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フクロウ男子との出合い

プロの小説家を目指す彼の前に現れたのは、世にも珍しい【フクロウ男子】だった・・・

【出会いとは運命の悪戯による奇跡である】



昔何かで読んだ本にそんな様な事が書いてあったが、アイツとの出会いは果たして奇跡などというロマンティックな言葉で合っていたのだろうか・・・






「・・・・・・・・・・・・」

デカい段ボール箱が落ちている。否応なく、問答無用に、目の前に。

雨が降る中、道端の電信柱の根本に、高さは約80cm、横幅約170cm、奥行き約60cmといったところか・・・だが特筆すべきはそこではなく、

「・・・えーっと・・・」

コレはアレだ、無視しよう。トラブルなんぞごめんだ。こちとらただでさえ安月給な重労働で疲れてるのだ。そう心に決めて踵を返し、足早に立ち去ろうとした。


刹那


「無視すんなよぉぉおおおっっ!!プレートの文字読めてんだろぉっ!?」

「読めてるから無視するに決まってんだろうがっ!!手ぇ放せっ!!しがみ付いてくんな不審者野郎っ!!」

この雨の中、段ボール箱の中に寝っ転がっていたが突如ガバリと起き上がり飛び付いてきた男・・・猛禽類の様な金色の瞳の中心には黒曜石の如き漆黒の瞳孔、雨に濡れてボリュームを失いペタンとした黒い短髪、白いTシャツにジーンズに素足・・・

だが一番に目を引く箇所があるとするならばそのどれでもなく、

「背中にンなデケェ付け羽根くっ付けて首から『誰か拾って下さい』なんてプレートぶら下げた不審者野郎なんぞと関り合いになりたい阿保なんかこの世にいるワケねぇだろがっっ!!」

「付け羽根じゃねぇもん!ちゃんと背中から直に生えてんだよ!ホラ見てくれよっ!」

しがみ付いていた男は手を放すと自身のTシャツをガバッと捲って背中を見せつけてきた。

「・・・・・・」

その背中には、ずぶ濡れではあったが確かに茶・白・グレーが入り雑じった翼が直に生えていた。その羽根をじっくりと触ってみつつ、どうやら彼の言う通りなのだと理解した。

「・・・・・確かに生えてるな。じゃ、お邪魔しました」

「だから待ってくれよぉぉおおおっっ!!プレートのメッセージだって読んだろぉっ!?拾ってくれよぉおっ!!」

「嫌だっつってんだろうがこの不審者野郎っ!!」

「不審者野郎じゃなくてオレの名前はシュウトだよっ!」

「テメェの名前なんぞ果てしなくどーでもイイわいっ!!」

一度放した手をまたしても身体に回され全体重を掛けてしがみ付かれ、振りほどこうともがきつつ彼はその場から移動を始めた・・・





「いやぁ~シャワー貸してくれてありがとな♪マジで助かった♪」

「・・・無力だ・・・」

結局自身の住むアパートまで振りほどく事は叶わず、シュウトとやらごと部屋に入る羽目となってしまい、『ずぶ濡れで寒くて死にそうだから風呂借りるな♪』という一方的極まりない台詞を残してシャワールームを占拠されてしまったのだった。

「しっかし結構良いシャンプー使ってんなぁアンタ♪おかげで羽もこの通りツヤフワだぜ♪」

「・・・そーかい・・・」

晴れ晴れとしたシュウトとやらの笑顔に、アパートの外から響く雨粒がアスファルトの表面を打ち鳴らし拍手の如き喝采音が彩りを添えていく。控え目に言えば腹立たしく、遠慮ゼロで言えば本気の殺意が湧いた。

「アンタのカップこれかー?砂糖とミルクはどうするー?」

「・・・って何勝手に人ん()の食器棚開けてんだテメェッ!コーヒーなんぞいらんからとりあえず出てけ!」

「お♪ブルーマウンテンあんじゃん♪オレこれ好きなんだよねー」

「話聞けよテメェは!」

何故か勝手知ったるといった様に手際良くシュウトはあっという間にコーヒーを2つのマグカップに注ぎ、リビングのローテーブルの上にそっと置いた。

「どうぞ♪アンタの口に合うと良いんだけど」

「・・・・・」

この世に生を受けてから早27年・・・人の寿命を考えれば折り返し地点には到達してはいないものの、決して短くはないこれまで歩んできた人生、怒りを覚えた経験はまぁある。激怒した経験も少ないが無くはない。だが・・・殺意を覚える程はらわたが煮えくり返るという感覚は初めての経験かもしれない。尤も、だからといって経験したかったかと誰かに問われたとしたら即座に首を横に振るであろうが・・・


ニコニコニコニコ


「・・・・・」

人の良い笑みでこちらが差し出されたマグカップに口を付け、その黒曜石色に輝く液体を嚥下するのを今か今かと待つシュウトに腹の底から嫌気が差した。

(とはいえ・・・飲まねぇと帰ってくれねぇ感じか・・・)

何が悲しゅうてこんな不審者野郎の淹れたコーヒーなんぞ口にせにゃならんのじゃ・・・そうは思いつつもこの男にはとっとと出て行ってもらうべく、仕方なしとマグカップに口を付けた。

「・・・!」

「美味いだろ?コーヒーの淹れ方には自信があるんだー、オレ♪」

こちらが目を見開くのを見て更に笑顔を深めたシュウトに抱いた感情といえば・・・


ムカつく


何だコイツ


不審者で浮浪者の分際で


つーか高かったんだぞ、そのブルーマウンテンの豆


脳内シナプスの端から端まで駆け巡った悪態を瞬時に統括し口を開いて、言った。

「出てけ」

「冷た!ご馳走様とかありがとうとか優しさとか哀れみとか・・・慈悲って言葉知ってっか!?」

「そんな1円にもならん無駄極まりないモン、やるにしてもテメェ以外の不審者じゃねぇ奴にならくれてやるかどうか考えてやる」

「なんっって性格破綻者・・・栄養状態が劣悪だと、ここまで切れ味最悪の鉋で無理矢理ゴリゴリ削ったような性格になるのか・・・」

「喧嘩売ってんのかテメェは」

こめかみどころか全身の血管が浮き出そうな感覚を覚えつつ、シュウトに対して本気の怒気を含ませた声で呟いた。たが、

「ま、いーや!これ毛布借りるな〜。オレリビングで寝るから♪」

「は!?マジでここにいる気かテメェは!?」

「うん!だってアンタオレの羽根触ったろ?アレで番契約完了してるから♪」

「つ、つが?え、何・・・?」

「じゃ!おやすみ〜」

こちらの質問に答える間も無く、シュウトは一瞬で夢の世界へと旅立ってしまった。

「・・・・・・・・・」

普通の一般人ならば、迷わず警察に通報するなり不審者の腕なり頭なり引っ掴んで外へと有無を言わさず放り捨てるなりするだろう。たが・・・

「・・・そういや何でオレの栄養状態が悪いってわかったんだコイツ?・・・まぁいい、とりあえず貴重品だけ抱きしめながら寝るから」

疲労とは実に恐ろしいものだ。本来ならば出来る判断や行動よりも、休息を優先させてしまうのだから・・・

こうして彼は、名前しか知らぬ背中に羽根を生やした不審者を部屋に置いたままベッドにダイブして泥沼の様な眠りについたのだった・・・







そうして夜の闇のヴェールを脱ぎ捨てた空が太陽のブローチを纏って現れた翌日・・・


『それフクロウ男子じゃん』

「フクロウ男子?」

WEBカメラによってパソコンの画面上に映し出されていたのは彼の仕事仲間であり、ある意味上司でもある人だった。

『最近・・・ここ数年かな?の内に北海道の方で存在が確認された亜人間の一種だよ。フクロウみたいな翼が背中に生えてて、猛禽類の様な目してるんだって』

ミディアムロングのシルバーの髪を指でクルクルと遊びつつ、そう説明してくれた彼にジト目を向けた。

「聞いた事もねぇぞンなモン」

『お前テレビも新聞もWEBニュースも見なけりゃラジオも聞かねぇもんな。よくそれで世の中生きてけるよな〜』

「・・・小説家なんぞこんなモンだろ」

『オレが担当してる他の作家ちゃんたちは時事ニュースにゃあ結構アンテナ張って小説に取り入れたりしてるぜ?テメェみてぇな世捨て人みてぇな奴の方が珍しいっつの』

「ほっとけこのオネェ野郎」

『オネェじゃなくてオシャレだっつの。それからユエって名前があんだからそっちで呼べっつってんだろうが』


トルコ石風の大ぶりのストーンをぶら下げたピアス


手入れの行き届いたパステルカラーのフレンチネイル


ピンヒールのニーハイブーツ


肩出しニット


力強く引かれたアイライナーにロングのマスカラ、ナチュラルブラウンのアイシャドウに桜カラーのリップグロス・・・


普通の男がこんな出で立ちでいれば彼の言う通り間違い無く性別を間違えた不埒な格好かもしれない。だが、この十六夜ユエという彼の編集担当者であり高校時代からの同級生の場合、中性的な顔立ちや細身でありつつ程良く筋肉がつき締まった体躯には恐ろしいほど似合っていた。

当人曰く、自分に似合う、自分の好きなオシャレを楽しんでいるだけとの事らしい。

『まぁテメェが拾っちまったフクロウ男子君の事はおいといて・・・進捗は?』

「・・・・・」

『・・・締め切り1週間前だぞゴラ』

「書いてる!ちゃんと書いてっから!まとめきれてねぇだけでもうすぐ出来っから!」

沈黙に対してドスを効かせた声に身震いしつつ彼は慌ててそう答えた。

『・・、ったく、テメェが大学時代に出したヒット作以来ロクなモン出しやがらねぇ・・・

とっととミリオンセラー級のモン出しやがれ。担当がオレじゃなきゃとっくに見捨ててんぞ』

「その点については返す言葉もゴザイマセン。心より感謝してます」

画面に向かって平身低頭に頭を下げた。

『いいか、冗談抜きでいい加減そろそろ大人気作家になれ。派遣社員として工場の重労働で身体と寿命を酷使する人生から脱却して本物の作家になれ。テメェの紡ぐ物語ならそれが出来るハズだ』

アメジスト色の瞳で射ぬく様に睨まれ、だがその期待の高さに彼は奮い立った。

「よしっ!書く気湧いてきた!あんがとなユエ!じゃあな!」

『あ、ちょい待ち。話戻すがお前ひょっとしてフクロウ男子君の羽根触ったりしたか?』

「あ?あぁ、そういや触ったな。そーいやアイツも羽根がどうとかツガイがどうとか言ってたような・・・ユエ?」

こちらの返事に、ユエは頭を抱えて項垂れていた。

『・・・フクロウ男子の羽根に触れたヤツは、問答無用でソイツの番認定されるからな』

「番認定?」

『う~んと・・・まぁこの場合、結婚って思えば良いから。詳しい事が知りてぇならフクロウ男子君に直接訊いとけ。あと締め切り忘れんなよ。じゃあな』


ブツッ


無機質な音がやけに耳にこびりつくかの様に響いた後、画面のユエは消えて闇色が画面に広がった。

「・・・・・・・」

アイツは・・・ユエは今何と言った?結婚?



「・・・・・・・・はぁぁあああぁああっっ!!?」



小鳥も囀ずり、麗らかな陽射しが眩しい朝・・・


安アパートの一角から困惑と驚嘆が入り交じった絶叫が木霊したのだった・・・

オリジナルの小説を書くのは初めてです。彼らのドタバタな日々を今後もお楽しみ下さい。

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