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異世界テンプレブレイカー  作者: 浮華 傾佻


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11/20

吾輩はイモムシである

 幼虫と過ごす二回目の夜。

 夜になるとこの世界はとても静かだった。風の音も、虫たちの羽音も、全部が少し遠くなる。その中で、俺とあいつだけが、取り残されたみたいにそこにいた。膝の上で、もぞもぞ動いているそれ。

 卵から出てきた、謎のイモムシ。まぁ、俺の知ってるイモムシよりもデカいし丸っこいし、どこか透明感があるし、何より普通の虫より存在感が違う。

 ぴー、と高い音を出す。相変わらず意味は分からないけど、俺が喋ると必ず何かしら返してくるようになった。


 歌ったあとから、少し変わった気がする。前はただ鳴いてるだけだったのに、今は、俺の声のリズムに合わせるみたいに、音程や音色を変えてくる。まるで、チューニングしてるみたいに。


 「……そういえば」


 ふと、思った。


 「まだ名前つけてなかったな!」


 今さら感はあるが、ここまで一緒にいて、名無しのままなのはおかしいだろ。俺は、膝の上のそれを見下ろしながら、少し考える。


 名前…、名前かー。正直ネーミングセンスには自信がない。こいつ、イモムシだしな…


 「キャタ〇ー、とかどう?」


 言った瞬間、飛び上がるようにひっくり返ってジタバタと暴れ出した。ピャーーーー!と今まで聞いたことないくらい甲高い音を出して。


「…めっちゃ嫌そう」


 どうみても拒否だった。そのあと、色んな虫っぽい名前を挙げては拒否されること数分、もう少し人っぽい名前をつけてみようかと、目を閉じて頭のスイッチを切り替える。

 ふと頭に浮かんでくる、賽の河原の子供達の顔と名前。…スズ、元気かな。いや、死んでるんだから元気ってのも変だけど。でも、なんかこう、あいつはああいう場所でも妙に生気があったし。


 「スズ……鈴か……」


 鈴。音が鳴る。呼んだら返事が返ってくる。


「……ソネット、とかどう?」

「ポ……?」


 一瞬、動きが止まった。


 それから。


 「ピュイ!ポウ!ピュイユ!」


 さっきまでの無秩序な鳴き方と違って、今度は妙に弾んだ音だった。


「お!?気に入った!?」

「ピョウ!」

「じゃあ決定な。お前は今日からソネットだ」

「ピー♪ピョウルル♪ピピピピピ♪」


 まるで踊るように歌いながら体をくねらせている。喜んでいるようで何よりだ。

 ソネット(sonnette)、フランス語でたしか呼び鈴。実家のインターホンの商品名がそんな名前だった気がする。何となく、由来を告げるのはやめといた。


「あと、俺の名前は神崎ユウヤ。ユウヤって呼んでくれよな」

「……ピューヤッ!」


 返事は期待してなかっただけに、ソネットが発した音に、俺は度肝を抜かれた。


「は!?!?!?」


 空耳か? 話し相手恋しさが極まって、脳が都合よく変換でもしたのか。たぶん、この時の俺は、すごい顔して固まってたと思う。


 それを見て、ソネットが細かく鳴く。今の俺には、それが笑っているように聞こえた。


*****

 

 翌日、俺とソネットは檻から出された。

 危険性なし、という判断らしい。まあ、俺もソネットも、虫たちからしたら「よく分からんけど害はなさそうな異物」枠なんだろう。ただし完全に自由、というわけじゃなかった。


 「……あれ」


 俺の前に、細長い影が落ちる。細い体躯、透き通った翅、節のある手足。


 「トンボじゃん」


 そいつは、首を傾げた。彼(?)は、俺たちの世話役として飯や水をもってきてくれていた、トンボ型の虫人だった。俺は安直に「トンボ」と呼んでいた。


 『□□□□!』


 たぶん、雰囲気的に「よろしく!」ってことだと思う。


 「おう!よろしく!」


 俺が言うと、トンボはくるっと宙返りした。テンション高い。これがホントのとんぼ返りってね。監視役、兼、世話係。たぶんそういうポジションなんだろう。ソネットはというと、俺の肩に乗ったまま、トンボをじっと見ている。


 「ピョ?」


 少しだけ、警戒するみたいな音。


 「大丈夫だって“危険性はないけど、一応、監視は必要”ってことだろ?」


 俺が言うと、トンボはまたとんぼ返りした。この世界、虫しかいないけど、少なくとも、殺される気配はなさそうだ。この数日間、檻の中から見た虫人たちの行動・生活はいたって温厚で、文化的で、理性的。言葉はわからないけど、俺がいた元の世界の人よりも平和な思想を持っている感じがした。

 あとは、俺がここでどう溶け込んで、どうやって次のストーリーを進めていくかだ。


 「……ここから、異世界チート物語が始まるんだな!」


 現時点では流行りものの展開とは程遠いけど、それでも俺はまだどこかで期待していた。この先で、ちゃんと「イベント」が起こるんじゃないかって。物語は、ここから始まるんじゃないかって。


 「ピョピピイ…」


 ソネットが鳴いた。まるで何か思案してるみたいだった。


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