一、再会6
一方
ラルフはプルトがいなくなるのを確認すると、すぐにヒルドに話しかけた。
「先ほどはすみませんでした。怒鳴り声をあげてしまって」
ラルフがそう言うと、ヒルドは少しびっくりして居直る。
「いえ」
ヒルドは短くそう応えた。相手の様子を窺っている。ラルフはヒルドの様子を見て、ふっと笑った。
「実はヒルドさんには私の愚痴を聞いてもらいたいんです」
「愚痴ですか」
ヒルドはやはり警戒を解けないでいた。
「ええ、これは愚痴ですね」
ラルフは改めてそう言って、大きく息を吸った。
「私は、トーラを愛してます」
ラルフは殊更真険な表情でヒルドにそう言うと、ヒルドに対して柔らかい笑顔を向ける。ヒルドは軽く金槌で叩かれたような衝撃を受けた。
「そりゃそうだと思いませんか。五年も一緒に上流市民になるために頑張ってきたんだ。情も移るってもんですよ。いや、それは言い訳ですな。たぶん俺は最初にトーラを見たその日から、トーラの事が好きだったんだ。だから、一緒にいるために色々言った。それだけだ。きっと」
ラルフの憂う顔が印象的だった。
「本当に上流市民になれるなんて思わなかった。でもなれちまった。これは俺とトーラとの約束だから、愛する者との約束だから・・・・・・。だから、やらなきゃならねぇ。そう言う話だ」
そしてラルフはヒルドを見る。ヒルドはその目が強い意志を持っていたのでびっくりする。
「プルトさん、説得出来るといいな」
共感を求められてヒルドは少し戸惑ったが、冷静に返答する。
「それが一番だと思います」
ラルフはにっこり笑ったが、その後すぐにここ一番の表情になった。
「ただな。上流市民になる過程でわかった。世の中一番だけじゃ上手くいかない。二番も考えなきゃいけない。そう思うんです。二番はもちろん、俺とあんたが一緒になることだ。それでなヒルドさん、俺はこう思うんだ。 二番目を選ぶことになったら。あんたは俺と一緒にいなくても良い。好きなように生きてくれ。それがせめて、俺が出来ることだ。俺はどっちでも構わねぇ。木こり暮らしに戻るのも悪くはない」
そこまで言うと、ラルフはヒルドと目を合わせた。
「今日の今日で全部が決まるとは思っていません。少し考えてみて下さい」
ラルフはそう言って立ち上がった。そしてそのまま玄関の方へ歩いていく。
「少し子ども達と遊んできます」
そう言って、ラルフは扉を開けて外へ出て行った。
「ラルフ、今日は帰ります」
ラルフが外に出るとちょうどトーラがプルトと戻って来ていた。
「そうか、わかった」
ラルフが短くそう応える。
「テラ、エラ、もう帰るぞ」
そして中庭で遊ぶ子ども達を呼びつけた。
「はい、ラルフ様」
「はい、お父様」
テラもエラも元気にそう応える。大人達の重苦しい話とは違うな。とプルトは思った。
「ヒルド、ノーシスさんがお帰りになる」
プルトは中にいるヒルドを呼んで、お見送りする。
「お父様、またお会い出来る日を心待ちにしております」
テラが礼儀正しくプルトにそう言った。プルトは複雑な笑顔を向ける。
「その時は、もっと大きくなるんだぞ」
そう言って、プルトはテラの頭を撫でた。
「ではまた、近いうちに」
トーラがそう言ってノーシス家は去って行った。




