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三、大団円2

「焼け死んでないかしら」


 豪華絢爛の女の方が心配そうにそう呟く。僕は、もう消しかすになってボロボロになった戸を開け、中を窺った。まだ中は熱気にまみれていたが、外観に比べて比較的内装はまだ無事であるようだった。そのまま寝室へと足を運ぶ。すると、魔女がそこに横たわっていた。


「魔女さん。いや、ヨーキ。もうみんな貴女を責めない。もうみんな貴女を苦しめない。死んで、ないよねヨーキ」


 僕はゆっくりと近づいて、ヨーキの様子を探る。ヨーキは目を開けて天井をじっと仰いでいた。


「ヨーキ、ねえヨーキ。生きてるんでしょ」


 僕は横で呼びかける。ヨーキの枕元が濡れているのがわかった。


「ああ、死ねなかったのかい」


 ぽつりとヨーキがそうつぶやくと、生きてることは実感できてほっと安心できる。


「外には王子とたぶんアイシャも待っているよ」


 豪華絢爛な女はきっとアイシャだと合点をつけている。


「今更合わせる顔はないよ」


 ああ、ヨーキの心の声が聞こえてくるようだった。

 私は醜い魔女で、みんなから嫌われている。私の醜さはアイシャたちを不幸にする。


「でも、みんな待ってる」


 僕は優しく、しかし力強くそう言った。ヨーキはもぞもぞと無言で体を横にして。今度は壁のほうを向く。

 しばらく沈黙が続いた。


「ヘンテルさん、中はどうなってるの」


 と、外からアイシャらしき人の声が聞こえてくる。僕の名前は、きっと誰かに聞いたのだろう。


「ヨーキは悲しんでいます。合わせる顔がないと」


 僕は大きめの声でそう言った。ヨーキは無言を貫いている。


「でも、生きているのですね」


 アイシャらしき人の複雑ながらも安堵した声が返ってくる。


「はい」


 僕は力強く答えた。


「今行きます」

「危険だ。中はヘンテル君に任せたほうが良い」

「いえ、行きます」


 王子とアイシャらしき人の会話がうっすらと聞こえてくる。ヨーキが一瞬びくっと身体を跳ねさせる。

 すぐに、アイシャらしき人は現れた。


「お母さん。お母さん。もう大丈夫です帰りましょう」


 お母さんと言っている。やはりこの人はアイシャだ。


「帰れないよ。次王様にあったら、私は殺される。それだけじゃない。あんた達にも不幸が起こるだろう」


 ヨーキは壁を向いたままそう言った。


「前王は病の前に亡くなりました。今の王はラッセルです。だからもう、私たちを阻む者はいません。もう安心していいのですよ、お母さん」


 アイシャはヨーキのそばにいって、膝を折る。


「王が死んだ」


 ヨーキがぽつりと呟く。


「そうです。王オダムは死にました。トーラもカーキの下で更生に道を歩んでいます。テラとエラも地方の上流市民に嫁ぎました。もうお母さんを縛るものは、私たちを阻むものは何もありません」


 アイシャがそう言うと、ヨーキはゆっくりと向き直り、起き上がった。


「それは本当なんだね」


 ヨーキが確かめるように聞いた。


「本当です。帰りましょう、お母さん」


 アイシャが何よりも芯のある言葉でそう答えた。

 二人が抱き合う。


「よかったね」


 ヘンテルがそう言うと、


「ありがとう、ヘンテル。わたしゃ生きていてよかったよ」


 ヨーキがそう言った。

 僕は大きく頷いて、二人の後を追い、焼け焦げた魔女の家から出て行った。

 その後、アイシャとヨーキと王子は仲睦まじく暮らしたとさ。

 めでたしめでたし。



 しばらくして僕はグレーゼルと結婚した。薬学は学んだもののトミーの下では、この村の中では暮らすことはしなかった。僕は、グレーゼルとともに旅に出たんだ。

 吟遊詩人として。

 大蛇に物語を聞かせる中で、僕は語る楽しさを知ったんだ。この物語をたくさんの人に届けたい。その一心が僕を突き動かした。

 なぜそんな気になったかって。

 こんなに感動できる実話を、伝えられずにはいられなかった。

 ただ、それだけさ。

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