外野手~女心と上の空~
甲子園の影響で、俺の彼女が野球に興味を持ち始めた。
彼女はラジオで実況を聞いていても、守備位置がわからないから教えて欲しいと言った。
「投げる人がピッチャーで、捕る人がキャッチャーでしょ?」
彼女は指を折りながら、自分の知識を披露していく。
「一塁から順に、ファースト、セカンド、サード」
「そうそう、英語と同じだ」
俺がほめてやると、
「それじゃあ遊撃手は、フォース?」
彼女はそんなことを言った。
「なんで遊撃手がわかって、ショートがわかんないんだよ!」
「あっ、ショートだ」彼女は手を打った。「じゃあ、外野手はロング?」
「なんでやねん。ヘアスタイルかっ!」
怒鳴るつもりがなくても、つい怒鳴ってしまう。
「ごめんごめん、セミロングだ!」
「だからヘアースタイルじゃねーか!」
俺は仕方なく、ヒントを与えてやることにした。
「一塁は右側にあるだろ? その延長線上だぞ?」
彼女はあごに手を当てて、考え始めた。
黙っているとかわいいのにな、と俺は彼女を見つめる。
「一塁、右側、延長線上、でしょ?」
「ああ、そうだよ」
「右のほう、ちょっと長めでお願いします」
「床屋かよ」
「ヘアースタイルだよ!」
突っ込まれた。
俺はなぜか彼女に突っ込まれてしまった。
「ライトだよ、ライト」
俺が教えてやると。
「左はレフトだね!」
彼女は満面の笑みを浮かべた。
「それで、真ん中がだな……」
「もういいよ」
「えっ?」
「なんか野球って、将棋みたいでめんどくさい。飽きた!」
飽きるの早いよ。