素敵なおもてなし
◇持参したもの◇
・手作りのチョコチップクッキー
・手作りの抹茶クッキー
晴天。彼女の庭にはテーブルがあって、席はみっつ。
卓上にはすでに薬草を練って作ったパンやエディブルフラワーのゼリーがある。
その席に持参したクッキーは喜ばれた。
とくに「抹茶」が珍しかったらしく、気に入ったと彼女は言っていた。
ミツユキ君はコンビニで買った「数種類のポッキー系お菓子」を持参していた。
特に口紅みたいな味のするやつが私は好きだ。
マチルダさんは野菜味が好みだったらしく、これも気に入ったと言っていた。
十五歳から酒を飲んでもいい地区らしく、普通に酒が出された。
私の住んでる地区ではお酒は二十歳から。
まぁ、ミツユキ君とアイコンタクトで秘密にして飲んじゃいましたけど。
薬草リキュールをラム酒で割ったもの。
マチルダさんは「ヴォシーヌのシードパンを作りたかったわ」とほろ酔い気味に言った。
どうも彼女が話しだしたのは異世界にある植物の話。
多輪で香りも良い、食すこともできる見目の良いシュアザローナ。
「シュアザローナ、ってなに?」とミツユキ君。
「貴重な、希少な・・・珍しい、みたいな意味よ」
どうもパンに使った薬草はマチルダさんの庭から採取されたもの。
食べてみて美味しかったので、ベランダとかでの栽培は可能かとか聞いた。
それに喜んでマチルダさんは応えてくれた。
話は盛り上がるばかりで、楽しい時間だった。
ミツユキ君「そう言えば、マチルダさんは何歳?」
マチルダさん「そうねぇ。詳しくは数えてないけど・・・百五十歳くらいかしら」
私とミツユキ君は笑って、「それじゃあマチルダさんは魔女なんだ」と言った。
マチルダさん「ああ。バレてしまった・・・」と小声で言った。
「ん?」
「どういう意味?」
マチルダさんは「わたし、白魔女なの」と普通の音量で言った。
近くの区に150年不老で生きてる白魔女がいるなんて、聞いたこともなかった。
ミツユキ君は「可愛いのに恋人さんはいないのか」とマチルダさんに聞いた。
「いるわ・・・いえ、いた、かもしれない」
私「それはどんなひと?かっこいい?」
マチルダさん「ふふふ。そうね、とってもハンサムだし優しいひとだった」
ミツユキ君「今はどうなってるの?」
マチルダ「ある日、散歩に出かけると言ったきり、未だ帰ってこない」
私「なんてことなの・・・」
苦笑したマチルダさん「いいの、いいの。昔の話よ」
ミツユキ君「白魔女って不老なの?」
マチルダさん「そうね。私の場合、不老よ」
ミツユキ君「彼は普通の人間?」
――だとしたらとっくに寿命が。
マチルダさん「いいえ、彼も魔法使い。不老なの」
「「ええっ」」
「ふふ。ビックリした?」とマチルダさんはいたずらっぽく笑った。
「なに、どっきり?」
「えー、ビックリした~」
「マチルダ、マチルダ、大変だ。あいつについて情報がやっと入ったぞ》」
屋内から庭に出てきたその声の持ち主は、緑色の目をした黒猫だった。
「猫が喋ってる・・・?」
「《あ。ヤバい。人間の客か》」と黒猫。
動揺した私とミツユキ君を前に、マチルダさんは自嘲した。
「ごめんなさいね。記憶を取っておくわ」
そう言われてミツユキ君が、待った、をかけた。
「白魔女だなんて、なんてレアなんだろう。秘密にするからまた来てもいい?」
「え?」
彼女は私を見た。
「私も、マチルダさんとお友達になりたい」
少しの間があって、「今日はもう帰ってちょうだい」と言われた。
また気まぐれに来てもいいから、と気恥ずかしそうに小声で付け足された。
視線を外した彼女の耳は、心なしか赤くなっていた。
帰路、ミツユキ君が「また一緒にマチルダさんに会いに行こう」と提案した。
「白魔女に会うのが夢のひとつだった。まさか叶うなんてな」と嬉しそう。
私も貴重な出会いをしたと思ったけど、
なんだかミツユキ君が彼女を女性として好いているのではと空想してしまって、
一縷の不安みたいなものでいらないヤキモチを焼いてしまった。
◇夕食で特に美味しかったもの◇
・鶏ガラだしの効いたトマトのベーコンサラダ