三、仮面の舞踏会7
王子は心底、落胆していた。この舞踏会には何の意味も無い。そのことを知っているからだ。この舞踏会の趣旨はこうだ。
一、男性は仮面をつけること。
一、王子を見つけたものは、王子の后になる権利を与えられる。
一、外した場合は、罰金で財の一パーセントを外させたほうに払う。
一、男性はドレスコードを白の衣装とする。
というものだ。しかし、王子には婚約者がいる。后になる権利を与えられると言っても、その婚約者と肩を並べるだけだ。
いや、話はもっと悪い。
発案者がその婚約者なのだ。そもそも。王子の婚約の話は公になっていない。そこで、王子の披露宴とともに、婚約の発表も行うように婚約者が画策したのだ。
今も、婚約者が作った仮面をつけさせられている。これはいわゆる出来レースなのだ。
「はぁ」
王子は外庭でため息をついていた。これはせめてもの抵抗なのだ。王子が婚約者に見つからないための。
「こんなところで何してらっしゃるの」
と、隠れていたはずなのに、見つかってしまう。とはいえ、見つかったのはどうやら婚約者のメリッサではないようだ。声が違う。
「少し、涼んでいたんだよ。人混みが嫌いでね」
王子の目の前にいるのは、艶やかな衣装に身を包んだ女性だった。
「君は何しに来たんだい」
偶然とは言え、ここで王子だと言われるのならばそれでも良いと思った。
「私は今来たところなので」
女性は不思議そうな眼差しを携えたままそう言った。
「ちょっと待った。今来たところ。では今回の舞踏会のルールは知らないね」
舞踏会のルールは冒頭で行われたものであり、今はそこからしばらく経っている。
「舞踏会のルール。受付で聞いたやつですかね。王子様を探すといいみたいな」
女性は何でも無いことのように言った。
「そう、受付で聞いたんだね。君も王子様が目当てなのかい」
しかし、なんでもないわけがない。王族になれるチャンスをみすみす見逃すほど世の上流市民は馬鹿じゃない。
「いいえ。この舞踏会には、結婚相手を見つけに来ました。あなたの名前もお聞きして良いかしら」
それでも、女性はやはり何でもなしにそれを否定し、自分の目的を話すのだった。王子は俄然女性に興味を持つのだった。
「ラッセルだ。しかし、王子様の披露宴で結婚相手を探すとはまた変わったお方だね。君ほど美しい人なら引く手数多だろうに」
王子という存在は知っていても、王子の名前まで知るものは少ない。言っても差し支えなかろうと、王子は自分の名前を口にする。いや、違う。王子は既にこの女性にだいぶ興味があるのだ。この女性になら見つかってしまっても良いと思ってしまっている節がある。
「ありがとうございます。でも、色々と事情があって」
女性は物憂げな顔を浮かべた。
「一体どんな事情なんだい。良ければ話してくれないか」
女性の好感度を掴むためか、はたまた物憂げな顔に引かれてか王子は聞く。
「いえ、それはちょっと話せません。複雑な事情なので」
しかし、心配ご無用とばかりに女性はそれを拒んだ。
「では、結婚相手を見つけなければならないので」
そして女性はそう言って去って行く。王子は一瞬呆気にとられる。
「待って、君の名前は」
そう叫ぶ王子の声はどうやらもう、女性には届いてないようだった。




