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第二章

ウィル:「今日はもうお休みになられてはいかがでしょう」

幸一:「そうだな。今日はもう仕事もないしな」

ウィル:「はい。では、私は失礼します」

幸一:「おお。そうだ。これを―」

幸一は指を鳴らすと、机の反対側に立っていたバルハートの手元へCDケースを滑らせた。

ウィル:「―これは?」

幸一:「<マキナの子>計画のレポートだ。話が途中で終わったからな。ここで話てもいいのだろうが、確かに疲れた。そのロムの中に全部入ってる。言っとくが、部外秘だぞ」

ウィル:「・・・承知しました。失礼します」

バルハートが退室すると、幸一は備え付けのベッドで就寝した。


―だが、萩原幸一はもう目を覚ますことはなかった。


自室で寝ていたバルハートに、医療部からのコムリンクが入った。

ウィル:「どうした?」

医局長:「はっ。例の少年なんですが。どうやら強化手術を施されているようです」

ウィル:「と、いうと?」

医局長:「脳波に以上が見られまして・・・・・・今もその兆候は衰えません。おそらく体に何か埋め込まれていて、それが脳機能や身体機能に影響を与えているのではないかと」

ウィル:「まずいな・・・・・・」

医局長:「少佐?」

ウィル:「いや、なんでもない。ああ、そういえば。少年の腕に変なしこりがあったんだ。それを調べてくれ。気になるようなら摘出して構わん」

医局長:「はっ。それでは。お休みのところ申し訳ありませんでした」

コムリンクが切れる。


バルハートは幸一に渡されたCDを閲覧していた。それによるとあの少年は第二次創生計画により生み出された試験管ベビーの二号体だ。誰のDNAデータを基に創られたのを調べようとしたが、何故かそのデータがなかった。だが、少年の顔立ちを見る限りでは東洋人、それも日本人である可能性が高かった。ということは、あの少年はこのまま日本支部が管理するヘイワガクエンに移送するのだろうか?

ウィル:「ふむ・・・・・・一号体はどうしたのだろうか?」

データによると、六体の試験管ベビーは創られてからその一号体と二号体が何者かによって”盗難された”とあった。三号体から六号体は別の場所で”保管”してあったため無事だったらしい。

”盗難”、”保管”か・・・・・・物みたいな表現だな、とバルハートは感じていた。

(試験管ベビーとはいえ生命であることに違いはないはず・・・・・・)

嘆かわしかった。あくまでも彼らは科学によって”創られた”存在なのだ。自分のような男女の愛の結晶ではない。誰にも愛されることなくただ科学のために創られた存在。それが彼ら。そうとしか表現できないことがバルハートに暗い影を落とした。

(もし、私があの少年の保護者だとしたら、私は彼を愛せるだろうか?)

そう自問して、即答できない自分がなんとも疎ましかった。私を殺そうとしたことなんかどうでもよかった。彼を一人の人間として見れない自分に嫌悪感がした。

いや、彼が殺戮マシーンと成っているのは親の愛を知らないが故だ。それならこの自分が義父として愛情を注いでやれば―

ウィル:「准将なら彼の”親”が誰なのか知っているやもしれんな・・・・・・よし、聞いてみるか―」

その時だった。轟音と共に地面が揺れた。

ウィル:「な、なんだ?」

狼狽するバルハートを余所に、アラームが鳴り響いた。

『レッドアラート。レッドアラート。総員、非常戦闘態勢ベータ1』

ウィル:「ベータ1か。私も司令室へ行ったほうがよさそうだな」

S.O.Fにおける非常事態行動には九一種類あるが、そのうち”ベータ1”とは、「不明敵勢力による遠距離からの砲撃」だった。


司令室。不意打ちを喰らっただけに禍々しい空気に満ちていた。その場には萩原幸一准将は姿を見せていなかった。

ウィル:「ハギワラ准将はまだか?」

怒鳴りつけるように問うバルハートに隣で地対空レーダーを睨んでいた士官が答える。

???:「いえ、まだです」

ウィル:「コムリンクで呼び出したまえ」

???:「はっ、はい。司令室よりハギワラ准将。司令室よりハギワラ准将―」

館内放送と違い、コムリンクなら本人を直接呼び出すのですぐに応答してくる。だが・・・・・・

???:「応答ありません」

ウィル:「・・・・・・生体反応は?」

???:「・・・・・・反応なしです」

ウィル:「くそっ!・・・・・・・・・・・・・よし、ここは私が当面の指揮を執る。良いな?」

一同:「了解!」

ウィル:「よし、お前は―」

???:「待って下さい!遠距離ミサイル、二基接近中」

ウィル:「弾道コースから発射元を特定!索敵急げよ!」

バルハートは的確に下士官に指示を出していた。彼自身こうも慌てずに指揮系統を確立できたことに驚いていたが、昔日本にいた頃に見ていたアニメの受け売りであることは本人含め誰も気付かない。

???:「更に接近!命中まで・・・・・・七〇秒!」

ウィル:「バルカン砲で迎撃しつつ、表面装甲展開!総員、衝撃に備えよ!」

バルハートの指示で、ビル表面に装甲を展開させる。戦艦と違い、地表に垂直に建立されたビルであるため、ミサイルが命中すると、崩落する危険があるため、下手な戦艦よりも重厚な装甲がS.O.F本部ビルには装備されていた。

???:「先ほどの攻撃により二四階から二七階まで装甲展開不可!崩落の危険度五一%」

ウィル:「なにっ!二六階には、捕虜の少年が!くそっ」

考えるより先に足が動いていた。いくら自分を殺そうとしたとはいえ―あの少年にはまだ未来がある。そんな気がした。

命中まで五〇秒。高速エレベータで往復しても三〇秒とかからないが・・・・・・


少年を連れて司令室へとエレベータで戻るバルハート。拘束を解く暇はなかったため、少年がバルハートに担がれる形になっている。

???:「せめて足の拘束を解いて立たせてくれませんか?」

ウィル:「そんなことをして、私に襲い掛からない保証が何処にある?」

???:「・・・・・・」

ウィル:「准将を殺したのは君だろう?」

???:「何のことだ?」

ウィル:「とぼけるのはよしたまえ。君が准将に襲い掛かった後、彼の首に何かで刺した痕を見つけた。君が毒を塗った針でも隠し持っていたのだろう?」

???:「違う。俺は刺してあった針を抜いただけだ。親を助けるのは当然のことでしょう?」

ウィル:「なに―」

その時、エレベータが激しく揺れた。ミサイルが命中したのだ。緊急停止装置が働き、エレベータはその場で止まってしまった。

ウィル:「―そんなことでこの私をだまくらかせるとでも?」

純一:「俺の名前は萩原純一。彼の名前は知らないが、顔だけ知ってます。俺は彼の遺伝子を基に創られた試験管ベビーの二号体。だから彼は俺の親にあたるんですよ」

ウィル:「なに・・・・・・」

純一:「俺ともう一人は受精卵でしかなかった時にあの研究所から<ウィンダス>と呼ばれる組織によって盗まれた。そして彼らの下で育てられたんです。自分達が試験管ベビーであるということはすぐ知らされました。こいつがお前達の親みたいな奴だ、と」

今度はバルハートが話を聞く側になっていた。

純一:「それを知っていながらここに戻ってこなかったのは、彼らも彼らなりに俺達に世話をかけてくれたからだ。愛情など微塵もなかったが、上等な飯をくれたし、毛布を分け与えられた。生きるための力も・・・」

そういうと、少年は空を仰ぐように天井を見た。

純一:「まあ実際はその特異な身体能力を生かした戦闘兵器にしようとしただけみたいですが。任務を失敗したからでしょう。彼らは俺をこの基地もろとも殺すつもりなんですよ」

ウィル:「そんな―」

純一:「ひどくないでしょう、別に。彼らは保護者にはなってくれましたが、親ではありませんでしたから。使えなくなれば、捨てる。それだけです」

ウィル:「君はなんとも思わんのか?」

何故かバルハートの声色には悲哀が伴っていた。

ウィル:「君は誰かに愛されたいとか、必要とされたいとか、感じたことはなかったのか?」

純一:「もちろんありますよ。ですが、何年も前にあきらめたことですから―」

エレベータが再び動き出す。あと十秒もすれば司令室に着く筈だ。

純一:「―ですが、むざむざ殺されるのを黙って待ってるほど人ができてませんからね。拘束を解いてくれませんか?」

ウィル:「どうするつもりだ?」

純一:「父親を殺した奴とここを攻撃する奴に仕返しですよ」

ウィル:「・・・・・・できるのか?」

純一:「できないことは、ありませんから」

バルハートは拘束を解いた。もはや自分が最上級士官だ。誰も咎めない。

少年は途中の階でエレベータを止めると何処かへ駆けていった。

ウィル:「・・・・・・信じてみるか」

エレベータは司令室に着いた。

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