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二、ヒルドという女性1

二、ヒルドという女性


「森の中は真っ暗で、ランプがないと歩く道が見えないほどでした。僕は魔女に手を引かれながら歩いています。何も怖くはありませんでした。魔女がリードしてくれるからだけじゃないです。魔女の話が面白いからです。僕はじっと聞いていました」


 明くる日、プルトはヨーキを部屋に残し、家へと帰っていった。そして身支度を調えてヒルドとのお見合いに向う。帰ってくるか心配だったルーとホープはプルトが乗り気になったように見えて、大変安心するのだった。しかしそれはプルトの作戦だった。


 ナーリャ家に着くとプルト達は手厚い歓迎を受ける。とは言ってもやはり昔ほどではなかった。屋敷自体は大きいのだが、人の気配が圧倒的に少なかった。昔はセロイド家よりも栄えていたが、今はセロイド家の半分と言ったところか。


「久しぶりに手合わせしてみるか」


 ユメルがニコニコしながらプルトに言った。


「そうですね。私自身体は鈍ってるでしょうが」


 昔の師である人からの誘いだ。断るわけにはいかなかった。プルトは受ける事にする。


 競技は話し合いで体術に決まる。離れにある道場に行き、ウォーミングアップを済ませて、二人は対峙した。道場は平屋二軒分ぐらいの広さがある。ユメルもプルトも得意な競技だ。


「よーい、始め」


 合図はヒルドが行った。ヒルドは大人しい女性だったが、こういう時は凜と澄んだ声を出す。競技場にスーッと響き渡ります。


 ぐいと合図に押されたようにプルトが襲いかかろうとする。しかし、少し前進してすぐに止まってしまう。腰を低く構え、身体は変に緊張しておらず、構えもきっちり綺麗であり、自然体。ユメルの隙が見つからなかった。プルトは構えたまま相手の隙を見るべくして歩き回る。


 しかし、一周しても見つからなかった。時折フェイントを混ぜるのだが、それでも上手く隙を作れなかった。段々と構えを続けるのが難しくなってきてしまう。ただ、一つ嬉しい事に相手はじっと最初に対峙したままの姿勢を続けており、簡単に背後に回り込めるのだ。プルトはもう一度背後を取った。


「はっ、はー、ふっ、はあっ、たぁー」


 気合いを後ろからぶつけてみる。すぐに攻撃しないのは簡単に背後を取らせたユメルが不気味だったからだ。フェイントも兼ねて気合いをぶつけているのだ。しかし、ユメルは微動だにしなかった。いい加減、構えを続けるのが難しくなってくる。


「とわっ」


 フェイントに混ざるように本命をたたき込む。思いっきり地面を蹴って飛び出した。それは跳び蹴りだった。このまま当たれば大ダメージにる。


 と、ユメルが流麗に動き出す。くるっと回転し、自分の正眼に相手を見据えると、少ない動作で正確にその足を掴んだ。そして、捻り上げ、プルトを地面に落とす。そして、有無を言わさず流れるように右手がプルトの顔を捉えるのだった。


「それまで」


 ヒルドが声をかけた。ユメルの拳がぶつかる寸前で止まります。プルトは負けてしまった。


 正直プルトは信じられなかった。ユメルの指導後も従者達と模擬戦は何度も行っていたのだ。それにナーリャ家の衰退はユメルの老衰のせいもあると思っていたところがある。しかし、対峙してわかったが、衰えているどころかむしろ洗練されているように感じるのだった。


「基礎鍛錬をサボりがちだな」


 ユメルが指摘する。確かに基礎鍛錬は地味なのであまりしていなかった。実践の模擬訓練ばかりなのは事実だ。


「ははっ、完敗ですね」


 プルトは大の字になって降参した。


「だが安心した。迷いはないようだ」


 ユメルがそう言う。


「えっ、あっ、はい」


 プルトは目を逸らしてそう言った。その様子を見逃すユメルではなかった。


「ふむ、まあ、じっくり聞こう」


 ユメルはそう言って手を差し出してくれた。プルトは素直に手を借りる。たぶんユメルなら何を言っても怒る事はないだろう。そう思った。思ったが、思うと罪悪感が見え隠れする。別にユメルを助けたくないわけでもヒルドが嫌いなわけでもない。ユメルは大好きだ。ヒルドも美しいと思う。それでも、それでも・・・・・・。プルトは俯きがちなままお見合いの席に着いた。


弱いものほど良く吠える。


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