お城の舞踏会
馬車が城の門の前に到着して、城側が招待状をチェックした。
「はい。確かに。ご来場感謝。宴をお楽しみ下さい」
カナンの手伝いで馬車から降りて、ミツユキ君が私に耳打ちした。
「パーティー会場で、キス、しようよ」
思わず笑ってしまう私を楽しそうにミツユキ君は見ている。
私も彼に耳打ちした。
「オーケーですよ」
「やっりぃ♪」
門番みたいなひとたちに、さっきから見られてるのに気づく。
カナンの案内で煌々とした場内に入る。
マチルダさんは緊張しているのかいつもより無口だ。
城内の広間には立式の宴がすでに始まっていて、美女たちが華やいでいる。
国の美女を招待した位の関係ない宴らしく、王子の結婚相手を探す目的らしい。
この国の王子は、マチルダさんの恋人だったヒューゴと言うひと。
それくらいしか知らない。
カナンに案内されて、人波にさらわれ迷う。
会場は広い。
そこで「おっと」と言って、私の腕を掴んだひとがいた。
「大丈夫?」
そこにいたのはミツユキ君で、「別行動しよう」と言い出した。
楽隊の演奏にふたりで社交ダンス。
目の中に星があるんだとしたら、輝いていたと思う。
曲の区切りに、腰を引き込まれ、突然のキスをされた。
ビックリしている私をよそに、にっと笑ってみせた彼は食事を一緒にしようと言った。
――
――――・・・
最奥に立派な椅子があって、そこにふてくされている美少年がいる。
そして側近がなにやら耳打ちしていた。
「王子、そろそろなにがしかとダンスでも~・・・みたいに言ってるのかな?」
変な声色を使ってそう言ったのはミツユキ君で、テーブル近くで食事をしている。
そこにカナンともめているマチルダさんがいた。
マチルダさんは泣いていた。
それに気づいた王子が視線を寄越すと、はっとして椅子から立ち上がった。
「マチルダ!君なのかいっ?」
マチルダさんは思わずその場から逃げようとして、片方の靴を残した。
カナンが側にいて、マチルダさんをいさめている。
王子が彼女の赤い靴を拾うと、人波が自然と引いて彼女への道のりが拓ける。
マチルダさんに「お忘れですよ、お嬢さん」と王子は言って、靴を示した。
「シンデレラみたいっ・・・」
「今、何時?」
「しっ」
「ちぇ、あ。これうまい」
マチルダさんは大声で「靴なんていらないっ」と泣きながら叫んだ。
会場がざわっとして少しして静まる。
王子が「気が済むなら、我を好きなだけぶつといい」と言う。
そんなつもりは毛頭ないわ、と目を真っ赤にして泣くマチルダさん。
王子ヒューゴは、靴をカナンに示した。
カナンが空気を読んでマチルダさんに片方の靴をはかせる。
王子の指令で曲調が変わり、もめながらもダンスが始まる。
彼女に何か耳元で話をしていて、だんだんと彼女の顔が明るくなっていく。
あとで彼女から聞いた話だけど、王子だと認められたら迎えにいくつもりだったらしい。
それまでの間に連絡を取っていたら、命の危険だったんだそうだ。
曲の終わり、王子はその場にかしずいてマチルダさんの手の甲にキスをした。
「どうか我と結婚を」
「・・・はい。それでかまいません」
場内から歓声が沸き、私も感動に目がうるうるしていた。
「はい、あーん」
そう言われて思わず口を開けて、何かを食べた。
差し出したミツユキ君に振り返り、「美味しい!これ、なに?」と聞いた。
「分かんない」




