三、アイシャ誕生1
三、アイシャ誕生
「僕がそこまで聞くと、ちょうど森の入り口まで戻って来れました。友達はやはリというかいませんでした」
「くそっ、あいつら帰りやがったな」
「僕が悪態をつきます」
「私が送ってやれるのはここまでだが、どうするね。助けが来るのを待つかね」
「魔女が聞いてくる。僕は色々考えましたが一人で帰る勇気は湧いてきませんでした」
「待とうかな」
「それに魔女の話をもう少し聞いてみたいと思っていました」
「ではあと少しだけ話してあげるよヨーキがどうなったか話してなかったね」
「そう言って、魔女は話し始めました」
ヨーキは身籠もっていた。プルトとの間に出来た子だった。故にヨーキは悩んでいた。
「絶対にプルト様に言うべきだ。言って責任を取ってもらう」
ヨーキの父ビリーが言いました。
「そうは言ってもお父さん。上流市民と下流市民はよっぽどのことがないと結婚出来ないって話でしょ」
ヨーキはそうビリーに言いった。
「子どもが出来るってのはよっぽどのことじゃないのか」
ビリーはそう言った。ヨーキは黙ってしまう。
「その腹じゃ仕事も出来ん。仕事が出来なきゃ生活が出来ん。お前も俺も日雇いだ。どうやって子どものお金を稼ぐつもりだ。せめて、せめてビヨーテがいればなあ」
ビリーの言うことはもっともだった。ヨーキの家ではヨーキが十六になる頃に母ビヨーテが亡くなり、家計が苦しくなってしまう。ヨーキの家は仕立屋で、ビヨーテの裁縫技術で繁盛していたのだ。ヨーキも少しは出来ましたが、当時は商売に出来るほどじゃなかった。
「でもどうやって探すの。上流市民の土地には下流市民は無断じゃ入れないよ」
そう、情報はあっても屋敷に入るには通行料がかかってしまう。そんなお金はヨーキ家にはないのだ。
「酒場を見張るんだよ。プルトってやつと会ったのは酒場なんだろ。なら、酒場を張ってればいつかは会える」
ビリーはそう言いった。
「でも、酒場なんていっぱいよ。簡単には見つからないと思う」
ヨーキは心配します。
「出会った酒場で良いんだよ。同じ場所に絶対来る」
ヨーキとしてもお腹の子の進退はともかく、もう一度会ってみたい気持ちはあったので、ビリーの言う通りに酒場に入り浸ることになった。
「よう、ケルト。娘がしばらく厄介になるが構わねぇかい」
ケルトとはこの店、憂さ晴らしのリコのマスターだ。
「やあ、ビリー。話は聞いているよ。ヨーキに子どもが出来たんだろ。おめでたじゃないか」
ケルトとビリーは幼い頃からの親友だった。時々仕事を任されている。
「ああ、旦那がいればそうだがな」
ビリーは口を尖らせて応える。
「どういうことだい」
ビリーが拗ねているのは明白だったので、事情を聞くことにする。
「どうもこうもねえ、この赤ん坊はプルトって上流市民のやつの子なのよ」
「プルト様の。ああ、確かに十ヶ月前にヨーキとプルト様は一晩お泊まりになられたが、もしかしてその時に……」
ケルトは目を見開いた。
「それは・・・・・・、それは大変なことだ」
ケルトは頭を抱えた。
「ああ、大変なことだ。娘を傷物にされて、こぶまで作るんじゃ責任はしっかり取ってもらないとな」
「いや、それだけじゃない。プルト様はその十ヶ月前に結婚なさっている」
ケルトは淡々しながらそう言った。この言葉にはヨーキとビリーも大変驚く。
「なんだって」
「そんな」
「それじゃあなんだ。娘はおもちゃにされたって訳かい」
ビリーが怒鳴った。すると、周囲の客がビリー達を見る。
「しー。ビリー。この話はいったん店が終わってからにしよう」
ケルトが諫めるように言う。これは本当に大事件なのだった。結婚前夜に男の方が一人の娘を傷物にした。いや、それだけじゃない。赤ん坊まで作ってしまった。この噂が広まればセロイド家はただでは済まない。雇われの身であるケルトとしては、この情報は広めたくないのだった。
「娘をおもちゃにされて黙ってられるか」
ビリーがそれでも喚き散らす。と、ヨーキが青白い顔をしながら、ビリーの手を握った。
「お父さん」
ヨーキがうんうんと首を横に振っている。その様を見てビリーも怒りの矛を降ろした。ケルトは一先ず胸を撫で下ろす。
「ともかく、私の方でなんとかプルト様と連絡を取るから。ここで待っててくれ」
そうしてケルトはプルトを呼び出すことにする。一先ずはセロイド家に連絡だ。
「皆さん、今日は酒が上手く入荷出来なくて、もう尽きてしまいました。今日はいったん店じまいするので、ご退出お願いします」
と、その前に人を払わなければと思い、そう呼びかける。
「ビリー、ヨーキ、後片付けの手伝いを」
二人を上手く残すには従業員のふりをして貰うのが一番だった。とりあえず二人以外の従業員にも帰ってもらう。そして、二人に動いてもらっている間に連絡の準備を整えて、早馬を飛ばす。と、
「これはどこにおけば良い」
ビリーがボトルを手にそう聞いてきた。
「それはキープのボトルだから、奥の部屋に行って名前順に置いてきてくれ」
「わかった」
思いの外ビリーも大人しく作業してくれているようだった。
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