表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

お仕事

子供と家庭焼肉

作者: 御田文人
掲載日:2026/07/01

しいなここみ様『やきにく短編料理企画』参加作品


拙作「そばつゆの郷愁」「野菜の味がするカレーライス」と同じ舞台設定ですが

前作未読でも問題ありません。


 K社の広報部のオフィスに営業部の山本がドカドカと入り込んで来た。

「世良いる?あっ、いたいた!頼む、お前の知恵と無駄知識を貸してくれ!」

 そう言いながら、山本は世良が作業をしていたデスクまで来る。

「またですか・・・」

 呼ばれて世良はムスっとする。山本は度々やって来ては変な相談をするのだ。

「すまん。取引先の社長が困ってるんだ。頼むよ」

 そう言って山本は事情を説明した。


 その社長から、子供も食べる家庭焼肉はどんなのがいい?と相談されているとのこと。


「あいかわらずグルメ漫画みたいな商談してますね。でも子供?子供って焼き肉好きですよね?」

 と世良。


「お子さんまだ小さいんじゃない?乳歯の子供なら肉が苦手な子って多いよ」

 世良の隣の席にいた渡辺が割って入る。


「そうなんですよ!小学1年生だそうで。よくわかりましたね!」

 山本が答えた。

「ウチの子とほぼ一緒だからね。肉って子供の歯とアゴだと噛み切れないし、臭いもけっこう強い。それから脂も多くて重いんだ」

 と渡辺。


「ああ、だから子供はハンバーグが好きなのか!」

 世良が納得の声を上げる。

「そう。ハンバーグだと噛み切れるし、ソースや香辛料で臭いをマスキング出来る。焼いたり煮たりで脂もある程度出せる。だから、大人が好きな肉汁たっぷりのハンバーグとかは食べなかったりするよ」

「へぇー、面白いですね。でも、そうなると無理に焼き肉じゃなくて、ハンバーグでいいんじゃないですか?」

 世良の提案に、山本は腕を組んで困った表情をした。


「それじゃダメなんですか?」

 山本は頷いて事情を話す。


 その社長の家庭でも子供に合わせて魚かハンバーグが主体とのこと。

 ただ、それだと肉好きの社長は辛い。自分が料理担当の日に時々試行錯誤して焼き肉を出してみるが、その度に食べず、奥さんに怒られる。

 料理動画等を観つつ研究しているのだが、なかなか食べてくれないと。


「なんか、かわいいっすね」

 と吹き出す世良に、渡辺は軽く窘めるように言う。

「いや、けっこう切実かもね。子供中心の生活にすること自体は、たいていの親は承知も覚悟もしている。でも、食って毎日のことだからね。食の好みを我慢しつづけるって、地味にストレス溜まるよ」

「なるほどね」

 世良は反省したように真顔で腕を組む。

 そして言った。


「まぁ、でも食べない理由がナベさんが言った通りなら、手はありますね」



―後日―


 依頼元の牛嶋社長宅に招かれた世良と山本、そして渡辺。

 ダイニングテーブルには牛嶋夫妻と小学1年生の子供が座っている。


「お子さんの好みもあるでしょうから、いくつか用意させていただきました」

 世良はそれぞれの前に3つの小鉢を出す。


「右から甘酢炒め、スタミナ焼き、めんつゆ炒めです」

 そう全員に説明した後、世良は子供に向って笑顔で言う。

「全部は食べなくていいですよ。苦手なのは残していいので、一番好きなのだけ教えてください」

 社長の子供はコクリと頷く。


「さすが、賢そうですね・・・」

 子供の年齢的に騒がしくなることを想像していた世良は、意表をつかれて呟いた。そこで軽く笑いが起きる。


「それぞれ量は少ないですが、意図合ってのことなので、ご了承ください」

 と世良。

「『完食しなければ』というのは、子供にとって、けっこうプレッシャーになります。だから完食できそうにないものが目の前に並ぶと、それだけで尻込みする場合もありますから、この量にしています」

「ああ。だから残していいって最初に言ってくださったんですね」

 と社長夫人。

 そんな会話をしている時だ。


「えっ?もう食べたの?」

 牛嶋社長が驚きの声を上げる。子供は3皿全て完食していたからだ。

 子供は少し恥ずかしそうに、黙って頷く。


 評判がよかったのは甘酢炒め。逆に少し苦手なのはスタミナ焼きとのこと。


「傾向が分かりましたね。なのでポイントをお伝えしたいと思います」

 と世良。

「素晴らしい!是非聞きたいですね。どれも美味しかった。私はスタミナ焼きが一番好きだったけどな」

 と牛嶋社長。「だから、あなたの焼き肉は食べないのよ」と社長夫人にツッコミを入れられている。


「はい。まず、子供が肉を嫌う要因はいくつかあります。一番は噛み切れないこと。飲み込めずいつまでも口の中に残るというのは、かなりストレスです。これが先ほど述べた完食プレッシャーと重なって、食べ物自体が嫌いになることがあります。シイタケ嫌いとかも元はこれ由来の場合がありますね」

「うん。飲めないから嫌いです。シイタケも嫌いです」

 牛嶋社長の子供は、育ちの良さそうな敬語でそう言った。

「だよね。だから噛みやすいように工夫したんだ」

 世良はそう子供に伝えた後、全体に説明を続ける。


「肉はしゃぶしゃぶ用の薄切り肉を選び、繊維を絶つようにカットします。ちなみ今日の料理は全部下茹でか下焼きしているので、火を通してからキッチンバサミで切ってます。包丁は使ってません」

「そりゃ楽でいい。しかし、下茹では聞いたことあるけど、下焼きもするんですか?」

 と牛嶋。


「ええ。甘酢炒めとめんつゆ炒めは下焼き、スタミナ焼きは下茹でしてます。子供にとって肉の脂というのは重いんです。消化にも時間かかるから、そういう苦手意識も味覚と合わさって『肉は苦手』という判断に繋がってきます。だから調味料を加える前に一回脂を落とすんです。具体的には一回焼いてから皿に取り出して休ませ、そこで更に脂を落とす感じです」

「なるほどね。でも、それ、旨味も出ちゃうんじゃないの?」

「はい。大人の好みならそうですね。でも旨味と臭みは紙一重なので、そこはお好みで調整です」

 世良の回答に牛嶋社長は頷く。そして夫人に「だから、あなたの焼き肉は食べないのよ」と再度ツッコまれていた。


「そう、この大人との臭みの感じ方の差もポイントで、子供は臭いに敏感です。だから実は一般的な料理レシピの中には、子供と相性が悪いのもあるんですよ」

「そうなの?どんなのが?」

「レシピって、その通りに作って失敗しないことが大事なんで、火加減は中火指定が多いですよね。強火は失敗しやすいので」

 社長夫人が頷く。


「でも強火で表面に軽く焦げ目をつけた方が臭みが消えます。中火レシピではそれをカバーする為にニンニクやショウガ、香辛料、ネギ等の香味野菜、そしてゴマ油等の香りの強い油をよく使います。でも、それが子供には強すぎる場合がある。それを懸念して香の量を減らすと、今度は肉の臭みが消えないと」

「うん。分かります!」

 と社長夫人。


「でも、肉にまんべんなく火を通しつつ、調味料を加えつつ、強火というのは焦げすぎに繋がるので、そう言う意味でも肉は先に火を通しておいた方が安全です。もう一つコツを付け加えるなら、下焼きの際、肉は一枚一枚広げて焼くと、まんべんなく綺麗に仕上がります」

「確かに。子供向けって、しっかり火を入れたいからね。まとめて焼くと、どうしても焼きムラで硬い部分が出来がち」

 渡辺が補足のような感想を言う。それに対して社長夫婦も頷いていた。


「最後に子供は未知の味に敏感です。知らない味は『これは食べて良いのか?』という警戒が働きます。だから味付けはなるべくシンプルに。甘酢炒めはポン酢と砂糖だけ、めんつゆ炒めはめんつゆと砂糖だけです。スタミナ焼きは醤油、味噌、みりん、砂糖、しょうが、ニンニクと一番しっかり味を付けてますが一番反応が微妙でしたね」

「うん。ボクは、これが一番おいしいかった」

 と再度、甘酢炒めを指す。


「これも一般の料理動画と相性が悪い所です。料理動画は目新しさが必要なので、定番から少しずらしますから」

「でも子供は定番の方がいいってことか」

 牛嶋社長は納得したように何度も頷いた。


「一つ質問良いですか?」

 社長夫人が手を上げる。

「なんで他は下焼きで、スタミナ焼きは下茹でなんでしょう?好みは単に、その違いなのかなと思って」

 鋭い質問に、世良は二度三度頷いてから答えた。


「ええ。その可能性はあります。これは特に深い意味は無くて、スタミナ焼きは他に比べて味付けが濃いので、肉はさっぱりめにしようと下茹でにしました。でも、おっしゃるとおり下焼きの方が良かったかもしれません」

「そこは色々工夫してみればいいわけですね!」

「はい。是非!」

「例えば、パッと思いついたんですけど、こんなのはどうでしょう?」

 社長夫人はいくつかフラッシュでレシピを言う。

「いいと思います!」

 と世良。

「美味しそう!今日の夜それ作って!」

 子供も食いつく。


 その様子を見た牛嶋は、こっそり山本にむかって親指を立てて見せるのだった。



本作はフィクションですが、ウチの子と、パパ友、ママ友との会話が元ネタになっています。

実際、肉が苦手な子供って多いんですよね。


作中では触れなかったですが、公開レシピを参考にする場合、自分は「時短」とか「洗い物少ない」等のものは避けるようにしています。

大人だけが食べる分にはいいのですが、簡略化する為に下処理を端折っているものは臭みや固さが多少犠牲になっており、ウチの子には不評なことが多々ありました。

で、残されたり、食べるのに時間がかかったりすると、けっきょく時間と手間がかかるので。。。

(でも、この辺は各家庭によって優先する事情が様々だと思うので、作中には入れませんでした)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
勉強になります。 子どもと大人で、味覚の違いもあり、それに加え、食感的な好みの違いもあるんですね。う〜ん。難しいです……。ううぅ。
大人になってからはお肉大好きですからʕ•ᴥ•ʔ←それはそう 忘れていましたが、子供のころ、ゴロっとした四角いカレー用肉が確かに嫌いでした!そしてやはりハンバーグが好きでしたね。 自分でもあまり気が付い…
お肉って、改めて扱いが難しいんだなと呼んでいて思いました。 ていうか自分は……小さい頃、レストランでステーキを食べようとしたけど噛みちぎれなくて、それ以降ステーキは食べないようにしてましたなぁ。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ