三、再婚6
五ヶ月後、今度はヒルドが流行り病に倒れてしまう。それもかなり拗らせており、息も絶え絶えになっている状態だった。
カンカンカン
今度はプルトの屋敷にトーラが赴いてきた。
「ああ、トーラか。お見舞いに来てくれたんだね。ありがとう」
プルトが出迎える。トーラは従者がいないことを不思議に思う。この一年と五ヶ月あまりで何度かお邪魔することはあったが、流石にその時はいた。
「友達が苦しいときに、お見舞いに来るのは当たり前です。それにしても、従者がいないようですがどこへ行ったのです」
「ああ、買い物にやっているよ」
プルトが答える。確かセロイド家の従者はセバスという男性と、メリーという女性だったと思う。二人とも行かせたのだろうか。
「二人とも買い物ですか」
「いや、セバスには医者を探してもらってる」
プルトが険しい顔になって答える。どうやらよほどの重体のようだ。他の医者を探すくらい深刻なようだ。
「よほどの重体なのですね。会わせてください」
トーラが中に入ろうとするので、プルトはそのまま案内する。
「構わないが、意識がはっきりとある時間が少ないんだ。話せるかはわからないぞ」
歩きながら、プルトが状況を説明した。どこか、辛そうである。
「構いませぬ。是非、会わせてください」
そう言ってトーラはヒルドがいる部屋へと入っていった。
中に入ると、いつぞやのトーラの部屋のように、ベッドにはカーテンが閉められていた。トーラが近づくと、うめき声のようなものが聞こえてくる。息遣いもゼーゼーとしている。
「あまり近づかないほうが良い。また移るかもしれない」
後から入ってきたプルトが言う。
「構いませぬ。友達がこんなに苦しくしているのに、遠くから見るだけなんて、出来ません」
トーラはそう言って、ヒルドの額にあった布を絞りなおす。
「そこまでヒルドを思ってくれて嬉しいよ」
と、プルトもベッドの反対側に腰掛けた。しばらくトーラとプルトは苦しむヒルドを見守っていた。と、突然、プルトがすすり泣きをする。我慢していたのだろう、止めどなく雫が流れるようになる。
「すまない」
トーラがブルトの方を見るので、プルトは一言謝った。
「いえ、構いませぬ」
トーラはそう言って、ヒルドに視線を戻す。
「とても、とても怖いんだ、トーラ。ヒルドがこのままいなくなってしまうのではないかと思うと、私は、私は……」
涙声の混じった声が、トーラに届く。
「それは仕方のないことでございます。愛する人のこんな姿を見たら、誰だってそうなります。でも、プルト様。希望を持って下さい。こういうときは、周りがしっかりしないとだめなのです」
トーラは思いつく限りの言葉を贈る。
「そうだな。私がしっかりしなければな」
プルトはそう言うも、ヒルドのうめき声を聞くと、また泣き出してしまう。トーラはそれを静かに見ていた。
しばらくそうしていると、だんだんとヒルドの様態が落ち着いてくる。
「では、私はこれで」
トーラがそういって立ち去ろうとすると、
「トーラ様。来てたのですね」
ヒルドが起き上がった。
「ヒルド、大丈夫なのか」
プルトがすぐにヒルドの身体を気遣う。
「ええ、今は大丈夫です」
弱々しくも凛と澄んでいる声だ。ヒルドらしい声である。
「トーラ、頼みがあるのです」
ヒルドがヘッドボードによりかかりながら、息も絶え絶えに言う。
「はい、どうしましたか、ヒルド様」
トーラは改めて椅子に腰をかける。
「私はおそらくもう長くはありません。そこでトーラには私が亡き後、プルト様と再婚してほしいのです」
トーラの目が開かれる。そして、ヒルドは続ける。
「まだ、プルト様のことが好きなのでしょう」
衝撃の一言である。トーラとプルトは思わず目を合わせる。そして、すぐに視線をそらす。
「私にはわかります。私のあとも、プルト様を支えてください」
ヒルドはそれだけ言うとゴホゴホと咳をこんで、また横になる。そして、眠るようにこう言った。
「頼みましたよ」
そして、ヒルドはまた寝息を立てるのであった。
しばらく、沈黙が流れた。何と形容するのがいいかわからない空気が流れる。その沈黙を破ったのは、アイシャだった。
コンコンコン
「お父様、お食事の時間になりました。トーラ様も宜しければ、どうぞ」
いつの間にか夜になっていたようだった。
「私はこれでお暇します」
トーラはそれだけ言った。
「そうか。今日はありがとう」
プルトはそう言うも、トーラとは目を合わせなかった。トーラはそんなプルトには何も言わずに、家へと帰って行った。
そして、一ヶ月後。ヒルドは本当に他界してしまった。




