8・レオルの正体
しばらくすると私の手の痛みはほとんど消えた。
レオルはようやく満足したのか、一方的な親切に耐え忍ぶ私を解放して再び薬草を摘み始める。
私は精神的疲労でふらふらしながらも、一緒に探すことにした。
たった一度の動揺をおもしろがられて、嫌がらせのような親切に遭うなんて……もう二度と揺らぐことのない、鋼の心が欲しいわ。
「そうだリシア。言葉は俺が教えるけどいいな? リシアが遠い所から来たって説明すれば、多少言葉が不慣れでも怪しまれないだろうし」
こんな風に、レオルって基本的には親切なのよね。
それをこじらせた、ひどい悪癖があるのも確かだけれど。
「私の言葉、変かしら?」
「変というより、今の時代に古代ティメリエ語をここまで話せるのは俺だけじゃないか? だけど必死に習得しておいて良かったな。こうやってリシアと不便なく会話できるし」
「えっ」
言われようやく、レオルが私と同じ古代の言語を話しているのだと気付く。
レオルの話し方は少しぎこちないけれど、千年前の言葉で日常会話が出来るって……絶対おかしいわよね?
「レオルってすました顔してるけど、随分と変……のめり込んで学ぶ人なのね」
「リシアも魔法を使いたくて没頭したんだろ? それと同じだ」
レオルと同類ということは……私も相当変人だったと自覚させられた。
でも彼が私の時代の言葉を学んでいたおかげで、とても快適に意思疎通が出来ている。
「私、レオルに会えて本当に運が良かったのね」
「それは俺の方かもな。『厄災の王女フィリシア』本人に会えるなんて思いもしなかった」
やはりレオルの正体は、相当な古代史好きらしい。
おかげで千年後に一人放り出されても、こんなに好待遇だ。
「だけどリシア、さっきの暴発は採取に便利だけど、人前では使うなよ。人の魔力は時代を追うごとに弱まっていて、今は魔法を使えるほどの魔力を持っている方が珍しいんだ」
「わかったわ。だけどあまり魔力を持っていない人たちなら、魔力暴発を見ても何が起こったのかわからないと思うけれど」
「いや。魔力暴発ならこの国のほとんどが知っている」
「ほとんど? 千年前だと誰もがよくわからない危険な力だって、怖がったり軽蔑したり天災の理由になったりしたのに」
「今はエドラン・ジェスティンが有名だから。初等科の社会の教科書に載っている、五百年ほど前の人物だよ。彼の存在で、魔力が濃すぎて暴発を起こす珍しい体質の人が認知され始めたんだ。リシアの時代にはまだよく知られていなかったし、適当に理由をつけられて悪い役目を負わされたんだろうけど。だけどな……」
レオルは何がおかしいのか、私を見てにやりとする。
「リシアは逃げるためなら、自分の怪我も俺の首もためらわず吹っ飛ばそうとする怖い女のくせに。冤罪の薬殺刑で、大人しく毒を飲んだのは意外だったな。何か理由があるんだろ?」