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公園デート

 ミツユキ君とは別の区の学校だから、日曜日くらいにしか会えない。


 今日は少しおしゃれをして、姉に「いいひとできたな」と言われた。


 思わず苦笑して「父さんと母さんにはまだ秘密にしておいて」と言って家を出た。


 まだ午前中、ただ連休なので公園にはけっこうひとがいる。


 バドミントンをしているひと、油絵を描いてるひと、お弁当を食べてるひと。


 きこえへんのんけ、と片方のスニーカーを耳にあててがなっているひともいる。


「ヤバい。目が合ったかも」


「場所を移そう」


 そう言って私の手を自然とにぎり、安全だと思しきベンチに座る。


「あ」


 自然と手を握っているのに気づいて、ミツユキ君はびっくりしていた。


動揺して言葉に困った私「えーっと・・・」


「このまま少し、手を握っていてもいいかな」


「あ、うん。それでいいよ。手汗かくかも」


「いい、いい」


「・・・ミツユキ君って、どんなひと?」


「ん?」


「どんな感じのひと?」


「そうだなぁ・・・」


 ミツユキ君はふたつ上の兄がいて、音楽バンドを組んでいる話をしてくれた。


 最新の曲をチェックするために兄が週間トップ10のCDを買うのでおこぼれがあるらしい。


 その代りお小遣いでお菓子を兄にお礼として買っているらしい。


 まぁ、情緒みたいなもので一緒に曲を聴いたりとかする時に買っている、と。


 マチルダさんのお家に訪問する時に「ポッキー系お菓子」の持参を思いついたきっかけはそこから来ているらしい。


 あと、その時には言えなかったんだけど「抹茶クッキー」を食べたのは初めてだったと。


 あれはどうも、どこを探してもないからまた作って欲しいと言われた。


 かなり嬉しい。


「クッキーは粉から作ったりしてるの?」


「あ。抹茶はふるいにかけるけど、ベースはホケミだよ」


「ホケミ?」


「ホットケーキミックス粉」


「ほ~。ちんぷんかんぷん。とにかくあれまた作って欲しい」


嬉しくて笑い気味な私「分かった・・・好きな野菜とかある?」


「野菜?カボチャとか、ピーマン」


「ピーマン好きなひと初めてみた」


「マヨネーズがあれば生で食べれるよ」


「カボチャ料理って何が好き?」


「ほ~・・・そうだなぁ。煮物とか甘煮とかクッキー、プリン・・・」


「クッキーなら作れるかも」


「あ、さつまいもクッキーも好き」


「美味しいの?」


「俺的にはかなり」


「あとで調べておこう、っと」


 そのあとミツユキ君は、母が最近「合唱部」に入った複雑な気持ちを語った。


 なんでも小さなお披露目会とかがあるサークルらしい。


 黄緑色表紙の練習用楽譜歌詞が家の中に落ちているのを発見して判明したらしい。


 一瞬、兄のものなのかと思ってぞっとした、と言っていた。


 猫を飼っていて、いつの間にか太ったなと思ったら近所の外猫が父親らしい。


 父がペットショップで買った血統書付きなのに、とぼやいた話もしてくれた。


「あ。忘れてた」


 斜めがけのカバンから、何かを取り出す様子のミツユキ君。


「ん?」


「これ、ありがとう。めちゃくちゃ面白かった」


 示されたのは貸した書籍『ノットタイトル』。


「前に小さい頃に読んだことがあるって言ってたよね」


「うんうん。また読みたくて探してたんだ。借りてから三回読んだ。ありがとう」


「いえいえ」


「いったん夢が叶ったから、『白魔女伝』を古本屋まわって探すのさ」


「え、持ってきてあるよ」


「ん?」


 私はカバンの中から書籍『白魔女伝』を取り出し、彼に示した。


「ええっ。まさかっ・・・」


「借りてもいいよ」


「マジでっ?ありがとうっ。今度何かお礼するよっ」


「ふふふ。ありがとう」


「うーわー。夢がまた叶う~。どうしよう、感情のコントロールがむずかしい」


「大丈夫、大丈夫」


「俺、学校ではすかしてるひとですよ」


「モテるの?」


「ん~・・・よく分かんない。時々無断で隠し撮りされたりとかされるくらいかな」


「無認可のファン?」


「基本的に俺アホだから、バカと話しが通じない」


「じゃあ私、アホなんだ?」


「アホかバカで言うと、俺をこんなに喜ばせるってバカの成分がないかもしれない」


「そうですか」


「うんうん」



◇一緒にコンビニランチ◇


・おにぎり

・リキット紅茶

・堅いポテチ

・濃厚プリン


「そう言えばマチルダさんの飼い猫が言ってた「あいつ」って・・・」


「ん~・・・もしかしたら、『いいひと』ってこと?」


「多分」


「猫、喋ってたよね?」


「うん。白魔女がいるのは知ってたけど、猫が喋るとか知らない」


「・・・ん?」


「私のおばあちゃんはもう亡くなってるけど、白魔女だったの」


「ほう。信じがたい」


「まぁ、そうだよね~。魔法みたいに手際良く料理ができるひとだった」


「抹茶クッキーが美味しかったから、俺的には何も問題ない」


「そうんだ?ちょっと緊張してる」


「ん?俺は白魔女に会うのが夢だった、って君には言ったじゃん?」


「・・・え」


 彼がにっと笑った。


「不思議な感じはしてたんだ。あの帽子は趣味なの?」


「あ、あれは祖母のダンスの時の衣装ですっ」


「似合ってたね」


「ああ、そうですか」


 おそらく動揺している私の様子を楽しんでいる彼が嫌いになれない。


 彼はビニール袋にフィルムなんかを私の分まで入れると、ゴミ箱に捨てに行った。


 戻って来た彼は再び隣に座り、お礼を言ったのに無言だった。


「どうしたの?」


「ねぇ・・・今度さ、ふたりでまたお菓子持参して、マチルダさんの所、行かないか?」


「え、それでもいいけど・・・あの繊細な感じ、傷つけそうで怖い」


「意味分かるけど・・・」


「うん、じゃあ、行く。とりあえずクッキー焼く」


「カボチャかさつまいものクッキーがいいな」


「うーん・・・吟味します」


「うんっ」



 そのあと、次の日曜日にもデートを兼ねた散歩をしようという事になった。


 片方のスニーカーを電話だと思ってる中年男性がミツユキ君を見つけて走って来た。


 驚いたし怖いので、ふたりで手をつないで走って逃げた。


 貴重品持っててよかった。


 とりあえずできるだけ走って、区の境で「今日はもう帰宅しよう」と言われた。




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