一、魔女狩り令1
【魔女警戒令
王城に魔女が現れました。魔女は巧みに人の心を操り、遂には王の喉元まで潜入し迫ったのです。以前より王の周りには魔除けの品々があったお陰で、大事には至りませんでした。逆に魔女を撃退し、追い払ったのです。しかし、言葉の通り追い払ったに過ぎません。倒すことは叶いませんでした。今も魔女はこの国のどこかに身を潜めています。お気付きの際は、必ずどうぞお近づきにならないようにお願いします。魔女を刺激してはなりません】
僕は周りに誰も居ないのを確認して、無言でそれを破った。こんなものがあるから誤解が生まれるんだ。もう何年も経つが、この紙を見る度にいらいらしてしまう。魔女に出会ってから早五年が経つ。当初は、怯えこそしたが、すぐに魔女の人の良さで仲良くなれた。何より毎年語ってくれた物語は、いや、人生録は好奇心をくすぐって、僕の心を掴んで離さなかった。彼女は魔女であり、一人の人だ。化け物や怪物ではない。王室に侵入したのも事情があってやったことだ。だからこそ、魔女のヨーキを貶める言葉は嫌いだった。
「グレーゼル、またこんなものが張ってあった。早く焼き払いたい。火を起こしてくれないか」
僕らは結婚を前提に付き合っている。グレーゼルの父親が薬学に精通していて、この村の薬は大抵ここで作られる。僕は彼女の父、トミーという、に弟子入りして、薬学師になろうとしているのだ。今はトミーの家で住み込みで働いている。トミーは二年前の流行病の時から魔女への偏見を無くしている。トミーとグレーゼルはこの村では珍しい、僕の理解者だった。
「ヘンテル、お帰りなさい。って、またそれを破ってきたのね。一応、国のお達しを破ることは罪に問われるから気をつけてね。私、貴方を失いたくないの」
「大丈夫さ。誰にも見られていないから」
「誰にも見られていなくても村人の大方は君が犯人だと思ってるみたいだぞ、ヘンテル」
トミーが階段を降りながら会話に参加します。
「そんなの、偏見さ」
僕は少し突っぱねるようにそう言いました。
「偏見。まあそうなのだろうが、事実君がやってるんだ。言い逃れは出来まい。魔女さんのケースとは違うと思うよ私は」
僕は何も言い返せませんでした。少しばかり敏感になりすぎてるのかもしれない。ずっと、認められていなかったことが仇になってるようだ。
「・・・・・・はい、すみません」
トミーは魔女の次くらいに信頼し尊敬している大人だ。まだまだやんちゃな自分をこうして諭してくれる、大切な師匠だ。
本当は魔女に弟子入りしたい気持ちもあるが、今はまだその時期じゃないとトミーは言う。いずれ、日の目を当たるときはくるはずだから、それまでは会うのも控えるように言われている。これは同じようなことを魔女自身にも言われているのもあって、僕の中では渋々と了承している事柄だ。
「急報、急報」
と、そんな会話の折だった。そのアナウンスが村を駆け巡ったのは。
「穏やかじゃないな。何事かな」
トミーがそう言いながら先導して表に出ます。
「今から、国の使いの者がくる、急ぎ集会所に集合せよ」
先ほど、急報と叫んでいた者が、一通り人々が出てきたのを見てそう告げる。そして、反応を待たずにすぐに次の場所へと走り去って行った。
「国の使い、何だろうか。ともかく集会所に向かおう」
トミーがそう言って出ていくので、僕達は付いて行きました。
集会所に着くと、もうだいぶ人が集まっているようだった。見知った顔がちらほらありる。いつぞやこの村の人々は合計で三千人いると聞いた頃ことがある。どうやら、そのほとんどがここに集まって来ているようだ。僕らは端の方に陣取った。
少しすると国の使いの者らしき人と、先ほど村を駆け回っていた人が舞台の上に出てくる。
「みなの者聞こえるか」
国の使いの人がしゃべったかと思うと、その時は何も聞こえずに、すぐに隣の叫び役の人が叫んでようやく聞こえます。拡声器は二人とも持っているのですが元ある声量がだいぶ違うようだ。
少し後ろを見ると、兵士が手を挙げている。
「私は上流市民であるトラジット・タルトという者だ。端的に言うと、国王の様態が近頃悪くなっている。最近では言葉を発することも少なくなり、時折、魔女が・・・・・・、魔女が・・・・・・と呻く程度である。そこで我ら上流市民団は、魔女が遠隔にて何かしらの魔術をかけているものと断定し、王の心煩いを払うために、この度この国では魔女狩り令を発することにする。これは王命だと思って貰って構わない。近くに魔女らしき者が見つかった際は村の全精力を持って駆逐するように。従わなければ村ごと焼き払うことにする。話は以上だ。解散」
「そんなのーー」
不当だと言おうとしたところで、トミーとグレーゼルに口を塞がれ、身体を押えられる。二人にはこんな話を聞けば僕が異を唱えることも、そして処罰(最悪斬首)を受けることもすぐに予想が付いたのだ。押さえ込まれる中で、僕もその考えに辿り着いた。




