一、再会7
「行こう」
トーラを見送って、少し辟易としていたが、プルトはそう言ってヒルドの手を掴んだ? 「どこへ」
ヒルドは付いていくものの、プルトの言うところの行き先に検討がつかない。
「医者のところだ」
ヒルドはそう言われて合点がいく。確かに元々行く予定ではあったし、ここでプルトが決意を込めて言うということは、本気で子どもを作ろうとする意気であると感じた。
「はい」
ヒルドはプルトに手並みを揃えて歩いて行った。
診療所は馬車を駆けて二刻ほどで着く。道中もヒルドを送り出してからも、プルトは期待と不安の折り混じった、複雑な気持ちが渦巻いていた。
問題が無ければ万々歳だ。全てが丸く収まるはずだ。トーラも二人の間に赤ん坊が出来たとなれば、少なからず覚悟をするだろう。急激な宣告はより大きいショックを生む。そうすればラルフの言っていたようにトーラは身投げを決行するだろう。その時止められる人はもういない。そんな気がする。だから、ゆっくりと着実に伝える必要がある。
問題が無ければそれで良い。だが、・・・・・・。
もしも万が一後継者が産めない可能性があるとしたらどうだ。その時はどう振り払えば良いかわからない。最終的には直接断らねばならず、つまりそれは・・・・・・。
「プルトさん、結果が出ました。中へ」
渦巻く思惑に翻弄されながらも、時は刻々と過ぎてゆく。プルトは意を決して扉を開けた。
「残念ですが、ヒルド様はお子が産めない身体のようです」
二人は雷に頭を打たれてしまう。医者が申し訳なさそうに頬を振っている。ヒルドは、ショックで倒れてしまう。プルトはしばらく茫然自失となるも、ヒルドを馬車に乗せて家へと戻る。プルトが頭の真っ白になったまま家に着くと、ヒルドがちょうど目を覚ました。
「ここは・・・・・・」
「家の前だよ。ここまでは馬車を使った」
門をくぐり、玄関まで歩く。その間、プルトはヒルドを両腕で抱えて歩いていた。
「ありがとうございます。もう大丈夫ですので、降ろして下さい」
「歩けるのか」
ヒルドはプルトに気を使い、降ろしてもらう。プルトはゆっくりと降ろしてから、空を見上げた。
「今日も新月みたいだな」
辺りはすっかり暗くなっていた。 星のきらめきは綺麗だが、確かに月の輝きはそこになかった。
「そうですね。あの日を思い出します」
ヒルドは空をしばらく見上げて、目から溢れ出た雫を地面に落とす。
「トーラさんの、トーラさんの所へ行って下さい
心の折れた音が夜の暗闇に響き渡る。
「行かないよ。行くわけないだろ」
プルトは静かにそう応えた。
「でも・・・・・・。でも私・・・・・・」
ヒルドは下を向き、顔を覆った。
「俺は誓った。この夜空に。何があっても君を愛すと」
プルトは力強く夜空を握り締めた。折れた心を正すように。
「掴んで離すつもりはないよ。君の愛は本物だから」
そしてヒルドを抱き寄せた。
「ありがとう、ございます」
ヒルドの心がゆっくりと温まる。プルトにもそれがゆっくりと伝わる。この温かみをもっと強いものにしたい。プルトはそう思う。プルトはあるはずない月を見上げた。
「大丈夫。何か方法は・・・・・・あっ」
そこでブルトは何かを思い出し、ヒルドの顔を見る。ヒルドは目をくりくりして見つめ返した。
「どうしたのですか」
「あっ、いや・・・・・・しかし」
プルトは一人で考え込み始めた。
「何か思い付いたのですか」
ヒルドが無垢に聞く。
「いや、まあ・・・・・・、うん。一つだけ、君がそれでも良いと言うなら」
プルトは少し険しい顔をしている。
「はい、何でしょう」
ヒルドは中身がわからなかったが、プルトの案ならついていっても良いと思った。。
「酒場の踊り子ヨーキとの間に出来た子がいる。それを私達の子にするというのはどうだ」
プルトがそう言うと、ヒルドは目を大きく開き、そしてプルトと同じような顔になる。
「なるほど・・・・・・。その子は今どこに」
ヒルドはそれでもその子が良いのであれば、と思った。
「隣りの国の孤児院にいる」
「孤児院・・・・・・ですか。 それなら私は」
ヒルドはその子が孤児院での親のない生活を送るよりかは、と思った。
「そうか。この件は父にも手伝ってもらおう。家の問題でもあるから」
「はい」
こうして二人はアイシャを引き取ることにした。
 




