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恋知らぬ姫と月恋う王子  作者: 津木島千尋
婚約破棄とはいかがなものか
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夜の道

 見るともなしに夜に沈む街の景色に目を向ける。この時間になると車以外の外出は禁じられているため人影はほぼなく、ぽつりぽつりと置かれた道路沿いの街灯が、その周囲を小さく照らし出している。

 

 疲れたと思いながらも、頭の中では婚約破棄のことを繰り返し考え続けていた。

 カールが何を思ってその決断に至ったのかは分からないが、王子の一意見で賢者や国が絡んだ婚約をひっくり返すことができるのか。


 王は賢者によって任命されるもの。血による相続ではない。

 私たち王の血縁者は王族ではあるが、それは血縁者が王であるうちだけだ。私も父が王の座にある間だけ、王女という役割を担っているにすぎない。王女が行使できる権力など、賢者や世界の仕組みの前では些細なものだ。王子であるカールも同様だろう。そして王の権力さえ、賢者から託されたものにすぎない。私たちは一時だけ国を背負っている。


 重要なのは、私たちの結婚が今後の世界にとってよい結果をもたらす可能性が高い、と賢者が判断したことだ。


 その判断を、たとえ王子とはいえ個人の感情で覆すことは難しいだろう。

そのくらいのことはカールにだって分かっているに違いない。彼は決して愚かな人ではなかった。


 ならば、カールは今夜の発言をするまでにすでに各所に根回しをしているということだろうか。その上での今日の発言だったのか。

 夜会会場にいた友人たちの顔を思い出す。

 リズをはじめとした彼の側近にその様子はなかった。憐れむような眼差しも、嘲りの笑みも、彼らからは向けられていない。


 確かめなければ、と思う。

 まず、状況を把握しなければ、立場にふさわしい次の行動を選択することができない。

 まだ頭は回っていない感覚はあるが、泣いたことで少し気分はすっきりしている。少しだけ普段の私が戻ってきている気がした。

 

 車を走らせながらも狼狽した様子でこちらの様子を覗う運転手に、大使館に立ち寄るように指示を出す。

 

 私たちよりも上の立場の人に、事態を把握しているのか、話を聞かねばならないだろう。

 大使や父や、それからこの国の中枢の人々にも。

 その上で私がとれる最善手は何か。

 

 ああ、と溜息がこぼれる。

 後手に回っていると感じる。この国に来てうまく振る舞えないことは多々あったが、こんな振り回され方は初めてかも知れない。

  私は失敗したのだ。失敗とはこういうことなのだ。そう思うと、胸が苦しくなった。

 

 情報伝達の流れがよくないと思うわ。

 

 少し前の私であれば、カールにそう苦言を呈しただろう。上に立つ者は水が末端まで滞りなく届くように仕組みを考え、物事を運ばなければならないわ、と。

 もしかしたら彼にとっては私のそのような物言いが煩わしかったのかもしれないけれども。

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