一、再会9
「里親だな」
トランスが鋭くそう言う。心なしかウキウキしているように思える。
「うん、でも誰の里親だろ」
キロが言う。こちらも、興味津々と言った感じだ。
「あたいじゃないのはなんとなくわかった。あんまり目が合わなかったから」
ユイが少し不貞腐れたように言う。
「一番目が合ってたのはアイシャ、だよね」
キロが言う。
「えっ、わたし」
アイシャは目をくりくりさせる。あの優しそうな二人なら願ったり叶ったりだ、なんだか心がポカポカしてくる。
「俺は俺だと思うね」
トランスが自信満々にそう言った。
「ほぉ、根拠は」
ユイが聞く。
「そんなもんない」
トランスがきっぱりとそう言うので、みんな笑った。
「なんだそれ」
ユイが突っ込む。
「でも、誰かが引き取られるってことは、今日でお別れになっちゃうってことだよね」
キロがしみじみとそう言った。
「そうなるね」
ユイが答える。
確かにそう言われてみればそうだ。これまで四人で仲良くやってきたが、明日からは三人になってしまうのだ。そう思うと、悲しさと侘しさが心を支配する。
「そうだけど、仲間が幸せになるってことでもある。仲間の幸せを悲しむなんて野暮だろ」
トランスがそう言った。ニカッと笑っている。
「そうだね」
「そうだな」
キロが、ユイがそう応える。アイシャも続いて大きく頷いた。
と、院長室の扉が開く。院長が出てきたようだ。四人は一瞬にして固まった。
「ああ、アイシャ。ちょうどそこにいたのか。中に入っておいで」
院長がそう言ってすぐに中に戻っていった。
四人は固まったまま十秒が経つ。永遠にも似た十秒だった。
「ほら、いきな、アイシャ」
ユイがそう言ってアイシャの背中を押す。ただ顔を見ると、目を逸らされてしまう。
「僕たちずっと仲間だからね」
キロが言う。アイシャの手を取って、目を見て言っている。半泣きだった。
「幸せになれよ」
そう言うのはトランスだ。どこか納得のいっていないような言い方だ。
「みんな、ありがとう」
みんなの気持ちが痛いほどに伝わってきたアイシャは、せめてもの気持ちで力強くそう言った。すると、三人は泣き出すのだった。
「ほら、さっさと行けよ」
トランスが催促する。
「うん」
アイシャは力強く頷いて、力強く歩いていった。振り返ることはしなかった。ただ、嗚咽が薄っすらと背後から聞こえてきていた。
アイシャが院長室に入ると、さっきの二人が笑顔で出迎えてくる。女性の方は手を振っていた。
「アイシャ、今日からあなたの面倒を見てくれるセロイド夫妻です。ご挨拶なさい」
院長の言葉にアイシャは内心ほっとするも、すぐに複雑な気持ちになる。たまに引き取られていく仲間を見ていたが、自分にもその日が来るとは思っていなかった。いよいよそうなるのだと思うと、自分でもどうして良いかわからなくなる。
「私の里親なの」
アイシャがそう聞くと、院長は少し困った顔になる。
「そうだよ。これからは私達をお父さん、お母さんと呼んで良いからね」
男性の大人がそう言った。
アイシャは自分の出生を知らない。いや、知らないのが当たり前だった。ここでは。
何故この人達は自分を選んだのか、自分じゃなくても良かったのか、たまたまなのか。そんなことが頭を過ぎっていく。何も返事をしない、反応もしないアイシャを見かねて、大人の女性が手を差し出す。行こうと言っているのはわかった。
目を見ると、にっこりと笑いかけてくる。この人の笑顔はやっぱり素敵だ。心がポカポカしてくる。
アイシャの中で何かが崩れた。震えていたものが消えて、温かいものが溢れ出す。この人達なら大丈夫。不思議とそう思えたのだ。
「うん。お父さん、お母さん」
元気よくそう答えて、アイシャはその手を握るのだった。
こうしてアイシャはセロイド家に引き取られたのである。




