7・思いやりの拷問
「古代史は俺の相棒みたいなものなんだ。小さい頃から興味があって、よくまとまった休みを取っては、古代文明が栄えていそうなところを旅したりする。今みたいにさ。だから深く考えないで、俺の趣味につき合ってると思って任せておけよ。リシアの度胸があれば、俺を怪しいと判断した時点で、どんな手を使ってでも逃げ出すことくらいできるだろ?」
「そ、そうね……」
なんとか相槌を打ちつつ、私は脱力する。
言われてみれば、レオルは千年前の事柄について妙に詳しかったし、私の話を興味深そうに聞いてくれたのは、そういうことだったのね。
だけど「古代史が」を言う前に「好きだから」とか「大切にする」とか……国中の嫌われ者だった私にかける言葉としては、少しズルい気がする。
おかげで悔しいくらい心臓が跳ね上がって、しばらく収まりそうになかった。
顔だって嫌になるほど熱いし。
それなのに、先ほどからレオルが不躾に私を見つめてくる。
視線がわずらわしいことこの上ないわ。
「まさかとは思うけど……さっきので動揺してるのか?」
「気にしないでちょうだい……」
「無理言うな。あの度胸を見た後に、その態度を取られる身になれ」
とても不吉な予感がする。
レオルは私の手を取ると、そのままでも多少の治癒効果があるマジックハーブを、赤く擦り切れたてのひらにのせてそっと包んだ。
彼が先ほどから大きい葉を探していたのは、私の傷のためだったのだと思い当たる。
だけどもう親切はお腹いっぱいなので、放っておいてくれないかしら。
「あ、りがとう」
平静を装った形だけの礼を言い、私が反射的に手を引くと、それを予想していたかのような動きで彼の手に囚われた。
痛いわけではないのに、力の差がありすぎて抜け出せない。
「……その手を離さないと、あなたの首が飛ぶことになるわね」
「それはおかしい話だな。傷は葉で押さえていた方が、治りも痛みの緩和も促進されるのに」
その通りではあるのだけれど。
「別に自分でもできるわ」
「俺がしたい」
「迷惑よ」
「そんなこと言ってるけど、千年後に目を覚まして、俺の世話になるしかないんだろ? それなら俺の親切に慣れるための、ちょっとした代償だと思って我慢しろよ。慣れれば我慢しなくてもいい。どっちにする?」
それ、レオルの執拗な親切を受けるのは確定しているのね……。
反論する心の余裕もなく、私は思いやりの拷問を受けるような気持ちで、しばらく彼の親切に無言で耐えることとなった。
今まで手を繋ぐという行為はただの機能だと思っていたけれど、これも傷を治すためだとわかっているけれど……。
なかなか動揺が収まらない私をレオルは楽しそうに眺めていた。
嫌われ者として生きてきた人の気も知らないで……ううん、知っていてやってるのよね。
顔は整っているのに、性格は相当歪んでいるらしいわ。