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三、アイシャ誕生2

 ガランガランガラン


 と、そこで一人の青年が入ってくる。立派な服を着ている青年で、一目で下流市民でないのはわかった。


「プルト様」


 ケルトは驚きで声を上げる。


「なんだ、今日はもう店じまいなのか」


 待ち人であるはずのプルトが入ってきたのだ。


「ええ、その、ちょっと待って下さい。ヨーキ。ここに来るんだ」


 ケルトは急いでヨーキを呼んだ。プルトはヨーキという言葉を聞いて、何かを思い当たる。

ケルトの呼んだ方を見ると、見覚えのある女性がそこに居た。


「プルト様」


 ヨーキが足を止め、プルトを見た。


「ヨーキ、ヨーキか」


 そこでプルトはヨーキのことを思い出す。


「少し太ったんじゃないか、ダンサーなら節制は大切だよ」


 何気なしにプルトはそう言った。すると、ヨーキは困ったようであり、ケルトは凍り付いていた。と、ビリーが入ってくる。


「んっ、今日は店じまいだぞ。さっさと帰ってくれ」


 ビリーはプルトが残った客だと思ってそう言った。すると、ケルトが凍り付いた身体をぎこちなく動かして紹介する。


「プルト様だ」


 と、一瞬。気まずい空気が流れる。飄々としているのはプルトだけだった。


「何、貴様がプルトか。貴様、うちの娘を傷物にしやがって、どうしてくれるんだ。赤ん坊が出来たんだぞ」


 ビリーは怒りを顕わにプルトに掴み掛かった。プルトは一瞬たじろぐも、ビリーの言葉を聞いて、青ざめる。


「赤ん坊・・・・・・。本当に、本当なのか」


 プルトが聞くと、ヨーキは頷いた。一夜限りのことであったため、プルトにはどうにも信じられなかった。しかし、目の前のヨーキ、そしてビリー、ケルトの様子はそれが現実だと訴えかけてくるのである。プルトはしばらく呆然とした。すると、ヨーキが話し出した。


「私はあの日、プルト様が私を選んで下さったと思ったから・・・・・・。でもその後調べたら上流市民と下流市民の結婚は許されていなくて・・・・・・。プルト様が結婚されたのも今日知りました」


「何と言えば良いか、すまない」

「謝れば済むと思ってんのか」


 ビリーが叫ぶ。


「いや、本当に済まない。。埋め合わせはなんとかする」


 プルトは顔を逸らしながらそう答える。


「なんとかってのはなんだい。こちとら働き手がいなくなって困ってるんだ。それにただ傷物にされただけじゃない。赤ん坊が出来たんだぞ。それ相応の礼はあるんだろうな」


 ビリーが捲し立てる。


 ガランガラン


 と、そこで扉が開いた。


「ケルト、早馬にあった報告は本当か」


 ホープだ。執事のセバスを連れてきている。


「あんたは誰だい」


 ビリーが突っかかる。


「私はこの店のオーナーをやっているホープだ」


 ケルトが耳打ちをしに行く。ホープは視線をヨーキ、ビリー、プルトと動かす。プルトは目を合わせていない。ホープにはそれで状況がどうなっているのか、なんとなく察しがついた。


「さきほど、入る前に怒鳴り声が聞こえてきた。そこの愚息に代わり私がお答えしよう。言い掛かりだな。これはよくある金目的の強請だ」


 ホープが高らかとそう言った。


「何」


 反応したのは案の定ビリーだ。


「てーー」

「ケルト、誰も入ってこないか見張るんだ」


 ビリーが反発するよりも早くホープはケルトに指示を出す。


「てーー」


 パリン


 ビリーが何か言おうとするのをホープが手で制す。同時にセバスがグラスを一つ割っていた。ビリーはその音にびっくりして言葉を噤んだ。


「大丈夫です」


 ケルトがそう言うと、ホープは手を解いた。すると、煮え湯を飲まされていたビリーがそれを吐き出した。


「てめぇ、どういうつもりだ」


 やっと言えた言葉は思った以上に響き渡った。


「プルト、本当なのか」


 しかしホープは何も聞こえていないかのように振る舞う。


「本当です」


 プルトは視線を落としたまま静かにそう答えた。


「わかった」


 ホープはそう言って顎に手を当てて考える。


「てめえら俺を無視するんじゃねえ」


 ビリーは足を鳴らす。


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