↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

マッチ売りの公爵令嬢、にゃんこ美少年と食パンで一年後にほのぼのクリスマスを迎えます☆

作者: ソーセージ
掲載日:2026/08/24

雪が降る寒い寒い夜、

その女の子はマッチを売っていたけれど、

誰も買ってくれません。


かじかんだ指でマッチをつけると、

あたたかいストーブやごちそう、

キラキラ輝くクリスマスツリーが見えます。


最後のマッチをつけると……


***

「あっっちぃぃ!!!」


ドサッ!


マッチ売りと少年は、雪の上に倒れ込んだ。

少年はパッと起き上がって声を上げる。


「危ないだろ!何して……

あれ?死んでる?おーい!


おーい!!


――おーい!?」


***


アリュメットが目を覚ますと、灰色の天井が目に入る。


「起きた!?」


突然視界が、少年の顔……

キラキラ輝く琥珀色の大きな瞳で埋め尽くされた。

アリュメットは反射的に問いかける。


「貴方が迎えの者?」


「え?迎えって何?」


少年がポカンと問い返した瞬間、

遠くで鐘が鳴り響き、地鳴りのような歓声が聞こえて来た。


少年はパッと窓を開けて遠くを見る。


「王様が処刑されたのかなぁ?

昨日の夜、捕まったっておじさんが言ってたし。」


アリュメットの顔から血の気が引いていく。

唇はわななき、喉元が激しく震えている。


「王様が死んだら、なんか変わるのかなぁ。

あ、パンが焼けた!」


少年は窓を閉めると、部屋の外に出て行った。


その瞬間に、アリュメットは寝台に突っ伏した。

クゥクゥと嗚咽が漏れる。

しかし、扉の向こうでカタカタと音がすると、すぐに涙を拭いて、

呼吸を必死に整える。


「パン食べる?」


元気な声と香ばしい匂いと共に扉が開く。

アリュメットは首を横に振った。


「要らないの?俺の手作りだよ!」


少年はフカフカの食パンを豪快に千切って食べ始めた。

十歳くらいだろうか。


「俺、フィセル。あっちのパン屋で働いてる。

お姉ちゃん、名前なに?

マッチ売ってたけど、マッチ工場の人?」


アリュメットは、まだ鐘と歓声が聞こえる窓の外を見た。


「フィセルは、私を助けてくれたの?」


「うん、倒れちゃったんだもん。」


アリュメットはじっとフィセルを見つめた。


(命を渡すなら、この子にするわ。)


「私は、アリュメット・ブール。

国王側近のブール公爵の娘――もう国王は亡くなったけれど。」


フィセルは、口を開けたままアリュメットを見ている。


「国民公会に私のことを伝えなさい。私を連れて行ってくれるわ。」


(貴方に謝礼も渡されるはず)ということは胸にとどめた。

この子がかえって動けなくなると思ったのだ。


フィセルはクリクリした目でアリュメットをじっと見る。


「お姉ちゃんはどうなるの?」


「そうね。新しいおうちに……」


「殺されるんでしょ?」


アリュメットがハッとしてフィセルを見ると、その表情が引きつっている。


「そんなことはないわ……」


「絶対?嘘だったら、逆立ちでパン作ってくれる?」


問い詰めるフィセルの言葉に、思わずアリュメットは微笑んだ。


「逆立ちでパンは……作れないわ。」


アリュメットは寝台から降りると、逃亡用の粗末な靴を履いた。


「お姉ちゃん、どこに行くの?」


「助けてくれてありがとう。

お礼ができないけど、貴方の幸せをお祈りするわ。」


「ダメ――――!!!!」


扉に向かおうとするアリュメットの顔面をフカフカの食パンが直撃し、

二人は寝台に倒れ込んだ。


「〇※△■◇=◎☆!!!」


食パンがようやく顔から離れ、思い切りアリュメットは吐息をつく。


「何をするの!?」


「国民公会のところに行くんでしょ?絶対だめ!」


アリュメットはフィセルに向き直った。


「本当にありがとう。でも、私がここにいたら、貴方も……ムグッ」


口に食パンが突っ込まれる。


「美味しい?」


「……美味しい……すごく。」


「やった!じゃあ、お姉ちゃんは俺のパン屋さんのおかみさんになってね!」


「お……おかみ……さん!?どういうこと!?」


アリュメットは全くついていけない。

フィセルはアリュメットの口にまた食パンを突っ込み、

自分も食べながら、キラキラ目を輝かせる。


「お姉ちゃん、もう貴族じゃないんでしょ?

ここで一緒にいようよ。

――俺さ、おじさんのパン屋で五年くらい働いてるんだけど、

自分のパン屋を開きたいんだ!だから、毎日修行中!

ね!そうしよう?」


「え、ええ。」


思わず頷いたアリュメットだったが、食パンを飲み込むと、


「おかみさんっていうのは、メイドのことかしら?」


とようやく質問を口にする。

しかし、フィセルは「いっけね!」と叫んで、

帽子をかぶりながら、アリュメットに手を振った。


「仕事行ってきます!」


アリュメットはバタンと閉まる扉を茫然と見送ったが、


「メイド……いいわ!」


と拳を固く握って呟くと、立ち上がって近くの雑巾を手に取った。


***


「ただいま、アリー!」


「お帰りなさ……」


全部言う前に、フィセルはアリュメットに飛びついてゴロゴロと金髪をすり付ける。

この小さな少年はなんだか猫のようだ。


(働き者の猫なんかいるかしら?)


フィセルに助けてもらってから半年――今は緑も眩しく、夏の気配がする季節だ。


「へへへ……」


フィセルがパッとアリュメットの前に紙を広げる!


「もらってきた!おじさんのサインってやつ!!」


「ワァ!」


二人は手を取り合ってクルクル回る。


「じゃあ、ここで……パン屋さんが開けるのね!」


「うん!」


フィセルは笑って、指を一本立てて胸を張る。


「売るものは食パンだけ、

売るときは朝と夕方の二回だけ、

おじさんのパン屋の手伝いはちゃんとやる……

そう言ったら、許してくれた!

アリーの言ったとおりだった!」


フィセルはまたアリーの手をとる。


「アリー、すごいよ!

メニューを食パンだけにするって……考えつかないもん!」


アリュメットは少し顔を赤らめた。


「だって……助けてもらったときに食べた食パンがすごくおいしくて……」


フィセルはその場で万歳するように伸びをする。


「俺、楽しみ!自分のパン屋でさ、おかみさんと一緒にパン売るのが夢だったから!」


「おかみさん……?もしかして、パン屋の奥様のこと?」


「そうだよ!」


もうフィセルは、鞄から玉子やら小麦粉やらを取り出して机に並べ、鼻歌を歌っている。


(あの日の「俺のパン屋さんのおかみさんになって」というのは……)


アリュメットは、頬が染まり、耳まで熱くなるのを感じる。


(でも、フィセルに深い意味はないんだわ。

まだ子供なんだもの。そうよ。)


アリュメットがふとうつむいた瞬間、手がパッと握られる。


「アリー、手、痛くない?」


フィセルがアリュメットの荒れた手をそっとさすっている。

アリュメットは恥ずかしくなり、急いで手を引っ込めようとした。


(お父様とお母様に白絹のような手と言われていたのだわ……)


フィセルはその手をギュッと掴んで引き寄せると、


「この手に祝福を。」


と囁いて、貴公子のようにそっと口づけした。


アリュメットは、胸の中で大聖堂の鐘が鳴り響いているようで、

この天使のような少年の周りに花が咲き乱れているようで、目眩までし始めた。


「アリー、大丈夫?気分悪いの?」


フィセルはびっくりしたように叫ぶと、

アリーの手を引っ張って寝台に連れて行き、ポンと寝かせる。


「無理しちゃだめだよ!パン屋の準備があるんだからね!」


「そうね……」


寝台から見える夕暮れの空が目に入る。

王政は終わり、国王は死んだ。

自分をマッチ売りに変装させ、迎えを送ろうとした父母ももう生きてはいない。


(そうよ、フィセルのパン屋の開店準備に集中しなきゃいけないわ。

この子は命の恩人、私はもう十五歳なんだから……)


「聞いてる?」


急に視界が暗くなる。

見上げるとフィセルがアリュメットに覆いかぶさるように、顔を覗き込んでいる。


「え、ええ……」


フィセルは琥珀色の、猫のような目でアリュメットを見つめる。


「アリーは、おかみさんだもん。

――俺たちのパン屋の。」


アリュメットは胸の辺りから顔に血が上って、

堪え切れずに顔を覆った。


「アリー!どうしたの?大丈夫?」


フィセルはアリュメットの手を顔から剥がそうとして、うんうん引っ張る。


「大丈夫!フィセルはあっち!あっちで片付けして!」


「やだ!顔を見せて!お……おかみさんでしょ!」


「ず……ずるいわ!フィセルの……バカ!」


倉庫を使った小さな家からは、しばらく賑やかな騒ぎ声が続いていた。


***


「メリークリスマス!」


キャンドルに照らされた小さな食卓には、

チキンやサラダ、そしてフカフカの食パンが並んでいる。


公爵令嬢のアリュメットが街角でマッチ売りになり、

寒さに凍えて倒れたときから一年……


世間も大人もちっとも収まらず、どこか血なまぐさい喧騒が続いている。

でも……


「今日も全部売れたね!」


キャンドルの向こうでフィセルが笑っている。


温かい食事、

暖かい部屋、

ホカホカの食パン、

フィセルの笑顔……


これでいい、ではない。

これがいい、のでもない。

これじゃなきゃだめなのだと、アリュメットの鼻の奥がツンとする。


と、フィセルが立ち上がって「ハイ!」とリボンをかけた包みを渡す。

開くと――それは赤くて、可愛らしい手袋だった。


「手が……痛そうだったから……プレゼント!」


と言うと、アリュメットの反応を窺っている。

アリュメットはうつむいて手袋をさすった。


「あったかい……」


一年前のマッチの炎が瞼の裏に甦る。


「ありがとう、フィセル。」


目を潤ませて顔を上げると、フィセルの顔が近くにあった。


「――キスしていい?」


一瞬で顔を爆発させそうになったアリュメットは、

思い切りフィセルの顔を手で押して遠ざける。


「駄目!子供のくせに!」


「子供じゃない!十二歳だよ!」


「子供よ!」


「おかみさんになるって……言ってくれ……た……くせに……」


「ず……ずるい!フィセルのバカ!バカ!!」


小さな家の、いつもと変わらない賑やかな騒ぎ声は、

澄んだ鐘の音のように、雪がちらつく聖夜の空に響いていた。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。


アリュメットとフィセルの、食パンと一緒に始まった一年を楽しんでいただけたら嬉しいです。


よかったら、下の「リアクション」や評価をポチッとしてもらえると嬉しいです。


ほかにも、糖分高めの異世界恋愛『十二支の鼠の少年王は猫を愛したい』、

『【BL】終局の悪魔―俺を利用するはずの白髪高官が、なぜか俺の目を美しいと言ってくる―』、

令嬢ハッピーエンド短編、現代恋愛などを公開しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。