一、魔女狩り令2
「落ち着いたかい、ヘンテル」
僕が抵抗をなくしたのを見て、トミーが話し掛けてくる。僕はしゃべれないので首を縦に振って応えた。
「魔女さんに知らせなきゃ」
僕は開口一番、冷静になった頭で考えたことを口走る。
「そうだね、僕が時間を稼ぐから君は魔女さんの下へ行っておいで」
トミーが真剣になって言います。
「はい」
僕は元気よく挨拶し、すぐにその場を離れた。
「待って」
と、グレーゼルも僕に着いてきます。
僕とグレーゼルは小走りでまず森の入り口の小屋に向かった。小屋にはドーキがいる。魔女の大切な友人だ。彼なら、助けてくれるだろう。そういう期待があった。
「ドーキ。大変だ。魔女さんが、ヨーキが殺されちゃう」
僕が小屋に入るなりすぐに叫ぶと、ドーキは最初はびっくりしてそして目を細めて言いった。
「どういう事だ」
ドーキが聞くので、僕は矢継ぎ早に説明した。グレーゼルも足りないところを補って説明に参加する。
「なるほど、大体わかった」
ドーキがその大きな身体をのっそりと起き上がらせて少し入り口を見る。そして言った。
「おらぁ、色々準備するから、ヘンテル達はヨーキにこのことを知らせてくれ」
そう言って、どしどしと外へと出ていった。僕とグレーゼルも付いていくように出ていき、また小走りで魔女の下へと向かうのだった。
森の道はもうだいぶ慣れたもので、迷うことはなかった。前に傷付けた森の幹はもうだいぶ上の方に傷があったが、そんなことは今はどうでも良かった。ともかく早く魔女の下へ行き、逃がすことしか頭になかった。
森を抜け、魔女の家へと着く。そしてすぐさま僕は魔女に家の扉を叩いた。
「魔女さん、魔女さん。早く逃げよう。殺されちゃう」
半分息も絶え絶えに、それでも必死に訴えかけた。と、間もなく魔女が出てくる。
「どうしたんだい。殺されるって、熊にでも出会ったのかい」
魔女は落ち着いており、拍子抜けたことを言う。
「熊じゃないよ。村人達が襲ってくるんだ。魔女狩り令なんだ。早く逃げなきゃ」
僕が、要点だけを抜き出して言う。
「上流市民団が魔女狩り令を出したんです。程なく村人達が貴方を殺しにやってきます」
それをグレーゼルが適切に纏めてくれる。
「魔女狩り令。ほー、そんなものが出たのかい。まあ、話は聞くよ。ともかくお上がり」
魔女はそれを聞いてもなお落ち着いており、暢気にも家の中に戻っていった。
「って、魔女さん。だめだよ、逃げなきゃ」
僕は叫んで、魔女に訴えるために中に続いていく。グレーゼルも心配そうに付いてくる。
「さあ、何でも良いからお座り、はちみつ湯を出すから。それのんで落ち着きな」
魔女はそう言って台所で作業を始める。
「魔女さんは殺されそうなのにどうしてそんなに落ち着いていられるの」
グレーゼルが僕の中でモヤモヤしていた核心めいたことを言う。
「そんなの、殺されるのが本望だからさ」
さも当たり前のように魔女が言った。
「どうしてそんな死にたがりなんだ」
僕が声を荒げて魔女へと言葉をぶつける。
「死んでも良いからさ」
「どうしてーー」
と言いかけて、僕は少しハッとする。魔女は醜い容姿にされ、愛する娘と離れて暮らさ無ければならず、寂しいのかもしれない、と。
「グレーゼル。少し時間がかかりそうだ。最悪魔女さんをここから動かすことは出来ないかもしれない。そのことをトミーさんとドーキ達に知らせてきて欲しい」
僕は幾分か落ち着いた声でグレーゼルにそう指示を出した。グレーゼルは僕と魔女の顔を何度か往復してみる。
「わかった」
察しの良いグレーゼルなら、何がどうなって僕がそう指示を出したかほんと云為わかったのだろう。グレーゼルは静かに出ていった。
「さて、魔女さん。根比べだ。魔女さんが逃げないなら僕もここを出ない。魔女さんが死ぬなら僕も死ぬ。魔女さんはそれで良いのかな」
そうして、僕と魔女の根比べが始まったんだ。




