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物語の続きは幸せのワルツ

作者: 桃井夏流

設定は暗いですが、話はシリアスで、ハッピーエンドです。何か間違えていたらすみません。


 彼を、一目見て、恋をした。



 だけどその瞬間、もう一人の私が駄目!と警鐘を鳴らした。



 その人を好きになっては駄目。


 その人と結ばれては駄目。


 その人に執着しては駄目。


 その人の、カイン・アーヴァンシュタイン様の、子供を産んでは駄目なのよ。



 だってそうすれば、この国は荒れる。



 私の名は、アリーア・テレサ・モンファイン。


 この国の第一王女。そして…。



 何処か別の世界で、執着のアリアと呼ばれる。



 悲劇のトリガーである。




 私は震えそうになる手をどうにか叱咤し、自室の扉を開き、少し一人にして、と侍女のサーニャに声をかけた。私の様子を心配しながらもサーニャは深く頭を下げたまま部屋に入って来る事は無かった。

本当に出来た人。流石私が一番信頼する侍女であり、私にとっては親友。ほんの少し指先に熱が戻った事にホッと息を吐き、窓から外を見下ろす。


 そこには先程、私が恋に落ちたアーヴァンシュタイン卿が、お兄様と何か会話をしながら、時折微かに微笑んでいた。



「…よりによって、アーリア、か」




 前世の私はこの世界『罪深き者達のワルツ』が好きで、何度も読み返した。特別人気があった訳ではないが、私にとってはお気に入りの一冊だった。ヒーローの父親であるカイン・アーヴァンシュタインが、凄く好きだったからだ。

 カインは元々現カレストレア侯爵の、所謂婚外子だった。夫人との間に子が出来ず、夫人は葛藤の末にカインを迎え入れた。だが、愛する事は出来ず、気を病んで、儚くなった。それを自分のせいだとカインはずっと悔み、心に抱えて生きていた。

 カインが辺境で戦果を上げ、城に上がる様になってしばらくして、縁談が来た。第一王女のアーリア姫である。アーリアに強く熱望されたカインは、戸惑いながらも、次第に素直に好意を示してくるアーリアに好感を抱く様になる。

 王はカインの戦果を讃え、アーリアを降嫁し、アーヴァンシュタイン公爵の身分を与えた。

 そしてアーリアとカインが婚姻を結ぶと、しばらくの後、息子のマインツが産まれた。

 カインは慣れない公爵としての身分に、日々を翻弄され、なかなか二人は会えない様な忙しい日が続いた。

 元々、束縛癖のあったアーリアが、先に落ち込んでいった。そこに同じ公爵のグライシス家が近付き、唆す。


『アーヴァンシュタイン公爵は随分親密な女性がいらっしゃるようですよ。あぁ、勿論、仕事の都合かと思いますが、ね』


 社交の場で独りになる度にそう言われ、アーリアは、次第にカインへの愛が歪んで行き、それは息子のマインツに向かう様になった。


『マインツは母様を独りにしたりしないわよね?』


 それがアーリアの口癖となる。マインツはそんな母を少し恐ろしく思いながらも、自分が母を守らねばならない。父は仕事ばかりで自分達を守ってはくれないのだから、そう思う様になる。

 そしてアーリアの兄であるリーファス第一王子殿下が何者かに暗殺され、アーリアはその容疑者として捕らわれた。

 マインツは母と引き離され、そのままアーリアは投獄される。


 カインがアーリアの嫌疑を晴らし、迎えに行った先に居たのは絶望の末に自死した妻の亡骸だった。

 そして親子は妻の、母の無念は晴らす為に犯人だった反王権派の旗頭でもあったグライシス公爵を撃つ作戦を練るのだった。




 ここまでが私の知っている『つみわる』のストーリー。この後をどうしても思い出せないからおそらく読む前に死んでしまったんだろう。もしくは作者が続刊を出さなかったか。


 どちらにせよ、私はアーヴァンシュタイン卿と結ばれれば、いずれ死ぬのだ。大好きなお兄様も、殺されてしまう。そんなのは嫌だ。

 私さえ、言い出さなければ。彼と結婚したいと父王に願わなければ、彼も何処かのご令嬢と幸せになる、きっと。


 ふと、意識を下に戻せば、アーヴァンシュタイン卿と目が合った気がした。気の所為かもしれない。彼がふと、微笑んだ様に見えた。


 作中にカインからアーリアに惹かれたと言う表現は無かった。だから、きっと、私の、私達の願望だろう。


 そう思って私はカーテンを引いてミーシャを呼んだ。


「はい、姫様」

「まぁ。どうしたのそんな顔をして。私、元気よ?ミーシャの美味しいお茶が飲みたいわ」



 回廊に居たお兄様とアーヴァンシュタイン卿が何を話していたかも、その時の私は考えもしなかった。





「アーリア」


 ある日、城内でお兄様に呼び止められて私はホッとした。良かった、まだお元気そうだわ。


「まぁリーファスお兄様、今日はお仕事はよろしいの?」

「あぁ。今日はお前に是非とも会わせたい人が居るんだ。時間はあるか?」


会わせたい人。パッと浮かんだあの顔を、慌てて消す。駄目よアーリア。そんな訳ないじゃない。


「大丈夫でしてよ。何処にいらっしゃるの?」


お兄様はウィンクをして、私を手招いた。


「こちらにおいで。中庭に行こう」

「えぇ、分かりました」




 まさかと思うじゃない。私、自分の目を疑ったわ。だってそこには、正装をした、アーヴァンシュタイン卿が立ってらしたのだもの。


「アーリア、此方、カイン・カレストレア侯爵令息だ」


ハッとした。私にとっては既にアーヴァンシュタイン公爵だったけれど、彼は私と結婚しない限り公爵にはならない。それはもしかしたら彼がずっとあの家に縛られると言う事なのかもしれない。


「…っ、はじめましてカレストレア卿。アーリア・テレサ・モンファインと申します。お見知りおきを」


お兄様は一体どうして彼を私に紹介しようだなんて思ったのかしら。私は日頃の努力の賜物な笑顔を浮かべながら内心お兄様をとても怒っていた。


私の決心を揺らがす様な真似をしないで欲しい。彼とはこのまま関わらずに、遠くから見て居られる限り、見ていたかった。それなのに…。


「はじめまして、アーリア王女殿下。リーファス王太子殿下にご紹介いただけてとても嬉しく思います。どうか私の事はカインとお呼び下さい」


驚いたわ。まさか彼が私にこんな好意的だと思わなかったから。そんな描写あった?無かったわよね?


「え、えぇ、よろしくお願いしますカイン…様」

「カインはこの前の内乱で凄く活躍してくれてね。報奨を授与される事になったんだ」

「殿下」

「だってお前達じれったいからさ。アーリアはよくお前の事を見ていたし」


バレていた!バレてはいけない人にバレていたわ!!


「お兄様、お兄様!」


慌ててふるふると首を横に振ってお兄様の手を抓った。


「痛いし、今更。いい加減観念しろ。カインはお前を報奨にと望んでいるんだぞ」

「殿下!!」


え…?カイン様が、私を報奨に…?それは一体どういう事?

カイン様を見てみると真っ赤な顔でお兄様を怒っている。

私の視線に気付くと困った様に眉を下げた。

困っているんだわ、困っている…。


「あの、私が陛下にお願いしましょうか?何か理由があるんでしょう?お力になれるなら私、なりたいと思います」


私の言葉に二人はポカンとした。私がしばらく待っていると、お兄様がカイン様の頭を叩いた。


「お前がはっきり言わないからだぞ!うちのお姫は鈍いんだ、ちゃんと言わないとこうなる!!」


失礼だわ。


「言う前に殿下が変な伝え方したんじゃないですか!」


ん?私、何か間違えたかしら?


「じゃあ言え!今言え!今すぐ言え!」


真っ赤な顔をしたカイン様が意を決した様に顔を上げると私の前まで来て、傅いた。


「お慕いしておりますアーリア王女殿下!どうか私と結婚していただけないでしょうか」


おしたい?だれが、だれを?え?かれが、わたくしを?え、でもそんなはずない。そんなはずないのに…。


「初めてお見かけした時から惹かれておりました。そして、貴女だけなのです。私が戦果を上げても態度を変えずに、そっと優しく見守って下さったのは。貴女が向けて下さる笑顔は、私が守りたいのです。どうか、お願いします…!」


その真剣さが、頑なな私の心を揺さぶる。

言っても良いのだろうか。でも、でも………。


私は情けなくも涙を溢していた。王女ともあろう者が、感情を御せないなんて、また叱られてしまうわ。



私が心配している事は、一番心配な事は何?


お兄様?

まだ見ぬ息子?

それとも我が身?



ううん、違うわ。きっと、私が一番心配なのは……。




「…………貴方は、私と結婚したら、幸せになれる?」


私の問いに、カイン様はそれはもう、幸せそうに笑った。


「はい。この上なく」


この笑顔を信じてみよう。


そう思ってしまった。頭がおかしいと思われるかもしれない。それでも、話してみよう。


何もしないで諦めるのは、もう終わり。




「カイン様、お兄様。お二人に聞いていただきたい事がございます」




私の話を、鵜呑みには出来ないが、心に留めてくれるとお兄様は仰ってくれた。


カイン様は、何故かホッとなさっていた。


「私が嫌われていると言う訳ではないのですね」

「まさか!」


私が懸命に否定すると、カイン様は苦笑なさった。


「その私はとても不甲斐ないようですが、私はそうならないよう努力します。ですからどうか、『私』を信じてみて下さいませんか?」


その言葉に、遂に私の全てが決壊した。

涙はポロポロと止まらないし。

心臓はバクバクとうるさいし。

心は、この人が好きだと叫んでいる。


「…ずっと、ずっと好きでした」


「はい。私も、貴女をお慕いしております」


「幸せになって下さる…?」


「一緒に幸せになりましょう」




 結果的に、私達は物語とは流れが違えど結婚し、子はカイン様そっくりな男の子で。かぁさまかぁさまと懐いてくれるのが可愛くて、可愛くて。


 お兄様は襲撃されたけれど、殺される事はなかった。私の話を覚えていてくれたお兄様はグライシス公爵に気を許さなかったし、身辺警護には気を付けていた。


 本当に、本当に良かった。


 あの日、諦めていたらこの幸せは手に入らなかった。あの日、この人を信じられなかったら、私は今頃どうなっていただろう。


 おそらく何処かに降嫁していたか、もしかしたら隣国との関係強化の為に嫁がされていたかもしれない。


 私は今幸せだわ。可愛い息子が居て、頼りになる、愛する夫が居て。


「ねぇカイン、今幸せ?」


「ふふ、またその質問?アーリアは気にし過ぎだなぁ。でも心配なら何度聞いてくれても良いよ。当たり前でしょう、幸せだよ」


「かぁさま!かぁさま!ぼくも!ぼくもしあーせ!」





 物語の続きは、幸せな現実の中で。

読んで下さってありがとうございます。

10/12少し修正しました。

10/13誤字報告ありがとうございます、修正させていただきました。


ちょっといつもと雰囲気が違っているので不安ですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


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