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三、仮面の舞踏会5

 それからというもの、テラの特訓とエラのモデルを延々と繰り返した。テラは肉体的に、エラは精神的に嫌だったが、アイシャは舞踏会に参加するためだと耐えていた。そして、遂に、その日がやってくる。

 アイシャは興奮していた。遂にこの日が来たのだと思うと少し感慨深かった。それもそうだ。それぐらい苦渋を舐めさせられてきたのだから。

 ワクワクルンルンとしながら朝食を作り、運ぶと。程なくトーラ達が入ってくる。アイシャは笑顔で出迎えた。

 ソワソワしているのはアイシャだけではないようで、いつもよりも早くみんなが集まる。さて、いざ朝食をというところでトーラが口を開いた。


「さて、テラ、エラ。今日が何の日かわかっているわね。王子様の舞踏会の日です」

「はい」

「はい」

「はい」


 アイシャを含めた三人の声が元気よく返ってくる。トーラは三人分聞こえてくるとは思ってなかったため、アイシャの方をちらっと見る。そして少し考えてから、続きを話した。


「今夜から明朝にかけて舞踏会は行われます。準備をしっかりしておくように」

「はい」

「はい」

「はい」

「それから、アイシャ。今日まで良く耐えてきました。お昼過ぎにテラとエラの支度を終えたら私の所へ来なさい」


 アイシャは自分が名指しで呼ばれるとは思っておらず少しびっくりするも、すぐに嬉しくなる。あのトーラがねぎらいの言葉をかけてくれたからだ。きっと、この呼び出しも、密かにトーラの方でドレスを用意してくれていたに違いない。そう思ってアイシャはワクワクしていた。

 しかし、そんな期待は裏切られることになる。

 テラとエラの支度を終え、今まさにアイシャの番かと思い、アイシャはトーラの元へと行った。


「アイシャ、よく来ました」

「はい」


 トーラを前にこんなにウキウキすることがあったろうか。アイシャは目をランランとさせてトーラの次の言葉を待つ。


「では最後の命令です。明日の朝まで、地下室に閉じ籠もってなさい」

「えっ」


 アイシャは一瞬理解が出来なかった。明日の朝まで。ということは自分は舞踏会に行けないということになる。舞踏会に行くために努力してきたのに、舞踏会には行けない。この命令だけは絶対に聞く訳にはいかない。


「い、嫌です」


 アイシャはそう答えた。


「嫌ならいいのです。約束通り舞踏会には行けませんから」


 約束通り。その言葉を聞いた瞬間。アイシャの中で抑えていたものが溢れ出す。


「何が約束通りなものですか。約束を守っても行けない。守らなくても行けないじゃないですか。だいたい、奥様はお父さんの遺言を聞いてなかったのですか。娘三人が嫁ぐまでは面倒をみるというものを忘れたのですか。一体全体どうしてこんな嫌がらせばかりするのです」


 爆発した感情がトーラを襲う。しかし、トーラは平然と笑っているのだった。


「メルト、拘束して地下に連れていきなさい」


 トーラはただ、淡々とそうメルトに命令するのだった。

 メルトがアイシャを拘束しようとする。アイシャはそれを来る勢いを使って投げ飛ばした。


「嫌よ。私は舞踏会に行きます」


 ここに来て、トーラの表情が変わる。メルトも戦闘不能にはなっていない。


「テラ、エラ、協力しなさい」


 どうやら、扉の前でことの成り行きを聞いていた、テラとエラが入ってくる、四対一。流石に分が悪く、抵抗虚しく。アイシャは拘束されてしまった。


「嫌よ、離して。私、地下室なんて行きたくない」


 もはや、何を言っても無駄であった。アイシャは地下室へと閉じ込められてしまう。


「さっきの質問に答えてあげるわ、アイシャ」


 と、ドアの向こうでトーラの声がする。


「あなたはずっと結婚もできないまま、私と一緒に暮らすのよ。汚らわしいあなたの血を他人に分けるなんてあり得ないわ。そうね。でも、せめてもの情けをかけてあげる。招待状はこの扉の前に置いておくわ。そんなに舞踏会に来たければ、なんとかそこから出て、来れば良いわ。まあ、出られればの話だけどね」


 そこまで声が聞こえると、階段を歩く音がして、扉の前から気配が消えていった。

 アイシャは助けを呼ぶも誰も来ない。惨めさが染み渡り、わんわんと泣くのだった。


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