二、プルトの死4
セロイド家の全員が悲しんだ。従者も含めて全員だ。葬儀は列となし、大々的に行われた。セロイド家が悲しみに明け暮れる中で、遺言が見つかり、遺産分与の話になる。
セバスが読み上げる。
「妻、トーラに四割の遺産を付与する。内訳は、この家と元ノーシスの家と領地。また、経営している店の所有権を譲る。
娘テラに一割の遺産を付与する。内訳は現金とする。
娘エラに一割の遺産を付与する。内訳は現金とする。
家政婦のヨーキに酒場、憂さ晴らしのリコを譲渡する。
残りはアイシャに遺産を分与する。内訳は、セロイド家の領地とヒルドと過ごした一件目の家である。
遺産分与については以上です。
続けて、遺言として、
妻トーラはその子、テラ、アイシャ、エラが結婚するまでしっかり面銅を見ること、です。
以上です」
セバスが言い終わる。と、神妙な空気が流れる。そんな空気の中で、セバスが続けた。
「この場で申訳ありませんが、私はセロイド家から離れようと思います。セロイド家三代に勤めましたが、健康的に看取ることが出来たのはプルト様の祖父ゲーテ様だけでした。これは私の不徳の致すところです。それに、私も年を取りました。余生はゆっくり過ごしたいと思います」
セバスがそう言うと、今や一家の長であるトーラが返事をする。
「そうですか、それは残念です。引き留めるようなことはしないつもりです。セバスとしても今やノーシスなのかセロイドなのかわからない家には勤め辛いでしょう。ただ、これだけは言わせて下さい。色々と助けてくれてありがとう」
トーラはセバスに向けて、悪漢に襲われたときのことを思い浮かべながらそう言ったテラの前だと直接的に言えないのだ。
「とんでもないことでございます。どうぞ、トーラ様もご自愛を」
そう言って、セバスは出ていった。
トーラはおかしいと思っていた。アイシャへの財産が多いのは、実子だから仕方がないとして、ヨーキにまで財産がもらえるのは流石におかしい。これは何かある、とトーラは考えた。
「メルト」
「はっ」
控えていたメルトがすぐに反応する。
「ヨーキのことを調べてちょうだい。ヨーキにまで、財産がいくのはおかしいわ」
トーラが鋭く指示を飛ばす。
「はっ」
メルトはすぐに行動を開始した。
メルトはホープとルーを殺したときのことを考える。ホープとルーを殺したときも、こんな感じの雰囲気で指示された、と思った。
そう、ホープとルーはメルトが運んだワインで死んだのである。入るときに招待状は見せた。がその時に、主人が欠席することを伝えに来たと言った。そして、その代わりにプレゼントがあるということで中に入ったのだ。
メルトの血が踊る。今回も楽しそうだ、と思う。久しくトーラの悪辣な振る舞いを見ていなかったから、久しぶりにそれが見れそうで興奮が冷めなかった。
ヒルドを謀殺するとき以来の興奮だ。
ヒルドの時はメルトが教えた方法で抵抗力を奪い、機を見て止めさせるというものだった。ちょうどよい頃合いに流行病が流行ったので、止めさせた。トーラの演技力の才たるや、ものの見事なまでに騙しきった。完全犯罪である。病死ならプルトが怪しまないと思ったのだろう。あの時は興奮がしばらくやまなかった。思い返すだけでも鳥肌が立つ。
メルトはそんなことを胸中に抱きながら、ヨーキの調査を行ったのだった。
メルトがしっかりとしたヨーキの背景を調査しきるまでに、約三ヶ月がかかった。時間はかかったが、背景を洗い出したとき、メルトは鼻歌交じりで歩いていた。
「奥様、調査が終わりました」
メルトが下卑た笑いを抑えながら、報告する。
「そう、ご苦労様」
トーラの目が据わっている。メルトはこのあと怒るだろうことを予測して、口角が上がりそうになるのを必死に抑える。
「どこから話しましょう」
もったいぶるつもりはないのだが、なんせ特ダネである。何から話すのが正解かわからない。いや、どこから話せばトーラの驚愕する顔が見られるかわからない。
「結論から話して」
トーラはスンとして言う。
「はい。仰せの通りに。では、結論から言うと、」
そこでメルトは一瞬溜める。
「ヨーキはアイシャ様の母でした」
トーラの目が大きく開かれる。そして微妙な間が生まれる。
「続けて」
息が詰まっていたのか、そう言うと息を大きく吐き始める。そしsて、吸うと同時に不敵な笑みを浮かべるのだった。
メルトはこの顔が見たかった。紛れもない悪の顔。メルトを凌駕する悪がそこにある。その悪はその存在だけでメルトを肯定してくれるのだ。メルトは万感の愉悦に浸る。
「はい」
しかし、今は報告が先だ。メルトは目を閉じて一度冷静になる。そして、報告の続きを始めるのだった。
「アイシャ様はプルト様とヨーキの間に生まれた子です。望まれぬ子でした。プルト様の一夜の過ちで出来た子なのです。その後アイシャ様は孤児院へ預けられたそうですが、五年後、ヒルド様とプルト様に養父母という名目で引き取られます。世間的には隠し子でしたが、ヒルド様との子ではありませんでした。ヒルド様はどうやら子どもが産めない身体だったようです」
報告の内容の区切り毎にトーラは様々な顔をした。
「そう、そうだったのね・・・・・・」
そしてその顔は笑っている状態で落ち着いていた。
トーラはしばらく考える。




