二、世界で最も強い毒4
「お友達になりたいの」
意外なトーラの申し出にヒルドは返答に困っていた。先の言葉はラルフの葬儀時にトーラから聞いた言葉だ。トーラがアイシャのことで病んでいたのは知っている。そこから何故かラルフが死んで、葬儀中に話かけられたと思えば友達になりたいと来た。正直ヒルドは困惑を隠せないでいる。トーラは独身となった今、プルトに迫る絶好の機会を得ており、そんなトーラに近付くのは危険としか思えなかった。
「大丈夫ですよ。プルト様があなたを愛しているのはわかりました。あなたがいる限り、私はプルト様に手は出さない。だって、友達ですから」
まだ返事をしたわけではないが、トーラの中では既にその気のようだ。ヒルドは断るに断れないでいた。特に友達ですからという言葉がどこかに安心感を与えてくれる。確かに、本当に友達なら、恋愛よりも友情という言葉もあるし、嫌なことはしないはずだと思える部分もある。
「ごめんなさい、無理矢理友達になろうってわけじゃないです。あなたとプルト様がどうやって恋仲になったのか、それが知りたくて。少なくてもプルト様は確かに私を愛していたはずですから、何があったのか純粋に知りたいのです」
トーラが本音とも取れることを言う。こうして本音を曝されると、やはり安心感がさらに増える。そういうことならばと、言いたくなるのだ。実際、言ってることが全てなら、それほどの害はないのだ。ただ、それでもまだ何か隠しているようにヒルドには感じられる。
「それと、それを聞けば、あなたがプルト様にふさわしい方かはわかるというものです。心配しなくても、あなたの意志の強い目は私のお眼鏡に合いますよ、きっと」
私がふさわしいかそうでないかをその目で確かめたいと言うことか。その気持ちはよくわかった。ヒルドはヒルドで、トーラという人に興味を持っていた時期はあったのだ。あの、プルト自身に虐げられていた辛い日々は、トーラという思念にも負けじとした時期でもある。
「プルト様への想いに決着をつけることで、ラルフへの手向けとしたいのです」
その言葉が決定打となった。ヒルドはそういうことならと返事をする。ラルフは以前、ヒルドのみにその想いを告げていた。そして、今、その想いは成就されようとしているのだ。そう思うと、それを応援したい。願わくば、生前にそうなって欲しかったが、それは今思っても仕方が無いことだ。今はみな、前を向くべきなのだから。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。ヒルド様」
ヒルドは差し出される手を握るのだった。




