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異世界テンプレブレイカー  作者: 浮華 傾佻


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2/20

閻魔の沙汰?

「……うぉっ!?」


 次に目を開けた瞬間、俺は見知らぬ場所に立っていた。


 黒塗りの床に敷かれた豪奢な絨毯、果ての見えない天井、朱色に塗られた極太の柱、鎧を纏った兵士、壁際に整然と積まれた帳簿の山。

 そして正面には、立派な髭を携えた玉座に座る威厳ある存在。


「……え、これ」


 俺は心に湧き上がるものを抑えながら、周囲を見回して、状況の把握に努める。俺の周りには、老若男女、服装もバラバラの人たちが十数人いた。全員、俺と同じように辺りを見回したりしている。そしてそれを品定めするように見つめる王様らしき人物。


(これはもう間違いない!異世界転移だ!)

(そしてこの状況…、さては集団召喚術式による転移だな!?)


 事態を飲み込めず惚けている一般勇者たちに先んじて、俺は次のアクションを起こすことにした。


「よし……」


 俺は軽く深呼吸してから、まず一つ目のテンプレを試した。


「ステータスオープン!!」


 ……。何も起きない。


「……おかしいな。そういうタイプじゃないのか?」


 両手を前に突き出す。


「ファイア!!」


 ……何も出ない。


「……身体強化!!」


 ……ヒョロガリのまま。


「……鑑定!!」


 ……神崎ユウヤ・大学生(享年二十歳)。


「……」


 俺は少し焦り始めた。


「え? え?おかしくない?異世界来たら最初に出るやつ全部通らないんだけど」


 周囲を見渡してみる。誰も剣も魔法も出していない。むしろ全員、ただ突っ立ってるだけだ。


「……まさか」


 俺の脳裏に、嫌な可能性がよぎる。


「チートなしタイプの異世界?」


 その瞬間。正面の巨大な机の向こうから、低く、よく通る声が響いた。


「……静まれ」

「はいっ!!」


 俺は反射的に背筋を伸ばした。

 声を発したのは、赤い顔に長いヒゲ、いかにも“偉そう”な風貌の人物だった。和風の豪華な装束を着て、玉座みたいな椅子にどっしり座っている。


「あ、なるほど」


 俺は一瞬で理解した。


「王様か。なるほどなるほど、ここがスタート地点か」


 俺は自然な笑顔で一歩前に出た。


「初めまして!俺、神崎ユウヤって言います!勇者枠ですか? それとも転生者枠ですか?」


 王様は眉をひそめた。


「……何を申しておる」

「いやほら、よくあるじゃないですか。王様が召喚して、魔王倒してこいってやつ」

「……」

「で、石板に触れたらチート能力とか、加護とか、そのへん頂ける感じで…、えー…」

「……」


 何も響いてない。王様は困ったように咳払いした。


「お前は、自分がどこにいると思っておるのだ」

「え?和風ファンタジー異世界ですけど?」

「違う」

「断罪ダークファンタジー?」

「違う」

「じゃあまだ天国の控室的な?」

「おしい」

「……え?」


 ここで、横から厳しそうな声が割って入った。


「キサマっ!!閻魔大王様に失礼であろう!」

「……え?」


 俺は耳に入った言葉をよく咀嚼しながら、もう一度玉座の人物を見た。


「……閻魔、大王?」


 王様――いや、閻魔様はため息をついた。


「…そうだ。ここは黄泉の国。そしてお前は、死者だ。」

「……」


 頭が、一拍遅れて理解に追いつく。


「……え、俺……普通に死んだ?」

「そうだ」

「異世界じゃなくて?」

「違う」

「召喚じゃなくて?」

「違う」

「……ステータスも?」

「ない」

「……チートも?」

「ない」

「……」


 俺は、ガクッと膝をついて天井を見上げる。


「……普通に死んだ!!!」


 閻魔は、はぁ、とため息をつき、「最近この手合いが多いのはどういうことだ」とボヤく。


「知っておるかもしれんが、ここは閻魔庁といって黄泉の国の入り口。ワシ、閻魔大王が亡者の生前の罪を裁き、地獄行きか天国行きかを決めておる。」


 …あまり頭に入ってこない。呆然とする俺に構わず、閻魔は淡々と続ける。


「さて、まずはお前の死因だが……状況から判断して、自殺に近い」

「・・・・・・・自殺!? いやいやいや!! 猫助けるために飛び出して轢かれたんですって!!」

「いや、これは猫を助けるために飛び出したというよりは、トラックにはねられるために猫を助けに行ったというのが正しい。猫を拾ったあと、トラックにひかれるまでそこから微動だにせんかっただろう?普通に考えて自殺であろう、これ」

「ぐぬぬ……!」


 俺は歯を食いしばった。


「いやでもですよ!あれは経緯はどうあれ、猫を助けに行ったのは完全に善意じゃないですか! それだけで地獄行きって、ご無体すぎません!?」


 閻魔様は腕を組んだまま、少し考える素振りを見せたあと、淡々と言った。


「ふむ……善意、であると申すか…まあよい」


 指を一本立てる。


「実はこの時、お前は重大な罪を犯している。」

「えっ…!?」

「こちらのVTRをご覧いただこう」


 突如流れる映像、それは俺が猫を助けに入った時のシーン。我ながら颯爽と猫を拾い上げる姿、まさにヒーローそのもの…。


「ここだ」


 閻魔が映像を止める。そして俺の足元をズームアップ。


「何か…、踏んでる?アリ?」

「このとき、お前が踏み潰したこのアリはな、神蟻といって、神の遣いだ。」

「んなアホなっ!!」

「よって総合判断として――」


 閻魔様は机を軽く叩いた。


「地獄行き」

「おええええええええええ!!!」


 俺は思わず吐いた。

 どこからともなく笑い声。何わろてんねん!!


「いやいやいや待ってください!! そんな簡単に決めちゃうんですか!? ワンチャン、転生ルートとかないんですか!? 異世界! 勇者! チート! みたいな!!」

「ない」


 即答だった。頭の中で、何かが音を立てて崩れた。

 え?俺、もう確定で地獄?異世界どころか、スタート地点が地獄? テンプレどころか、ルート選択すらできない?


「……まじか……」


 閻魔様は、少しだけ申し訳なさそうな顔で言った。


「案内役、連れて行け」

「はっ」


 どこからともなく現れた赤鬼が、俺の腕を掴んだ。


「では、ご案内します」

「え、ちょ、ちょっと待ってください!! 心の準備とか!! せめて攻略本とか!!」

「地獄に攻略本はありません」

「ですよねー」


 俺はズルズルと引きずられながら、向かって左の扉の方に連れて行かれる。足取りは重く、気分は最悪。異世界どころか、罰ゲーム会場に直行だ。


「……はぁ……」


 完全にテンションが下がりきったところで、ふと、あることを思い出した。


「……あ、そうだ」


 俺は歩きながら、今さら感のある疑問を口にした。


「そういえば閻魔様。あの時俺が助けようとした猫って、無事だったんですか?」


 どうせなら、そこだけは報われたい。善行ポイント、ゼロじゃないですよね?って話だ。この期に及んで、俺ってばちょっと自分に酔ってる。

 少し間があって、背後から閻魔様の声が響いた。


「……無事ではないな」

「え?」


 閻魔が俺の足元を指差す。次の瞬間。


「ガブッ」

「いっっっっっっったぁぁぁぁぁぁ!!?」


 俺の足に、何かが噛みついた。反射的に見下ろすと、そこにいたのは――


 白い猫。さっきのやつと同じ顔。さっきのやつと同じサイズ。ただし、目が血走っていて、明らかに殺意高め。

 案内役の赤鬼が、平然と説明した。


「あなたとトラックに挟まれて即死でした。正直に申し上げますと、あなたが捕まえなければ、無傷で生還でした。」

「……」


 俺は噛みつかれたまま、ゆっくり天を仰いだ。


「……思ってたんと違う……」


 その瞬間、またどこからか、くすくすと笑う“気配”がした。閻魔大王は、ほんの一瞬だけ視線を逸らす。そして、ユウヤに聞こえないくらいの声で、言う。


「……運が悪かったな、若者」

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