6・親切の理由
「蜂の巣、まだ欲しい?」
「いや、たくさんは持てないからこれだけにしておく。でも、持って行くと喜びそうな子がいるんだ」
レオルは肩にかけている革の鞄に蜂の巣をしまうと、自然に満ちた周囲を見回す。
「ここには偶然迷い込んでやってきたけれど……長い間人が入っていないようだし、採取に向いてそうだよな。マジックハーブなら軽くて持ち運びしやすいから、持って帰るか」
レオルは足元に自生するドロップ型の四枚葉を摘み取った。
「それなら知ってるわ。千年前でも使われている薬草を作るハーブね」
「ああ。だけどこれはいまいちだな……リシア、もう少し大きい葉を見つけるまで、少し待ってろよ」
「? ええ」
もしかして、大きいものを見つけて喜ぶタイプなのかしら。
涼しい顔して、意外とかわいいところがあるのね。
せっかくなので、私もレオルのように大きな薬草を探すことにした。
鳥の鳴き声がして見上げると、木々の高い位置には蜂の巣や色々な実がなっている。
「採取用の鞄を準備するから、次は頼むな」
「次?」
「次回の探索だよ。行きたいところとかあるのか?」
私はどういう気持ちで返事をすればいいのかわからず、黙り込んだ。
連れて行ってくれるということは、また会ってくれるのよね?
それってしばらくお別れしなくてもいいのかも……なんて、ちょっと期待したくなるけれど、そんなに都合よく物事が運ぶものかしら?
生まれながらに魔法不能で家族や周囲から疎まれて、努力したら魔力が暴発して、それを利用されて婚約していたはずの相手から追放と毒殺を計画された身としては、あまり自信が持てないというか……。
「リシア、黙り込んでどうした?」
「次回の探索に行くって……私が、よね?」
「なんだよその困った顔。留守番の方が良かったのか? 貸し部屋を探したいなら知り合いに頼める奴がいるし、俺も一緒に行くから」
「部屋を借りるの? どうやって?」
「そういうのは俺がするから心配しなくてもいい」
「……だけど」
「ん? もしかして俺の家に来る気だったのか? まぁリシアがいいなら別に、」
「違うわ! ただ驚いていているの。だってそんな……レオルは当然のように言っているけれど、私……」
「どうしたんだ? さっきまで俺の首を吹っ飛ばす気だったくせに、変なところ謙虚なんだな。持ち前の図太い度胸で頼ればいいだろ」
「そうよね。わかっているわ」
でもなぜか、言葉の続きが出てこない。
レオルは私のそばまで来ると、そっと頭に手を置いた。
「今まで、大変だったんだな」
その一言とてのひらから、彼の思いやりが伝わってくる。
「そうね。だから私、レオルがどうしてここまで親切にしてくれるのか、全然わからないの」
「理由がいるのか?」
「だって私、さっきはあなたの首を吹っ飛ばそうとした、歴史に名を残すほど有名な悪人なのに……」
「好きだから」
馴染みのない言葉に、私の思考が一旦停止した。
レオルは平然と、静かな眼差しを向けてくる。
「俺はリシアのこと、大切にするよ」
あの……。
聞き間違い、かしら?
見つめ合ったまま硬直する私に、レオルはいつもの涼しい表情を緩めて笑った。
拙い作品にここまでお付き合い下さってありがとうございます!
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