第三章
廊下を走る少年―萩原純一―が目指す先は、ETC格納庫だ。少年は、ETCの亜種が世界中に拡散し出した頃から乗りこなしていた。つまりは、プロ中のプロの腕前を持つのだ。
格納庫へと向かう少年の前に、男が立ちはだかった。
???:「き、貴様!どうやって逃亡した!」
先ほどまで少年の独房前で監視していた兵士の片割れである。
???:「誰か!応援を!誰かいないのか!」
兵士は応援を要請しようと叫ぶが誰も返事しない。
純一:「茶番はその辺にしときなよ。”シャーク”さん?」
”シャーク”:「・・・・・・小僧。何故その名を知っている?」
純一:「<ウィンダス>の情報部は間抜け揃いでね。簡単だったよ、データベースに侵入するのは」
”シャーク”:「ほう・・・・・・」
純一:「まああのデータを見てなけりゃ俺はここでこんなことをしてないけどね」
”シャーク”:「な、なにを―」
少年は胸の内ポケットに手を伸ばすとそこから拳銃―倒れていた兵士から掠め取ったリボルバー―を兵士に向けた。
どだんっ!
胸から鮮血を噴出しうつ伏せに倒れるシャークと呼ばれた兵士。
純一:「なむさん。わずか数行で出番終わり」
”シャーク”は返事を出さなかった。
ETC格納庫。
ミサイルが当たった衝撃で何体かは倒れて使用できない状態にあったが運よく入り口のすぐ近くに整備済みのSH-2<ナッパー>があった。
武装は乏しいが攻撃してくるのはおそらく固定砲台だ。チェーンソー・ダガー一本もあれば充分だ。
純一:「システム、S・M起動、長距離センサーオン」
手馴れた動作でシステムを起動させる。最新型なので一〇秒もあれば起動させられた。
純一:「自動で動かせればな・・・・・・人工知能開発して搭載させるべきか?」
少年を乗せた<ナッパー>は跳躍した。
ウィル:「砲撃手!何をやっている!」
???:「申し訳ありません!」
ウィル:「謝罪はいらん!第三波はなんとしても防げ!これ以上は保たん!」
はっきり言って危機的状況だった。元々戦闘するために建てられたビルではない。目的が目的だから、こういう事態に備えて資材には世界一頑丈な合金が使われている。だが、それでも長距離ミサイルの直撃は多大なダメージを与えた。
???:「少佐!格納庫から無許可のETCが発進しようとしています!」
ウィル:「構わん!私の指示だ!」
???:「はっ、了解!」
レーダーに中型ETCの影が映る。それはミサイルが発射される方向へ向かっていた。
(頼んだからな、少年・・・・・・)
???:「更に第三波、接近!」
ウィル:「打ち落とせ!」
???:「いえ、ETCにより撃墜されました!」
ウィル:「了解!索敵怠るなよ―」
(ふぅ。ぎりぎりだったなー)
腰部チェーンガンでミサイルを撃墜したものの、足元に広がる市街地に被害が及ばないように気を使ったため、精神的にかなり疲労していた。
(一日前じゃ民間人など気にもかけなかったが・・・・・・)
自分でもどうかしてるな―と思う。実際にはそれが健全な状態なのだが、戦闘マシーンとして育てられた自分には、他人の命など塵に等しかったのだ―それを気にかけるようになっていた。
純一:「あのおっさん―ウィリアムとかいったか。大した漢だな」
自分を殺そうとした男でさえも心配する。心の狭いやつは、お人よしなどと表現するのだろうが、俺は違う。彼は―器量の大きい男なのだ。
(あれだな)
レーダーが不審な熱源を捉えた。それは動くことなく、何かを装填する動作をしていた。ミサイル発射台だ。
純一:「今まで育ててくれてありがとよ。だが―」
右手に持っていたチェーンソーダガーを一閃。
純一:「―もう貴様らの手駒にはならない!」
発射台は爆炎を上げた。形はもう留めていない。
少年はヘッドセットを装着すると、全周波帯で通信を開いた。
純一:「・・・・・・こちら萩原。敵機は沈黙・・・・・・帰還する」
エピローグ
発射台を破壊し、S.O.F本部ビルへと戻ってきた少年。
どうせ受け入れはないだろう―そう考えていたところへ、
ウィル:「了解。第三ハッチより帰還せよ。そこしか開いていない」
とバルハートが返答をよこした。
機体だけ置いてさっさと失せろとでも言われると思っていた少年にとって、この返答はとかく意外で、しばらく呆けていたが気を取り直すと本部ビルへ帰還した。
そしてその後である。
純一:「勝手に資材を使用して、すみませんでした」
ウィル:「何、構わんよ。おかげで被害は最小に留まった。惜しい方を亡くしはしたが・・・・・・」
悲痛な面持ちになるバルハートと少年。
純一:「はい。スパイがいると知ってはいたのに、それを言い出せなかった。面と向かって話がしたかった・・・・・・」
ウィル:「そうか・・・・・・ん?スパイ?どういうことだ?」
純一:「俺を見張っていた兵士の一人は、<ウィンダス>に抱き込まれた傭兵だったんです」
驚きに顔を上げるバルハート。そして、隠し事を咎めるように少年に問いただした。
ウィル:「そ、それを知っていたのなら何故―」
純一:「言ったところであなたがたには信じてもらえなかっただろうし、あの男に殺されていたかもしれませんでした。俺はあなたを殺そうとした男です。そんな奴のいうことをどうやれば信じられますか?」
そうか。バルハートも当初はこの少年のことをけしからんゲリラだと考えていた。自分主観でこの少年を見下していたのだ。そんな奴の言葉を鵜呑みには、できるはずがなかった。
純一:「とにかく。あなたがたをこれ以上危険にはさらせませんので。では」
少年は踵を返し部屋を出ようとする。
何処へいこうとするのだろうか。おそらく、あてのない放浪旅だろう。終着駅のない鈍行列車とでも表現するのだろうか。とにかく、バルハートの脳裏にはそんな光景が想像されていた。
気がつくと、バルハートは少年を呼び止めていた。
ウィル:「―ここで暮らす気はないか。俺が面倒見てやる。互いに助けが必要なはずだ」
バルハートは手を差し伸べた。
ウィル:「―俺がお前の父親になる。だから力になってくれ。家族として」
少年、いや、もうそう呼ぶ必要もないか。
萩原純一はバルハートの手を握った。
いや、すいません。携帯から読む人のことをすっかり忘れて、一万文字以上もの小説を短編でだすという愚行をしでかしてしまいました。不肖起、猛省しております。
こんな私の出す妄想を綴らった小説ですが、気が向いたら読んでください。
私はいつも小説を書くとき、何かしらのテーマを使っております。今回はずばり「親の愛」です。