雨
村ではずっと雨が降っていなかった。
川は干あがり田畑の農作物はとうの昔に枯れている。
「どうしたらいいんじゃ」
「ほんまに、どうしたらいいんじゃ」
寄りあいの席で村人たちはため息をついては口々に言った。
「また雨ごいをするか」
「もう何十回もしたじゃろう」
「だから、またするんじゃ」
「やっても無駄じゃ」
「……」
為す術が無い彼らは黙り込んだ。
その時だった。
誰かがボソリと言ったのだ。
「生贄を差しだそう」
「なっ、何を言うんじゃ」
「生贄をだして雨ごいをすれば神様も雨を降らしてくださるに違いない」
「ダメじゃ、ダメじゃ」
「じゃあ他にどうしろというんじゃ」
「……」
更に長い沈黙の後、村人たちはクジ引きをした。
そしてゲンタの妹のヨネが生贄に選ばれた。
ひと月後。
ポタポタ
ゲンタの家の土間に水が垂れる音がする。
ポタポタ
それはゲンタの眼から流れ落ちる涙であった。
彼は妹のヨネを亡くしてからずっと泣いているのだ。
だが村は相変わらず干からびていた。
雨ごいをしても、ヨネを生贄にしても
雨は降らなかった。
やがて村人たちが一番、恐れている事が起きた。
井戸の水が枯れ始めたのだ。
このままでは村は全滅する。
村人たちは二人目の生贄をクジ引きで選んだ。
作蔵の妹のカヨと決まった。
カヨを捧げて雨ごいがなされた。
そして翌日、雨は降ったのだ。
二か月後。
ゲンタは薄暗い家の土間にいた。
日は高く昇り、他の村人たちは野良仕事に精を出しているというのに彼は家にこもっている。
泣いているのではない。
彼は宙を睨みつけていた。
そして、その眼はギラギラと光っている。
ゲンタは村人たちが陰でささやいているのを聞いてしまったのだ。
『二番目のカヨは村一番のべっぴんじゃったから神様も雨を降らしてくれたんじゃろう、残念だったが一番目のヨネは醜女じゃったからな』
ゲンタは薄暗い土間で宙を睨みつけている。
その手に鉈を握りしめて……
ボタボタ
二日後、村には
血の雨が降る。




