし話してしんぜよう」

 神が簡単に折れたのだった。

 この神の変わり身の早さには先程まで食ってっかかっていたチタニアさんも拍子抜けしたようだった。

 初めて会った時のこんな風に喰えない感じだったな~と今更ながらに思いだし、ほんの一年前のことがとても懐かしく感じられた瞬間だった。


「そもそもお主らは妾のことをどう思っておる?この場合は神ディアイラについてじゃぞ?」


 神の問いかけに対し俺たちは思い思いの言葉を並べていく。

「同族殺し」

「最初で最後の神」

「頭のおかしい奴」

 素直に印象を言ったのに俺だけ殴られた。


「そのイメージじゃが、大半は間違いじゃ」

「そもそも、妾は誰一人同族を殺してなどおらん」

「殺したのは、妾が封印した神じゃよ」

 神から語られたのは衝撃の事実だった。


 そもそも、神々がまだ世界中に点在していた頃、ある神が他の神々に戦を仕掛けはじめた。だが、神の世界ではよくあることと初めのうちは静観していたが、次第に神の数が減っていき世界を支える神力にまで影響を及ぼすほどになっていた。

 そこで生き残った神々は力を合わせ、その神の討伐へ赴く。しかし、のんびり構えていた神々と闘神のごとく己をひたすら鍛え続けていた神との実力差は歴然としており、多くの神々が命を落とした。

 そして、最後の一人になった目の前の神ディアイラは隙をついて神を封印することに成功したという。


「妾は戦を好まぬ。だからこそコメディカルティアでは同族殺しが禁止されておるのじゃ。まあ、そんな妾が唯一生き残ったというのも皮肉な話じゃがな…」

 まさかそんなことがあったとは…。

「……一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 先程まで平伏していたシスターハイネがいつの間にやら起き上がっていた。

「先程、封印したとおっしゃりましたが……、つまりまだかの神は生きておられるということなのですか?」

 そういえば、そんなことを言ってたな。封印。争いが嫌いな神が同族に対して取った手段。俺たち人間と違って神だったら封印された程度で死ぬことはないだろう。

 彼女の質問に対し、ディアイラは苦々しげに答えた。

「…ああ、生きておる。しかもその封印がもうほとんど解けかかっておる」

「「「!?」」」

 予想はしていたとはいえ、封印が解けかかっているとは…。


「妾があやつを封印したのは、そなたらが『金雲』と呼ぶ雲じゃ」


 金雲この世界で最も謎な現象にして、俺の目標。あそこに古き神が眠っているだと…。

「『金雲』はそもそも浄化作用をもたらすために作ったシステムじゃ」

 人々の悪意を溜めこみ、魔物は凶暴化する。だが、倒すことでその悪意は空へと還っていく。

 今まで悪意の行き先までは気にしてこなかったが、まさかそれが金雲に向かっていたとは。

「溜め込んだ悪意。それを金雲は世界中を飛び回ることで徐々に魔物に与える。つまりは世界の循環と自浄作用をもたらしておったのじゃが…」

 じゃが?

「人間たちの中には、悪意を放出した魔物を殺す者が出始めたことにより、悪意を溜めこむ器の数が減少し、還す先のない悪意は金雲の中で膨張していった」

「…つまり、人間の愚かさが旧き神の封印を解くきっかけとなったということですか?」

「…そうなる。もはや妾も抑えが利かぬ。最近の様々な暴走はそのせいじゃよ神の子よ」

「そんな……」

 シスターハイネにはショックが大きすぎたようで、彼女は信じていたものが壊れる重さに胸が締め付けられるような痛みを感じていた。

「……じゃあ、新しいジョブが出始めてるのもそのせいってことか?」

「そうじゃよ。そもそもジョブやスキルというのは元々が神が持っていた力でもある」

「…はぁ?どういうことだ?」

 たしかに、スキルは便利だがそれが神の力と言われてもピンとこない。

「つまりは、かの神が殺したことで失われた神力。それがスキルの源なのじゃよ」

 殺された神々の力は殺した神が吸収し、共に封印されている。

 しかし、長い年月の封印の間に神が奪った力を抑えきれなくなりそれが溢れだすことでスキルという力に繋がった。だからこそ封印が解け始めている今、新たなジョブが発生することが増えている。ディアイラはそう語っていた。

「ジョブとは、言ってしまえばスキルを扱うための道具に過ぎんということじゃよ」

「そう言われると納得できないものがあるんだが…」

 それじゃあ、スキルに振り回されてきた人間が浮かばれないじゃないか。そんな思いがどうしても過ってしまう。

「まあ、神にも人にも個性がある。スキルや技は自分で磨かねばどうにもならんものよ。そこを考えて使うのも人というものではないかえ?」

 それを言われちゃ、その通りなんだが。

 どうもこいつの言うことが胡散臭くていかんな。


「さて、妾の身の上話はこのくらいでよかろう。納得したかえ?」

「理解はした。だが、納得はせん。私は私の眼で見たもの以外は信じないことにしているのでな」

「かかっ、強情じゃの」

 毅然とした態度を崩さないチタニアさんに対し、ディアイラは喉を鳴らして笑い「それでよい」と彼女の態度を咎めることはなかった。




「さて、ここからは本題に入らせてもらおうかの」

 まだ、本題じゃなかったのかよ!?

 そう思ったが、よく考えれば彼女に質問するばかりで話を聞いてはいなかったなと思い至った。


「妾が自らこうして出てきたのには、理由があっての」

「…理由?」

 なんか嫌な予感。

「簡単に言えば、神託を授けに来たということじゃ」

「し、神託ですか!?」

 ショックで青褪めていたのに、神託と聞くとシスターハイネは背筋を正した。

 その姿を見て、俺はこの人は生粋の信仰者なんだなぁとまったく関係のないことを考えていたわけだが…。

 だが、神託を授けられたのは姿勢を正した彼女ではなく、

「シィドよ。妾が選んだ異世界の放流者よ。お主に金雲を払ってもらいたい」

「…………なんで俺だよ」

 指名された俺は重すぎる使命に顔が引くつくのを感じていた。




「お主を選んだのは単純明快。お主は唯一金雲を見て、畏怖するでも心酔するでもなくただ己が欲を優先させた。――つまりは『食べたい』という欲求をな」

 あれが原因かーー!?

 俺はこれほど自分の今までの行動を悔やんだことはない。

 アフィなどにも言われたが、たしかにその考えは異常だった。それはわかっていたが、なぜかアレを見たら食べたくなったんだよ!

 俺は誰に対してかわからない言い訳を並べていた。

「そんなお主ならばなんとかしてくれると妾は信じておるぞ!」

 ぐっと手を握り締めてエールを送って来るが、ハッキリ言って逃げたい。そんな重圧俺には耐えられない。

「…ほへぇ~、シィドさんが神様から信頼されているのですよ」

「ほほぅ、さすがシィド殿ですな!」

「…さすがというか、兄ちゃんバカじゃね?」

「アレを見て食べたいと思うのはボクにはわからないな~」

「…………ぷぷっ、失笑」

 散々な言われようだな、おい!

「ふふん、私の下僕ですもの!当然よね!」

 そして、そこのバカワン娘!余計なこと言ってんじゃねえよっ!


「そうじゃの、ひとまず海を越えて帝国を目指してみるがよかろう。そこには今までよりも過酷な試練が待ち受けておるはずじゃ。よくよく己と向き合うがよい」

 意外な人物と出会えるじゃろうと含みのある言葉を残し、最後に再び「がんばっ!」と握り緊めた拳を引き寄せるようにエールを送って帰っていった。


「あの神うぜぇえええええええ!!」

 後には、絶叫する俺とそんな俺に「不敬な!」と杖でぼかすか頭を殴りつけてくるシスターハイネ。

 ――そして、

「……ええっと、何がどうなってるの?」

 一人だけ状況が理解できず困惑した表情を浮かべるマツリの姿があった。

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