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二、ヒルドという女性3

「ヒルド、聞いてくれ。私も君は嫌いではない。だから出来れば傷付けたくない」

「構いませぬ。傷付けても構いませぬ。一緒にいとうございます」


 ヒルドの強い意志が反響した。プルトもそれを聞いて覚悟する。


「よく聞いてくれ」


 プルトはみんなに呼びかけるように言う。


「私は昨日一人の街娘と交わった。酒場にいた踊り子だ。この縁談に納得出来なかったからだ。この縁談が決まってしまっても、私はこれからも街娘に手を出すだろう」

そしてここからはヒルドにのみ掛ける。

「それでも結婚する気か。それでも構わないなら結婚しても良い」


 プルトが言い終わるや否やルーの張り手が飛んできた。しかしプルトは動じずににらみ返すだけだった。その目を見て、ルーは顔を手で覆って泣き出してしまう。ホープもまた頭を抱えている。


「プルト様、一つお願いがあります」


 ヒルドは動じていないようだった。さすがにプルトも面食らう。


「なんだ」

「私と立ち会って頂けませんか」


 しかしそれは立ち会うという言葉で合点がいく。ヒルドは女性だから他人の男性を思いっきり叩けない。だから模擬戦で滅多打ちにしたいのだろう。プルトはそう思った。


「わかった」


 承諾することにする。好きなだけ殴らせてすっきりしてもらおう。プルトはそう考える。


 競技場で対峙する二人。ヒルドは着飾った姿よりこちらの方が似合う。そう思った。


「はじめ」


 ユメルが合図する。プルトは合図が鳴っても、構えることはしなかった。


「どうしたのです。構えて下さい」


 するとヒルドはそう言った。プルトは少し混乱する。


「好きなだけ殴れば良い」


 プルトはそう口にする。


「私は立ち会いを望んでいます。構えて下さい」


 ヒルドが凜とした声で言った。プルトは訝しく思いながらも構える。構えるが、それでもヒルドは攻めてこなかった。なるほど、わかった。とプルトは思い当たる。考えてみればヒルドはユメルの子だ。技も同じだと考えることが出来る。きっと攻めて欲しいのだ。プルトは攻撃することにする。


「ふっ」


 手刀を振り下ろす。するとパチンと弾かれた。


「はっ」


 次に掌底を繰り出す。肘を折られて、数歩前進させられた。しかしそれだけで追撃は来なかった。プルトは戸惑った。


「そんなものですか。貴方の想いは」


 ヒルドは煽ってきた。そこでプルトはようやく腑に落ちる。ヒルドは自分を、自分の想いを試しているのだ、と。ヒルド自身の想いと比べるために。


「はぁ、ふっ、たぁ・・・・・・」


 そうだとするなら負けるわけにはいかない。プルトは攻め続けた。しかし、プルトの攻撃が通ることはなかった。数十合続き、プルトは倒されてしまう。もう起き上がれないほどに疲弊していた。


「そこまで」


 ユメルの言葉が響いた。


「先ほどの質問の答えを申し上げます。構いません。結婚しとうございます」


 先ほどの質問とは、街娘を云々という質問だ。それで良いのかと聞いていた。そう言えば、それでも構わないなら結婚すると言ってしまっている。結婚しなければならないな、とプルトは思った。


 こうして、プルトはヒルドと結婚することになった。


 ただし、結婚はしてもプルトはヒルドに屈服したわけではなかった。宣言通り、しょっちゅう街娘を連れて来てはヒルドを給仕のように使い、遊び続けていた。しかしヒルドはそれを一向に責めずに受け入れ、尽くしていた。そんな生活が約五ヶ月続いた。


 ある日、プルトは十人の街娘を家に招いた。プルトとヒルドの家は小市民にしては大きいが、大市民にしては小さい家だ。住人もいると、それだけでフロアが埋まってしまうくらいの広さだ。全員艶やかな女性で、プルトを囲んで戯れていた。そしてある街娘がこう言った。


「あの給仕みすぼらしいわ。外に出してちょうだいよ」


 プルト宅によく来る娘だった。プルトはそれを聞き入れる。


「確かに今日のパーティーに彼女は不要だな。外に出てもらおう」


 この日はプルトはハーレムを満喫するつもりだった。


「おい、ヒルド。お前は外に出ていてくれ」

「はい、かしこまりました」


 ヒルドはそんな無茶ぶりにも耐えて忍んだ。一人外へ出て行ってしまう。プルトはそんなことには何一つ悪気を感じずにその晩を過ごした。これは第二の試合なのだとプルトは自分に言い聞かせていた。


 朝になり、街娘を帰そうとすると、一人の街娘が悲鳴を上げた。見ると玄関先にヒルドが倒れていたのだ。プルトの中に稲妻のような衝撃が走った。胸が包丁で刺されたかのような痛みが起きる。


 確かに外に出ていてくれと言ったが、まさか夜中の間中ずっと外にいたのだろうか。

苦しそうなヒルドを見ると、その衝撃は何度も起こった。プルトはすぐに街娘を追い返し、医者を呼ぶ。すると、どうやら心労による発熱だということだった。


「プルト様、すみません。二試合目は私の負けのようです」


 ヒルドが弱々しい声でそう言った。プルトは何も言わずに手を握る。そして、後悔した、自分の過ちを。


 それからプルトが街娘を家に呼ぶことはなくなった。


ヒルドは今作の中でも好きキャラですね。


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