二、ヨーキの仲間達
走る、走る、走る。走るのは得意ではない。でも今は一刻も早く魔女狩りについてモーリーとネヌットに知らせなければならない。長距離なんて走ったことがない。馬車を走らせたことはあるが、馬はこんなにも辛いことをよくもまああんなに出来るものだと思った。
いや、そうか馬車か。
馬車を使えば、モーリー達がいる城下町にいち早く行けるではないか。そう思い、自分は村の馬車小屋まで向かった。
「トミー何度言えばわかる。魔女狩りは国命だ。我々の村が焼かれてしまっても良いのか」
「ですが、村長。ヨーキさんは魔女なんかではありません。前に村の流行病を救ったのは誰ですか」
ちょうど村長の家の前を通ったときに中から怒声が聞こえてくる。ちょうど魔女狩りという言葉が聞こえたので、自分は立ち止まって耳を側立てた。
「それは、トミー、君ということになっている」
「ということになっているだけでしょう。実際はヨーキさんの手柄だ。そのことは村長、貴方が一番わかっているはずだ」
「なんにせよ、ヨーキは魔女だ。魔女ということで皆も認識している。つまりはここでなにもやらなければ誰かが報告して、この村が焼き払われてしまうのだ」
どうやらトミーという人が頑張っているようだが、魔女狩りは行われそうだった。自分は息も整ったので、その場を後にする。yはり、一刻も早くモーリー達に知らせなければならない。
馬車小屋まで着くと、馬車に乗り、城下町へと向かった。
城下町まで着くと、その鈍重な身体からは考えられないくらい身軽に馬車から飛び降り、城下町の中を走って行った。
酒場に行けばネヌットがいる。もしかしたらモーリーも来ているかもしれない。いまや、モーリーとネヌットで切り盛りしている憂さ晴らしのリコは、三人のいやヨーキを含めて四人の大切な集会場だ。
「ネヌット、いるか」
自分はあまり積極的にしゃべる方ではなかったが、この時ばかりは積極的に呼び×。自分の大声に反応して、ネヌットが出てきた。
「ドーキ、どうしたこんなところに、まさか、ヨーキに何かあったのか」
ネヌットが出てきて少し安心する。それもあって自分は大きく深呼吸した。
「魔女狩りが行われる」
そして、真剣な調子でそれを告げた。
「やっぱりか」
ネヌットが腕を組んでそわそわと店の中を往復し始めた。
「やっぱり、とはどういうこと」
自分はなぜネヌットが魔女狩りについて知っていたのか気になり、疑問を投げかける。
「いや、二刻前ほどに、伝書鳩が届いてな。王子とアイシャからだ。そこにはこう書いてあったんだ」
そう言って、ネヌットは懐から出した紙切れを見せてくれた。
【魔女狩りが行われる。ヨーキを守れ。王子とアイシャより】
紙切れには短くそう書かれていた。
「アイシャ達にヨーキの場所教えなくて良いのか」
自分はネヌットにそう尋ねた。
「それはモーリーが伝えに行っている」
「じゃあ、俺はすぐ森に戻る」
自分がそう言うと、ネヌットが往復を止めた。
「うん、そうだな、俺達はヨーキを守るのが先決だな」
そう言って、自分よりも先に駆け出していった。
帰り道、自分はわかる限りの状況説明をネヌットにした。
「ヨーキのことだから、小屋からは頑として出ないだろうな」
自分もそれに頷く。
「するってぇと、ヘンテルにだけ上手くアイシャ達がくることを伝えて、もう一人はグレーゼルと一緒に時間稼ぎをするしかないな」
「じゃあ、ヘンテルの方に行く」
やはりヘンテルの方が気になるため、自分はそう言った。
「いや、ドーキは口下手だし、俺は村人達に知られていないから、逆の方が良い。悪いがグレーゼルと合流してくれ」
ネヌットがそう言う。一理ある話しだ。急に知らない人が魔女狩りを止めるんだと言っても逆効果になるかもしれない。自分には番人という肩書きもある。どうやら村人を説得するのは自分の方が合ってそうだ。
自分は頷いた。
馬車から降りると、二人は二手に分かれて動き出す。ネヌットは森のヨーキのところへ。自分はグレーゼルのところへだ。と、少し向かってやはり森の方へと踵を返す。よくよく考えれば、グレーゼルはグレーゼルで頑張っている。自分は口下手で一緒になったからと言って足し算になるわけではないような気がしたのだ。自分には自分のやり方で時間稼ぎが出来るはずだと思った。
夜になり、大蛇が動き出す頃に、森の入り口は塞がれていた。大木が一本倒れていて、進めないのだ。
「どういうことだ、何故森の入り口が塞がれている」
大蛇が唸って騒ぎ立てる。
「森へは誰も遠さねえ、ここに魔女はいねえ」
長い混紡を地面に突き立て、自分は大蛇にそう言った。
「ドーキか。森の番人よ。お前は魔女に子どもを近づけないためにそこにいるのに、何をもって魔女はいないという」
ぐうの音も出なかった。それでも何とか言い返す。
「ともかく、誰も遠さねえ」
「何でも良い。ともかくその木を焼き払え。お前も邪魔するなら一緒に焼き払うが、それでも良いか」
大蛇に睨まれ、仕方なく自分は引き下がった。死に急ぎたいわけではない。時間を稼ぎたいのだ。焼き払うまでに一刻はかかっている。早くアイシャ達よ来いと願いながら、自分は小屋に戻った。




