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恋知らぬ姫と月恋う王子  作者: 津木島千尋
婚約破棄とはいかがなものか
10/25

奇妙な午後

 結局私たちの婚約は解消されなかった。

 社会は大人が回しており、私もカールも彼らの手のひらで踊る演者のひとり。私たちふたりが納得ずくだとしても、簡単に物事は覆されなかった。

 カールのご両親からも、私の両親からもお叱りをいただいたうえで、今までどおりの関係を求められた。

 だからといってすべてを諦める必要があるかといえばそんなことはない。

 大人の論理は簡単には崩れない。長期的に外堀から攻略していくしかないだろう。


「時間はかかるかもしれないけれど、じっくりやっていきましょう。いつか分かっていただけるはずよ」

 あの日と同じように私の庭にテーブルを用意して、カールとふたりで軽食をつまむ。

 形式上の関係は変わらないものの、実際の私たちの関係は変わっていた。カール自身も変わった。もしかしたら私自身も変わった部分があるかもしれない。


『もっとやり方を考えなさい』

 カールは周りから諫められている時、神妙な面持ちでそれを聞いていた。内心の反抗心を覆い隠しているといった様子はなく、今まで見たことがないくらい、自若としていた。

 その静けさが、私には少しおそろしく感じられた。

 確かに触れた彼の心が遠くにいってしまった気がした。

 それを惜しむ権利はもう私にはないのだけれども。


「そうだな、長期戦だ」

 口元に奇妙な穏やかさをたたえた笑みを浮かべて私を見つめるカールは、今までの彼とは少し違う気がした。作り物の王子様の仮面をかぶった彼でも、素の少年らしい感情を露わにした彼でもない。

 今の私たちの関係はなんと形容したらよいのだろう。友人といっていいのだろうか。

 

「ごめん、アヤ」

「それは何に対しての謝罪なの?」

「いろいろなことに対して」

 具体的な事例をあげないカールに、私は苦笑を漏らす。これは言いたくないということなのだろう。

「よくわからないから、その謝罪は受け取らないわ。それとも私も謝ったほうがいいかしら? いろいろなことに対して」

「いらないよ」

 彼は微笑み、私も微笑む。

 以前と同じようにお茶を囲みながら、けれども以前とはもう違うふたりだ。


 遠くて近い別れの予感を抱えながらも、私たちふたりの関係は、一時的な安定を得た。しかし、騒動は何も解決していない。

 私にもカールにも向き合わなければならない課題がいくつも残っている。

 いつだって後始末がいちばん大変なのだ。

アヤ視点のものがたりはここで一区切りです。

二章は今まで名前が出てきたキャラ視点でのものがたりが4本から5本。

三章は再びアヤの視点のお話になるかも…というところです。(まだ二章が書き終わっておりません…)

三章のアップに関しては連続定時配信が難しいかもしれないので、二章の最尾後のお話のあとがきで予定をお知らせしたいと思っています。今のところまだ、8月中完結目標です。


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