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異世界テンプレブレイカー  作者: 浮華 傾佻


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5/20

お父さんとお呼びなさい

 ユウヤは、それからも何度も走った。悲鳴が聞こえるたび、醜鬼しゅうきの影が揺れるたび、考えるより先に体が動いていた。


「待て! やめろ! 離せ!」


 大人の手は、何度伸ばしても空を掴むだけだった。影はすり抜けて、子供だけを包む。ユウヤは必死に叫ぶ。


「親のことを想え!まだ、まだ想ってるだろ!名前、思い出せ! 声、顔、匂い……!」


 でも、どの子も最後は同じ顔をしていた。怯えてるようで、諦めているようで、どこか安心しているような、悲しい笑みを浮かべたまま、ユウヤを見て、消えていった。


 私は、少し離れた場所から、それを見ていた。ユウヤの背中は、だんだん小さくなっていく。走る速度が遅くなって、叫ぶ声が掠れて、やがて、石を積むこともやめた。


「……こんなはずじゃ……」


 河原に座り込んだまま、ユウヤは呟く。


「異世界モノなら……こういうとこでスキル目覚めるだろ……なんか……光って……覚醒イベントとか……」


 誰に向けたわけでもない言葉。私は、少し困った。ユウヤが動かなくなった。石も積まない。笑いもしない。冗談も言わない。ただ、そこに座って、地面を見ている。


「……どうしようか……」


 小さく呟いた。誰かに聞かせるつもりもなく、ただ、口からこぼれただけの言葉。ユウヤは反応しなかった。

 その時。


「――――っ!」


 また、悲鳴が上がった。反射みたいに、ユウヤの体が跳ねた。


「……!」


 何も考えず、また走り出す。何度も失敗して、何度も救えなくて、それでもまた。私は、その背中を見送った。小さく息を吸って、誰にも聞こえない声で言った。


「……そろそろ、私の番かな……」


 それは、意を決したみたいな声だった。自分が次に消えることを、もう分かっているような、静かな声。ユウヤはそれを聞いていない。ただ、また誰かを救おうとして、賽の河原の奥へと走っていった。


 スズは、その場に立ったまま、石の山を見つめていた。崩れないように積まれた石。意味のない努力。終わりのない時間。そして、その中で、一人だけ必死に抗おうとする大人。


 スズは、ほんの少しだけ、目を伏せた。

 それが、この世界で初めて生まれた“予定外の動き”だということを、まだ誰も知らなかった。


*****


 自分のすぐ後ろで不気味な咆哮が聞こえた。聞き慣れたくない醜鬼の声、それがすぐそばで聞こえた。反射的に振り返る。何度も見た光景。何度も間に合わなかった瞬間。

 醜鬼の影が、スズの背後に立っていた。輪郭が揺れて、空洞みたいな目と口が、スズの方を向いている。


「スズ!!」


 叫びながら四つん這いでスズに駆け寄る。でも、どこかで分かっていた。


(また……間に合わない)


 今までと同じだ。何度もこうやって、走って、叫んで、手を伸ばして。そのたびに、誰も救えなかった。


(また、同じこと繰り返してる)


 頭の中で、ハヤトの顔がよぎる。あの笑顔。最後に見せた、あの諦めたみたいな目。


(違う……今回は違う……)


 そう思いたいのに、現実は何も変わっていない。スズは、ゆっくりと目を閉じた。その仕草が、あまりにも自然で、あまりにも慣れているように見えて、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。


(……やめろよ。なんでそんな顔するんだよ。諦めるなよ)


 今まで、スズは一度も泣かなかった。取り乱したこともない。ただ、ずっと静かに石を積んでいた。そして、今も――。

 まるで、自分の順番が来たのを、ちゃんと理解しているみたいで。


「スズ!! 親のこと思え!!」


 声が、少し震えた。


「お父さんとお母さんの顔!!名前!!声!!ほら、思い出せるだろ!!」


 言いながら、分かっていた。


(今までと同じだ…。同じこと言って、同じ結果になる)


 でも、他に方法が思いつかなかった。スキルもない。魔法もない。チートもない。ただの人間が、ただの言葉で、この世界のルールに抗おうとしている。


(……こんなの、異世界モノじゃない。テンプレ通りなら、ここで覚醒するんだろ。光って、なんか力出て、助けるんだろ?)


 でも、何も起きない。光らない。力も湧かない。世界は、冷静にスズを喰おうとしている。スズの影に、醜鬼の腕が重なった。その瞬間、ユウヤの中で何かが切れた。


(……違う。こんなはずじゃない。スズが消えるのは、おかしい。だって……)


 そこまで考えて、ユウヤは、ふと思った。


(……なんで“親”なんだ? なんで“親じゃないとダメ”なんだ?)


 石を積むのは、親を想うため。親を想わなくなったら、喰われる。


 だったら。

 親がいないなら。

 親が来ないなら。

 ――作ればいいじゃん。


「……あ」


 まぬけな声が、口から漏れた。


「……そっか。」


 頭の中で、ピースが一気に噛み合った。今までの焦りとか、恐怖とか、全部すっ飛ばして、異次元の発想に辿り着く。


「俺が親になればいいじゃん」


 言った瞬間、自分でも思った。


(……何言ってんだ俺)


 ユウヤは、スズを見た。( ゜д゜)ポカーンとした顔をしてこっちを見ている。

 よく見るとキヨも、周りの子供もポカーン( ゜д゜)。心なしか醜鬼もポカーン( ゜д゜)。


(……でも、それしかなくね?)


 スズの親は、もういない。迎えにも来てない。だったら、空席だ。そこに座ればいいだけ。法律も、地獄のルールも、全部知らないけど。少なくとも…


(スズが消えるよりはマシだろ)


 醜鬼に向かって高らかと宣言。


「この子、今日から俺の子ってことで!」


 その瞬間、賽の河原のシステムが、静かにバグった。


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