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自称宇宙人の休日~餌は与えないで下さい~

作者: 霜月璃音

朝四時四十六分、目覚ましが鳴る。宇宙人の一日が始まる……。

バンッ!

いささか乱暴に、鳴り続けるそれを止める音。それから、再び布団にもぐる音……。おいおい、大丈夫なのか……?しばらく、何の物音もしない。仕方なく、起こしてやろうと思ったその時だった。

バンッ!

床が抜ける程の、大音量。震源地は、宇宙人かのじょの部屋……。そう、彼女は文字通りベッドから飛び起きた・・・・・のだ。それで、まだ半分夢見心地だった私も完全に目を覚ます。返せ、私の寿命……。おそらく、三年は縮まった。彼女は、近くのコンビニに早朝アルバイトに行っていた。その後、寝ている周りはお構いなしという様子で慌ただしく準備をする。

ガチャ、バタン!カチャリ。

どうやら、行ったようだ。鍵を閉めて行くところだけは褒めてやりたい。そして、こんなに早くにアルバイトに行くという点も……。ホウ、と一人で溜息をつく。どうやら、二度寝できそうだ……。


私の妹は、自称宇宙人だ。……自称プロサーファーとどちらが性質たちが悪いのだろうか。いや、そこは言及しないでおこう。比較対象も少し古い気がするし……。なんでも、子供の頃に親の宇宙船から川に落ちてしまったとか。そしてそれを拾ったのがうちの両親だとか……。彼女は夢見ている。いつか宇宙から本当の両親が迎えに来ることを……。まるでどこかで聞いたような話ではないか。日本の物語に、そんな話があったような……。まあ、彼女は竹から生まれた訳ではないが。

そんな彼女の好きな食べ物は、お菓子全般。地球の甘味は、宇宙人の口にも合うらしい。もっとも、彼女を宇宙人と仮定するならばの話だが……。後、エビはアレルギーらしい。蕁麻疹が出るという。


午前十時、アルバイトから宇宙人かのじょが戻って来た。最近お気に入りだという抹茶オーレを飲みながら、昨日買って来たばかりの新刊の漫画を読む……。その傍らには、いつも甘いお菓子。なにしろ、月に一万円近くはお菓子代に消えているという。それでこの細さなのだから……。……いやいや、恐れ入りました。

「食べたいー?」

彼女は、隣で泣く泣く大学のレポートをやっている私に向かってお菓子の箱を差し出した。

「……食べる。」

そう言って私がその箱に手を伸ばすと、すいっとその箱を彼女は引っ込めた。

「あげないけどね。」

「そんなケチなー!」

恨みがましい目を彼女に向ける。すると、彼女はニッコリと笑ってその箱を再び差し出した。今度は引っ込められることはない……。

「ありがとう。」

「百円でいいよ。」

ゴックン……。驚いて、ほぼ丸のみ状態。どうやら、宇宙人と言う人種は守銭奴なものらしい。

「食べてから言うなよー……。」

「冗談だって。」

そんな話をしている間に、箱は空っぽ……。え、食べるの早くない?さっき、まだ半分位入ってたよね……?……どうやら、宇宙人は早食いも得意(?)らしい。ちゃんと噛まないと、ね?

ゴソゴソ……。

彼女がアルバイトに行くのに持って行った鞄をまさぐる。そして……。え、嘘?二個目なんかが出て来ちゃう訳?その鞄は四次元ポケットかよ……?そして唖然としている私の目の前で、彼女は二箱目にも手をつけた。えええっ?まだ食べるのっ?宇宙人、恐るべし……。どうやら、彼女は胃袋にブラックホールを飼っているらしい。さすが、宇宙人……。ハッ、感心している場合じゃない、止めないと……。

「た、食べ過ぎじゃない?未央……?」

霜月未央、それが彼女の名前だ。彼女は私には目もくれず、漫画のページを繰りながら答える。

「いいって、未央、食べても太らないから。」

それは胃袋にブラックホール説を容認しているということですか、未央さん……?密かにそんなことを考えるが、言わない。彼女は、私より五センチも背が高い。その上、昔空手もやっていたのだ。そんな彼女に睨まれたら、武道の経験もない私は、蛇に睨まれた蛙状態……。友達曰く、お姉ちゃんという生き物は、もっと威厳があるものだとか……。いいんです、私は。お姉ちゃん失格なのです……。そんなことを考えて、密かにブルーになる。


午後十二時三十分、昼食をとる。宇宙人かのじょはすごい。

「おかわりー。」

え、今の、冗談……?しかし、本当に彼女は立ち上がった。そして、フライパンの蓋を開けた。今日の昼食は、チャーハンだ。そして、自分の皿にそれを盛り付ける……。え、嘘でしょ?それ、さっきよりも量多くない……?それに、お菓子あれだけ食べてたよね……?まだ入るの……?胃袋にブラックホール説、確定……。裏付けが取れました。


午後一時、宇宙人かのじょは午睡の時間に入る。そのまま、夕方までは起きて来ない……。まあ、仕方のないことだとは思う。朝早くからアルバイトに行っているのだから……。ただ、敢えて文句を言いたいことが一つ。朝起きたら、豆電球を消しなさい。わかったね?


午後五時、彼女がようやく起きて来た。開口一番。

「お腹空いたー。」

……は?聞き間違い、だよね……?

「お母さん、お昼のチャーハン残ってる?」

「あ、残ってるよ。片付けちゃって。」

いや、お母さん、待って下さい。宇宙人に餌を与えないで下さい。彼女はずっと寝てたんだよ?それなのに、あのお菓子とかチャーハンとかを全部消化しちゃったって訳?それに、もう一時間位で晩御飯だよね?

「わーい、いただきます!」

私の心の叫びが、届くはずもない……。良い子、善良な市民の皆さんは、決してマネしないで下さい。これは、宇宙人かのじょだからできることです……。

そんな彼女も、夕食の手伝いはしてくれる。箸を出して、盛り付けが終わったおかずを順番に運んでくれる。それから、ドッカリと座り込む。

「早く食べようよー!」

あ、うん。もう少し待ってね。まだ出さなきゃいけない物がいっぱいあるでしょ?ほら、サラダのドレッシングとか……。小さく溜息をついて、それを両手いっぱいに抱えて私も席に着く。うちの家、ドレッシングの種類多過ぎ……。

「未央、わかめ増量ー。」

そう言って彼女は、カットわかめの袋をつまんで来た。そして、わかめスープに一つかみ……。え、もういいでしょ?え、もう一つかみ……?それから、何もなかったかのように。

「いただきまーす。」

私と弟が唖然としている前で、彼女のスープはどんどん黒く染まって行く……。カットわかめが膨張しているのだ……。そして、彼女のスープにはこんもりとわかめの山……。え、それ、確かスープだったよね……?

「未央、それ、スープ残ってるの……?」

恐る恐る、疑問を口にする……。

「え?だってスープでしょ?」

いや、うん……。言わないよ、別の物に見えるなんて、そんなこと……。宇宙人の口には、わかめも合うらしい……。うーん、実に奥深い生き物だ……。


その後、私と彼女は一緒に動画サイトを見る。最近はまっているアーティストが一緒なのだ。そして、二人で談義をする。

「こっちの曲の方がいいよー。なんかこう、切ない感じじゃない?」

「えー、だってそれ、ノリがさあ……。語りも長いし。こっちの方がいいよ。この繰り返し感が……。」

「あ、じゃあこっちの曲は?」

「えー、それよりこっちの病んでる感がいい。自分でやったのに、って感じじゃん!」

同じアーティストなのに、好きな曲はあまり一緒にはならない……。なんとも言えない。一応姉妹なんだけどなあ……。あ、そうか。私は宇宙人じゃないんだった。そんな風に自己解決をしている、今日この頃……。


そして。午前零時、私は部屋の電気を消す。就寝時間なのだ。しかし、宇宙人かのじょの部屋からはまだ明かりが漏れている……。時々、寝る前に聞いていた曲が聞こえてくることがある。今日は、彼女が病んでる感がいいと言っていた、あの曲……。語りの部分だけ、やけに力を込めて。小さく笑みが漏れる。本当に、気ままで大食いで。そのくせ、楽しい宇宙人だ……。


親愛なる宇宙人へ。

あなたの食べっぷりには、いつも目を見張ってしまいます。せめて、月のお菓子代を今の半分にして下さい。それから、やっぱり豆電球は消して下さい。毎朝あなたの部屋を覗いて消すの、ちょっと面倒くさいです。後、朝の五時にベッドから飛び降りるの、止めて下さい。寿命が縮みます。軽く計算しました。私の寿命、平均年齢まで生きると仮定すると、後十七年位です。後五回飛び降りられたら、残り二年になります。その次に飛ばれたら、その日の内に心停止します。まだ死にたくありません。よろしく。大食いで、気ままで、時にわがままで怖くって。でも、お姉ちゃんはそんなあなたが大好きです。……こんなこと言ったら、気持ち悪い、って言われるんだろうな……。

こんにちは、霜月璃音です。基本ファンタジーだけのつもりでしたが、妹を見ていてどうしても書きたくなってしまいました。くだらない文章で申し訳ありません。

ここまでお読み下さった皆様、ありがとうございます。本業のファンタジーの連載の方も頑張って参りますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 宇宙人という言葉にひかれてやってきました、ぶぅんです。 ほのぼのしました。ええ、しましたとも。 なんだか妹が欲しくなりましたね。とっても。 文章のほうは、テンポがよかったです。読みやすか…
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