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一、家政婦ヨーキ1

 トーラがセロイド家に嫁いでから、セロイド家は賑やかになった。テラやエラを含めた五人家族になったからだ。従者も入れれば八人である。賑やかになった反面、従者三人でも手が回らなくなってきていた。

 また、従者や子どもたちの間では混乱が度々起こるのである。それは生活様式の違いに由来するのだが、これを正すのは骨のいる作業になっていた。


「アイシャ、食事中は肘をテーブルに付けない」


 トーラの注意が飛ぶ。


「アイシャは下品ね」


 テラが言う。テラはセロイド家に来てからはいつもこの調子だった。自分こそがプルトの第一子だと信じているため、ずっとセロイド家の子どもとして生きてきたアイシャを妬んでいるのだ。


「アイシャは下品」


 こちらはエラである。エラはエラでアイシャを妬んでいた。こちらは焦りに近い。完全にプルトとは縁が無いため、自分の立場に不安があるのだ。


「ご、ごめんなさい」


 アイシャが謝って姿勢を正す。アイシャとしては元ノーシス家の人が来てから、肩身が狭くて仕方がなかった。


「みんな、仲良くするようにな」


 そんな状況をプルトはどうしていいかわからなかった。時間が解決する。最初はそう思ったが、もう一年も経つ。そろそろ本格的にどうにかしないといけないと思い始めていた。


「トーラ。子どもたちのことなんだが」


 ある日、寝室でプルトはトーラにそう話しかけた。


「はい、子どもたちがどうかしましたか」


 トーラは何も気にしていないようだ。


「もう少し仲良くなったほうがいいとは思わないか。一緒に暮らしてるわけだし」


 プルトは少し話しづらそうに言う。


「またその話ですか」


 トーラが呆れるように言う。そう、この話は二人で何度かしたことがあるのだ。


「君の言いたいことはわかる。子どもたちのことは子どもたちに任せたほうが良いと言うのだろう。概ね、それは了解している」


 そう、この話になるたびに、子どもの社会は子どもたちで作っていくものだとトーラは力説するのだ。


「では、一体何ですか」

「少し度が過ぎてる気がするのだ。基本的には子供に任せるにしても、大人が介入すべきこともあるはずだ。子ども社会に口は出さなくても、子ども個々の成長のために口出すことはあって良いはずだ」


 つまり、個々に説教をすることは悪くないはずだと言うことである。


「度が過ぎてると言いますが、何がありましたか」


 トーラが疑問を突く。


「例えば今日の夕食のことだ。君がアイシャを注意するとテラとエラまで詰っていた。アイシャとしては気分が悪いだろう、あれは」


 パッと言われてでたのは今日の夕食のことだった。


「その程度のことが度が過ぎているのですか。それにあれはアイシャがテープルマナーを破るのがいけないのです。多少恥ずかしい思いをしたほうが直りも早いと思いますよ」


 すぐに否定されてしまった。どうやらトーラはテラとエラの素行をあまり問題視していないようだ。まあ、彼女らの直接の親なのだから当然か。


「いや、それ単体はなんともないだろうが同じようなことが一年続いている。見ると、テラとエラはアイシャとはほとんど遊んでいない。たまに遊ぶことはあるみたいだが、それもこの前みたいにアイシャが掃除道具入れに閉じ込められるようなことだ。家族の長として放っておく訳にはいかない」


 子どもが遊ぶときは従者がお守りに着くことがあるが、それも元ノーシス家と旧セロイド家の二極化になることが多い。特にメルトはアイシャとは遊ばないようにしているように見える。


「まあ、掃除道具入れの件はたしかにやり過ぎでしたね。まあ、プルト様がそこまで気にしているのでしたら私も協力しますけど。ただ、私が思うのは、プルト様はアイシャを贔屓にし過ぎだと思います。アイシャが子ども社会で孤立しているからと、妙に気にかけていらっしゃるように見えますけど」


 トーラも親ならプルトも親だ。実の娘に肩入れしていることはある。


「うん、事実そうしているが、それは何か問題なのかな」


 開き直っているわけではない。孤立しているから贔屓して孤立を紛らわせている。それだけだと思っている。


「大問題です。おそらくテラもエラも嫉妬からアイシャを避けています。その嫉妬はプルト様が作り出してるのです。二人ともプルト様に気に入られたいのに、どうしてアイシャだけ、とこうなります」


 トーラが核心を突く。確かにセロイド家が五人になってから、テラとエラを贔屓目で接したことはほとんど無い。しかし、アイシャにはある。盲点だった。テラとエラはそんな風にアイシャを見ていたのかとプルトは思う。


「なるほど、嫉妬か、それは気付かなかった。そしたら、どうすれば良い、私は」

「簡単です。テラとエラをアイシャよりも可愛がれば良いのです。そうすればいずれ、二人の嫉妬も落ち着きます」

「そうか。そういうものなのか。わかった、やってみよう」


 プルトはトーラの言う通り、しばらくはテラとエラをことさら可愛がるように立ち降る舞うことにした。


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