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第1話兄と弟


「識別番号66472クリス・エンデバー。管制、敵機の鹵獲に成功し帰還しました、着艦許可を願います」

「こちら管制、お疲れ様ですクリス隊長。2番ハッチから着艦してください、着艦後サイガスコロニーに帰還するとのことです」

「了解、ネーナそっちの機体はどう?」

「大分扱いが難しいですけど、何とか着艦程度なら」

「なるべく傷つけないようにね、また何言われるかわからないし」

「了解しました」


木星周辺宙域に浮かぶサイガスコロニー、その周辺を警備する第86遊撃部隊の隊長クリス・エンデバー。

開戦から7年経過した木星と火星の長い星間戦争の中、比較的安全な地域で火星軍の偵察機や標準機の鹵獲を主な任務とする総司令直属の部隊は、任務を終え自分たちの母艦へと帰還した。


「ゆっくりな、ゆっくり! 隊長の機体を傷つけるなよ~」

「わかってる、何回やってると思ってるんだ」


鹵獲した機体から降りたクリスのそばに自身の機体がゆっくりと格納され、それを運んでいた仲間の機体が格納され、コックピットから1人のパイロットが降りて来る。


「いつもすまないなレイエス」

「気にしないでくださいよ隊長。今回も見事な手腕でした」

「こんな事ばっかり上手くなってもね、機体の開発技術の劣る木星軍の為にっていう大義名分はあるとはいえ、こんな地味なことばっかりの任務じゃ皆もストレスが溜まるだろうし」

「まぁ、若い連中はそうかもしれませんけどね。俺はほらもう老兵もいいとこですしな」

「そんなことないよ、パット! 上に上げる用の簡易データをコロニーに着くまでに作成しておいてくれる?」

「はいはーい、10分もあれば出来ると思いまーす」


パットと呼ばれた整備兵の1人が端末を持ち鹵獲機へと向かっていく。


「隊長~お疲れ様です」

「ネーナ、お疲れ様」

「流石に新型機の操縦は堪えましたよ~、安請け合いするんじゃなかった」

「やっぱり、そっちも内部系統変わってた?」

「どうなってるんですかね、2週間に1回は操作系変わってる気がします」

「火星の開発技術は相変わらずですか、こりゃ本当に敵が大規模攻撃を仕掛けてくるかもって噂は嘘じゃないのかもしれませんね」

「うん」


「クリス隊長、艦長が上に来てくれって」

「わかったすぐに向かうよ、ありがとうモーリス」

「何か問題でもあったんですかね」

「司令部からの連絡とかじゃないかな、ユキシラ司令はなんだかんだうちの隊を気にかけてくれてるしね」



「お待たせしました」

「おかえりなさい隊長どの、スイ・ユキシラ司令から通信が」


艦橋へと上がったクリスを待っていたのは遊撃隊の母艦セグレスの艦長、ブルータスとクルー達だった。

そしてモニター越しに映る、スイ・ユキシラ総司令官の姿もあった。


「ひとまずは鹵獲任務ご苦労、いつもいつも地味な任務で悪いな」

「いえ、それで今回はなにか?」

「いくつかあるが、1つは昇格の祝いを持ってきた。現時刻をもってクリス・エンデバーを准将へと昇格、今日付けで名実ともに遊撃部隊としての任務に就いてもらう」

「また急な話ですね」

「秘蔵部隊を隠しっぱなしにしておける状況じゃなくなったというのが本音だが、色々あってな。サイガスコロニーにて新型機6機を受領、2日後中身は教えられないがとある貨物を受け取り月へ運んでもらいたい」

「了解しました、ただ、なぜ6機も新型機を?」

「新型機と言っても基本は今使ってる機体の改修型だ、いつまでも旧式の機体を使わせてるのは心苦しいしな、それだけ今回の任務が重要だと思ってくれれると助かる」

「了解しました」

「頼んだぞクリス准将」


通信が切れ、それと同時に深いため息を落とす。

ありがたい話とはいえ、急な話に頭がパンクしそうにもなる。


「あらら、とうとう階級も追い越されちゃいましたな」

「関係ないですよ、少なくとも僕は気にしません。それに周りの目は変わらないでしょうし」

「でしょうな、まもなく入港しますから。部下たちに指令をお伝えになっては?」

「えぇ」


ゆっくりと入港するセグレスの艦橋からふと外を見ると、見慣れない白い外装をした戦艦が目に入る。


「あれは、新造艦ですかね?」

「かもしれませんな、極秘貨物とやらの輸入者の物かもしれませんが」

「木星艦とはずいぶん形が違いますね」

「まぁ面倒事にはかかわらないに越したことはないですから、新型機の受領手続きだけしていただければ、搬入の方はこちらでしておきます。お疲れでしょうから今日1日は休養されては?」

「そうですね、明日の1400までは自由行動にしましょう」

「了解しました」



「隊長~久しぶりにご飯行きませんか?」

「いいよ、どうせやることも無いしね」

「ここまで色々ありましたけど、急な特例は初めてですね」

「戦況が厳しくなっているって事だろうね、わざわざ地球圏へ向かわせるってことは中間地点で僕らの持ち味を活かせって事だろうから」

「木星襲撃の噂もあるのに大丈夫なんですかね」

「仕事の話はよそう、誰かに聞かれてるとまずいし」

「そうですね、すみません軽率でした」


「おいおい、まだこのコロニーに居たのかよ、あいつ」

「戦犯の弟だろ、気分わりぃな」


ネーナと歩く道の道中、コロニーに住む民間人の心無い会話が2人の耳に入る。


「隊長、気にせずに行きましょう? ね?」


「あんなのがまだこの辺に居るってことは、このコロニーも終わりかもな。とんだ厄介者だぜ」

「早く出て行って欲しいもんだぜ、軍の奴らもなんであんなのを使ってるんだか」


「兄さんは絶対にそんなことをするような人じゃないのに」

「わかってます、隊長の事もおにいさんの事もわかってますから」


その後、ネーナとの食事を済ませたクリスは自宅へと帰り。

1人写真を眺めていた。


「兄さん、やっと僕も前線に出れそうだよ。もしかしたら死ぬかもしれないけど、兄さんの汚名を晴らすために僕も頑張るから。見守っていてね」


子供が2人で映る写真、片方の顔は破られていたが自身の想いを胸に写真を胸ポケットにしまったクリスは、目を閉じ眠りについた。


自身の兄であるフロップ・エンデバー。敵の中立拠点を破壊しこの戦争を始めた張本人とされているフロップは、開戦から7年経った今でもグローブ隊と共に汚名を被っている。

生前よく慕っていた兄がそんなことをするはずがないと思っているクリスは、開戦から秘密裏に調べていたが、どんな記録からも存在を抹消されていたグローブ隊の隊員たちを詳しく調べることは出来なかった。


クリス自身もフロップの弟として、軍部から懲戒処分を受けエリートコースだったはずの道から外れ、現在の任務に就いていた。

そんな中でも、自身の腕を認め直属の部下として使ってくれていたユキシラ総司令官には感謝しているものの、上層部への疑念はぬぐい切れずにいた。



翌日、コロニーの宇宙港へと足を運んだクリスは1機の黒いバトルフレームが目につき、その造形に見とれていた。


「綺麗な機体だな、これも木星の物とは思えない構造をしてる」

「その機体が気になるか? 兄ちゃん」

「あなたは?」

「フリーランスの戦争屋とでも名乗っておこうかな、ロイ・フランチェスカだ。よろしく」

「木星軍所属、第86遊撃部隊隊長クリス・エンデバー准将です。木星の協力者ですよね?」

「あ、あぁ協力するかどうかは未定だけどな。木星からの依頼で本星から積荷を運んでてな、おたくの所が引き取り手なんだろ?」

「えぇ、恐らくは」


「パパー! そろそろ出発の準備しないと!」

「あぁ、すぐ行くわ。つかおいキョウカ! 作戦行動中はロイって呼べよ!」

「あーごめーん癖で!」

「じゃあな兄ちゃん、達者でな」

「はい」


遠くから呼びかけた女性の元へと向かうロイを見送り、クリス自身も自分の船へと向かう。


「隊長! コロニーの司令から報告です! サイガスコロニーの周辺に敵の艦隊が接近してると!」

「なっ、各員に通達戦闘配置に着け! コロニーの民間人を守るために出撃するぞ!」

「了解! それともう1つ気になる報告が」

「なんだ!」

「数分前に所属不明機がコロニーから敵艦隊に向かったそうです!」

「どういうことだ、まさかコロニー内にスパイが?」

「わかりませんが重要人物が誘拐されたとの話も出てます!」

「艦橋に上がる! コロニーの司令と繋いでくれ!」


「まずは状況の説明をお願いできますか?」

「貴様らに助けてもらう必要はない! 本国からの命令を遂行することに集中するんだな!」

「そうはいきません! サイガスコロニーにはろくな警備部隊も居ませんし、本当に火星の艦隊が周辺に居るのでしたら、間違いなく我々遊撃隊の職務であると判断します!」

「ちっ、ただでさえこのどさくさで王女の行方が分かっていないというのに。階級が上がったからと言って私は貴様たちを認めるつもりは――」

「待ってください! レーシア王女がサイガスコロニーに?」


失言をしてしまったと露骨に顔に出るコロニー司令に問い詰める、諦めたのか司令はばつの悪そうにごにょごにょと話し始める。


「貴様らの運ぶはずだった積荷の一部がレーシア王女なのだ、王宰機の搬入出には王族の動向が必要だという奴らのせいで。私が面倒事をしょい込むはめに」

「コロニーから敵艦に向かったという所属不明機にレーシア王女が連れ去られた可能性は無いんですか?」

「その可能性は無い! 王女の警備には優秀な者が付いていたはずだ!」


「司令! 警備隊から王女の警備についていた者たちの死体を発見したという報告が!」

「なんだと!?」

「王女と共に行方不明になっている警備の者が1人居ます」

「その人が火星のスパイってことですね」

「ぐぬぅ、クリス准将。このコロニーの司令として命令する」

「なんなりと」

「敵艦の殲滅! 及び王女の救出を―――」


命令を下そうとした司令の言葉を遮るように無線がジャックされ、不気味な声が艦全体に響く。


「初めまして、火星第18艦隊所属ダミーレグと申します。木星軍の皆様にお願いがあって無線をさせていただきました」

「なんて大胆な」

「艦長、出港の準備を」

「我々はあなた達の象徴である、木星王国の王族レーシア王女を誘拐させていただきました。我々の要求は2つ王宰機と呼ばれるBFと先日あなた達によって鹵獲された、火星のBFを引き渡していただきたいのです。王女を無傷で返して欲しければね」


「この通信に返答出来ますか?」

「相手はオープン回線で話してますから可能でしょうね」

「よし。その3機を受け渡したとして、王女を無事に返してくれる保証はあるんでしょうか?」

「えぇ、無傷で返却するとお約束しましょう。従わない場合はどこかへ売り飛ばすなり、奴隷にするなり、火星でさらし首にするなりなるでしょうが」

「馬鹿な! 王宰機を渡すことなど絶対に出来ん、そんなことしてみろ私が死刑になってしまう」

「司令は黙っていてください!」


自分の運ぶはずだった荷物の正体を知りつつも、最優先にすべきことは王女の命。

その判断は決して変わるはずも無いのだが、自分の保身に走るコロニー指令の考えは大きく違う。


「とにかく! 王宰機の受け渡しは不可能だ王女を助けたければ貴様らだけでやるんだな!」

「それが上に立つ人間のいうことですか!?」

「交渉決裂、ということですか。でしたら実力行使に出させていただきましょう」

「まて! まだ僕たちの話は終わってない!」


クリスが言い終わる前に通信は切れ、コロニーとの通信も通じなくなった。

実力行使、その言葉の意味は深く考えずともわかる。


「最悪ですなぁこの状況は」

「艦長、出港します。目標は敵艦に捕らわれた王女の救出、及びサイガスコロニーへと攻撃を仕掛けた敵の殲滅」

「了解しました」


「面白いことになってそうだな?」


出航しようとしていたセグレスの進路を白い戦艦が防ぎ通信が入る。


「ロイさん」

「あまりにも面白そうなんで一枚噛ませてくれよ、俺らの艦が先行して援護してやる。動かせるBFは無いんで、戦艦以外は戦力にならないが。足手まといにはならないぜ」

「感謝します、ですが我々に協力すれば木星軍での立場が悪くなる可能性も・・・」

「言ったろ、俺らはフリーランスだ。木星から目の敵にされても大して困らん」

「わかりました、ではよろしくお願いいたします」

「あいよ! ハクライ出航! 敵の砲撃を引き付けるぞ!」


「助かりますな、正直言ってまともに出航出来るかも怪しいレベルですし、自ら矢面に立ってくれるとは」

「艦長、あの艦についていく形で、指揮は任せます」

「イエッサー! 各員フリーランスに後れを取るなよ!」


コロニー港から出航した2隻の戦艦、白く輝く艦ハクライとセグレス。

出航とほぼ同時、コロニーの警備艦であった木星所属の艦船が赤い光に射貫かれ爆発した。


「ほほう、これは激しいですな」


「ネーナ! レイエス! 出撃と同時にセグレスの防衛に着け! モーリス! 後方からの支援バックアップを! アダム、イレイナ! 僕と共に先陣を切ってハクライを援護しつつ敵艦へ接近するぞ!」

「「了解!」」


統率の取れた部隊員たちが整備クルーの合図に従いカタパルトへと向かう。


「やれやれ、正規任務が来たと思ったらこれですかい」

「レイエスさん、愚痴ってもしょうがないですよ。今は戦闘に集中しましょう」


『全システム確認よし、進路クリア! レイエス機、ネーナ機、出撃どうぞ!」


「レイエス・クーバー、グロリアC出ますよ!」

「ネーナ・セグウィ、グロリアC発進します!」


『続いてモーリス機、アダム機、発進どうぞ!』


「モーリス・モーリス、ブラハF出ます!」

「アダム・ミッチェル、グロリアストライカー発進!」


『続いてイレイナ機、クリス機。発進どうぞ!』


「イレイナ・モモセ、グロリアストライカー発進します!」

「クリス・エンデバー、グロリアストライカーF行きます!」


セグレスから出撃した6つの閃光、中距離戦闘を主軸に構成された86隊は機体性能の劣る部分をパイロットの技量で埋める戦法を使う木星の例にもれず。基本は多対1での戦闘をする戦闘構成になっていた。


機動性と射撃性能に特化した量産型機グロリアをベースに改良された後期生産型グロリアCカスタム

高い索敵性能を持ちその上で狙撃性能に特化したブラハF。

グロリアの基本性能はそのままに近接性能を強化されたグロリアストライカーとその指揮官であるグロリアストライカーF。


受領したばかりで全員が手に馴染まない機体での出撃になっているが、火星製の機体と違いコックピット周りの構造に大きな変化の出ない木星のBFは直ぐに手に馴染む。


「レーダーで感知している敵艦は8隻、左右に展開している4隻はハチドリ級駆逐艦、中央に展開している4隻は3隻がオウル級、旗艦と思われる船はファルコン級です。

展開しているだけでもBFは46機、数では圧倒的に不利です」


「ハチドリの積載機数が5、オウルが8、ファルコンが10だったか、20の24の10で、八機は後ろに控えてる可能性があるってことですかい」

「各機守りを最優先に、各個撃破で数を減らしていく」

「了解」


先行して突撃するストライカーの3機が敵の間をすり抜けつつ、同士討ちを誘いながら接近戦で敵を撃破しつつ、その背後を狙撃機がカバーする。

セグレスから放たれたオレンジ色の艦砲が戦艦の近くを通るが、練度の高いチームであるが故に数秒の猶予があれば射線に敵を巻き込んで自機は離脱するという戦法も行え効率よく敵を排除できる。


「こちらハクライ、敵艦2隻を撃沈」


先行している3機より前を行くハクライから女性の声で撃破報告が入る。


「恐ろしい戦艦ですね、単機でBFを相手にしつつ敵艦も沈めてる」

「でも、あんなに先行されたら援護のしようがない。無理はしないで欲しいけど」

「この短時間で連携を取るのは不可能ですから、沈まない程度に戦って欲しいですけどね」

「艦砲の色も白いですし、特殊な艦なんでしょうか」


「王女が乗ってるのは恐らくファルコン級、近くから敵機が離れない。少しでも劣勢を感じ取ったら逃げる可能性もあるし、やるならいまか」

「無茶はしないでくださいよ」

「レイエス、指揮を任せる。艦長グロリア用のブースターを射出してください」

「ちょっと隊長、突っ込む気じゃないでしょうね」

「ハクライが先行して敵を引き付けてくれてる今しかチャンスが無い、敵が撤退する前に敵艦に突撃して王女を救出しよう」


「無茶苦茶な作戦だが面白い、ブースターとやらと一緒についてってやるから少し待ってろ」

「ロイさん、出せるBFは無いんじゃ」

「うちに搭載してる唯一のBFはパイロットが艦の指揮で忙しいからな、うち自慢の支援型高機動兵器があるからそれで援護してやる」

「航宙機で援護なんて無茶ですよ!」

「大丈夫だ、単機でもお前らの機体よりは強い」


後退しブースターを装着していたクリスのグロリアへと黒い機体が接近する。


「その機体は、さっき宇宙港で見た」

「BF-01Sブラックバード、独立高機動支援型可変式兵器だ、さっき港で見たのは人型の状態だな」

「黒い翼のような見た目になるんですね」

「上に乗って推進力の強化とウィングでの支援をする、あんまり戦闘には向かねぇけどその辺は勘弁してくれ」

「了解です、期待してます」

「キョウカ、進路を確保してくれ」

「了解、カウントは居る?」

「いらん」

「艦砲1から4番発射!」


「行くぞ兄ちゃん」

「はい!」


ハクライから撃たれた艦砲を合図に、スラスターを吹き敵本陣へと突撃する2機。


「敵機左右から2機!」

「見えてるよ!」


ブラックバードの羽の一部が外れ、2本の剣が敵機の武装と頭部を破壊し無力化する。


「すごい」

「稼働時間が極端に短い以外は欠点が無い機体なんでな」

「追加で3機来てます!」

「1機は任す、被弾は覚悟しとけよ」


2機を止めるために接近した敵機の攻撃がブースターに直撃する、推力は衰えないものの、ブースターが軋み始める。


「切り離します、援護してください!」

「ちっ、木星の機械は耐久性に難があるなったく!」


切り離したブースターがグロリアから離れ、近くのデブリに衝突し爆散する。

足を止めた2機を敵からの容赦ない攻撃が襲う。


「くっ」

「キョウカ!」

「急に無茶言わないでよ!」


ハクライからの援護砲撃が2機に標準を合わせ発射される。


「上手くいけよぉ」


間に展開された3本の剣が円を作り、その中をハクライの砲撃が突き抜ける。

剣によって収束させられた、ビームは軌道を変え別地点の剣に向かい剣を反射して周囲の敵機を貫く。


「ギリギリってとこか」

「まだ敵艦まで距離が」

「バックにブラックバードを接続する、さっき以上にスピードは上がるから舌噛まないように気を付けろよ」

「了解です!」


(今の一瞬で敵を倒したのも凄いけど、全部コックピットは外してる。なんて技量をしてるんだこの人は)


ロイに対しての尊敬を向けている間にブラックバードから伸びたアームがグロリアを掴み、グロリアの背中に黒い翼が生える。


「接続完了、2分で到達するぞ」

「その推力はグロリアの方が持たない気が」

「大丈夫だ、繋がってる間は守ってやれる」


敵の後続に接近される前にブラックバードの最大出力で敵艦に向かい再び進み始める。

その機動性は宇宙空間であるにもかかわらず、体がシートから起こせなくなるほどのスピードに到達している。


「切り離したら援護はするがその機体がいつまで持つかわからねぇ、艦橋か格納庫に突っ込んで内部へ乗り込め!」

「わかってます!」


分離されたグロリアは推進系統に異常が出たのか、ブレーキを掛けることが出来ず。

勢いを抑えきれずに敵艦へと激突する。

その場所へ


「亀裂が入った、よし!」

「脱出の事は考えないでさっさとお姫さんを助けてきな!」

「はい!」


携帯用の拳銃を手に持ち敵船の内部へと侵入する。


「無事でいてくれよ」


「左舷上方にかすめました! 絶対障壁の残量ももうありません!」

「まだパパ達が敵艦から離れられて無い! 前進止め、回避行動に専念して!」

「キョウカ、指揮を変わるからルージュで出ろ!」

「まだ調整が済んでないよ!」

「長距離砲を1個切り離す、狙撃での援護くらいならできんだろ!」


「まずっエネルギー切れ!?」


戦闘中の86隊も徐々に数に押され始め、弾薬やエネルギーが切れ始めた。

基本動力系統がバッテリー式のためエネルギーが切れればその場で戦場の的になってしまう。


「イレイナ後ろだ!」


先行していたイレイナがエネルギー切れを起こし、助けに行こうとしたアダム自身もその進路を敵に阻まれる。


「くぅ」


敵のサーベルに切られ、左腕が切断される。

その隙を見逃すまいと敵の数が増えていく。


「若者達は引き際ってもんを知らねえからなぁ」


イレイナのグロリアに接近していた機体がレイエスの放ったビームに射貫かれ爆発する。


「レイエス、どうしてこんな前まで! 船の守りは!?」

「そっちの方はもうだいぶ追いついてる、敵さんは突っ込んだ2機に引っ張られて大分下がってるしな」


「レオナルド、不甲斐ない奴のサポート助かったハクライの被害状況は?」

「軽微です、ただ絶対障壁のエネルギー残量が30を切りました」

「まぁこっからは指揮が俺になるから安心してくれ。キョウカ、木星艦の甲板借りて後方の支援機と一緒に狙撃しろ、バックにブラックバードを着けるのを忘れるなよ、遠隔でサポートしてやるから」

「わかってる! キョウカ・ユキシラ、ランペルージュ行きます!」


ハクライの貨物コンテナから出撃した紅色のラインの白い機体が背中に黒い翼を着け飛び上がる。


「ロングレンジライフルを切り離して後方の味方艦へ、まだまだ戦場を荒らし足りないからな、ハクライはこのまま全速で敵本陣へ突っ込むぞ!」

「了解!」

「全主砲標準、副砲、機関砲は敵BFの接近に備えておけよ!」

「各砲撃手無駄なエネルギーを使うな! 推力最大目標敵艦隊!」


本来の持ち主の指揮下に戻ったハクライのクルー達はせわしなく動き始め、船首付近に着けられた4門の2連ビーム砲が敵艦へ向け標準を合わせる。


「ロングレンジライフルランペルージュに渡されました。動力は予備のエネルギータンクも含め全部ランペルージュに渡してます!」

「よし、木星艦に通信。本艦はこれより敵艦隊を蹴散らす、巻き込まれるなって言っとけ!」

「さて、まずは目の前のハチドリだ、主砲1番2番撃てぇ!」


ハクライから放たれた2本の白い光が目のまえに立ちふさがっていた敵艦を打ち抜く、ハチドリの艦砲をかすめた砲撃は付近にいたBFも掠め、高威力のビームが装甲を溶かす。


「ハチドリ級の艦砲無力化、ミサイルが来ます!」

「機関砲始動撃ち落とせ!」

「流石にいつもの戦法は厳しいのでは?」

「大丈夫だろ。操舵! 敵艦の真上を通れ、沈めるのは後ろに任す」


「狙撃体勢に入ったよ、目標は木星の隊長さんがいる船以外でいいんだよね?」

「そうだ、燃費が悪いから無駄撃ちすんなよ」


ハクライの攻勢は敵の艦を圧倒し、基本スペックで大きく劣っているとはいえ被弾すらさせることが出来ずにいた。


「こりゃまた凄まじいですな、あの傭兵は」

「どうします? これ以上着いていったらこっちも無傷じゃ済まないかもしれませんよ」

「他人任せは嫌いじゃないですが。機関最大、ハクライとの距離を一定に保ちつつ、敵艦を落としていってください」

「了解」


「セグレス第一射を撃ちます反動が結構来るので気を付けてください」

「BFの性能はいかがでしょうかね」


甲板に寝そべるランペルージュの構える長砲身のライフルから緑の光が放たれる、ちょうど交差したハクライとハチドリへと向かった砲撃がハチドリを射貫く。


「あっぶねぇ。キョウカ! タイミングがはえぇよ!」

「ごめん、当てるつもりなかったんだけど。少し調整する」


真下で爆散したハチドリの残骸と爆風がハクライへと巻き込むが、大きな損傷にはならず艦は進んでいく。


「3番4番敵艦隊左舷のハチドリに向けて砲撃開始、この距離だ最悪沈めちまっても構わん、1.2番は1門ずつで奥と中央のオウル級2隻を潰せ!」

「相変わらず無茶な指示で」

「正面の艦は後ろにキョウカに仕留めさせろ! 後ろに撃たせるなよ!」


敵艦隊の中央に向かい続けるハクライへと放たれる砲撃の数は増え続けるが、進行速度を維持したまま突き進む。


「侵入者が入ったぞ探せ!」


敵艦内部へと侵入したクリスは内部で王女を探していた。

適当な部屋に入ると豪勢な部屋になっていた。


「ここは」

「誰!?」

「レーシア王女!?」

「クリス! どうしてここに!?」

「王女の救出に来たんです、脱出しましょう」

「でも、ここは敵だらけよ」

「大丈夫です、86隊と傭兵の方が外に」

「そう、なら脱出したいけど。私用の宇宙服が」

「持ってきてます、これをきてください」


そういうとクリスは小型化された宇宙服の入ったケースを渡す。


「艦長、王女を発見しました。入って来た亀裂から外に出ます、回収を」

「ふむ、現在位置を教えれますか」

「発信器を使います」


「ハクライ、救出を応援出来ますかな」

「了解」


「敵艦撃破、残るは旗艦のみです」

「よし、予備ブースター解放敵艦に突っ込むぞ!」

「絶対障壁の残量10を切ってます、突っ込んだら艦が傷つく可能性が」

「これが終わればなんとかなる! ぶつけてでも落とせ!」

「救出が先でしょうが!」

「そっちはお前に任す!」

「まったく、重要なところは人に任せるんだから!」


セグレスから離れていたランペルージュが敵艦に取り付き、発信器の信号付近に手を突っ込む。


「2人とも乗って!」

「いいタイミング、ありがとうございます!」

「離れないとこの間吹っ飛んじゃうから早く!」

「えっ!?」


「突っ込めぇ!」


2人を乗せたランペルージュが離れるのと同時、ハクライがファルコン級へと激突する。


「全砲一斉発射! ぶちかませ!」


ハクライから放たれた砲撃が内部からファルコン級を破壊し、爆発させる。


「絶対障壁の残量ゼロ! 爆風が直に来ます!」

「アルゴナイト製の装甲がそうそう壊れるわけねぇだろ! 全速後退!」

「セグレスと合流してコロニーへと帰還しましょう」

「いや、ランペルージュを回収したら俺らは補給に戻るぞ、ブラックバード以外のBFが欲しいしな、予備を取りに行こう」


「なんて戦い方をする人なんだ、軍規から離れてる人間にしか出来ないような戦い方をする」

「不思議な人ね、おかげで命拾いはしたけど」

「コロニーに帰りましょう、王宰機も回収しないと」

「そうね、王宰機は回収しましょう。ただコロニーには帰らないわ、月に行かないといけないの。パイロットさん、あなた達の代表とお話できます?」

「大丈夫ですよ、コックピットの中にどうぞ」


「この度は助けていただきありがとうございます」

「いや、面白そうだったってのが本音なんでね。例には及ばないぜ」

「あなた達を正式雇わせていただけませんか? 私たちの仲間として」

「難しい話だな、俺は傭兵って肩書があるだけで別に人殺しがしたいわけじゃないんだ」

「お気持ちはわかります、ですがこの戦いを終わらせるためにお力をお貸しいただけませんか」

「ま、いいだろ。美人にそこまで頼まれちゃ断るのもな」

「あらあら、素直じゃない言い方するねパパも」

「キョウカ、作戦行動中は―――」

「わかったわかった、帰還するよ」


木星所属の第86遊撃隊、そしてハクライを旗艦にしたロイ率いる傭兵部隊は補給を済ませ月への進路を取った。

木星と火星の長きに渡る戦争を止めるために。

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