25・試作のビスケット
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レオルが紹介してくれた、ハーキス領主オルドー様の敷地内にある別館に私とディノがやって来て、もうひと月ほどになる。
とても快適だった。
家の大きさも広すぎず、住んでいるのは私とディノだけなので自由に過ごせるし、来客がある場合はディノも奥の部屋に作った錬金部屋の錬金釜へすうっと溶けるように見えなくなるので、正体を知られる心配もない。
レオルも毎日のように顔を出してくれるので、困っていることは何もないけれど、ひとつ気になることがあった。
「ディノに好き嫌いはあるの?」
椅子にお行儀よく座ったディノが首を傾げる。
その手には私の試作した固焼きのビスケットが握られていて、今も小麦とバターの焼けた香ばしさと蜂蜜と粉砂糖の甘い匂いが、辺りをほんのりと満たしていた。
「リシアは知っているでしょ? 僕が人参なんて絶対食べないこと!」
「そうかしら?」
「むっ!? リシア、どう見ても悪女の顔で笑っているよ……っ!」
ディノははっとした様子で自分の持っているビスケットに気づき、目を見開く。
「まさか、この中には……!?」
気づいたようね。
ディノの手にしているビスケットは綺麗な焼き目が美しい私の自信作だ。
かじると歯ごたえがあって崩れにくいのに、口に入れるとほろりとした食感がたまらないし、なにより気軽につまみやすいので、ディノは止まらないのか先ほどからポリポリ食べていた。
そしてその中には巧妙な配分で加減した、すりおろされた人参が入っている。
ディノは目を輝かせた。
「リシア、これは世紀の大発明だ! 最高に美味しいよ!」
「もしかしてこういう作戦でいけば、オルドー様でも食べてくれるかもしれないわね」
そう、私はオルドー様のことが気にかかっていた。
初めて紹介してもらった時に話したけれど、明るくふるまっているのに疲れのせいかやつれて見えたし、そのことはレオルも奥様のヘリン様も心配していた。
二人から聞いたけれど、オルドー様は子どもの頃からの偏食が今も直っていないらしい。
何か手ごろで美味しい食べ物でも作れたらいいのだけど……と考えながら、ディノで試したビスケットはとりあえず成功のようだった。
「さっそく材料を準備して、オルドー様用に作ってみようかしら」
「材料の準備? リシア、どうやって準備するの?」
「町の外に、色々な採取場があるってレオルが言っていたわ。彼や冒険者もよく利用するらしいの」
「えっ。まさかリシア、ひとりで行くつもり?」
「そうよ」
「相変わらず危ないこと、平気でするなぁ」
「そうかしら。私には暴発があるし……あっ」
そうだ、人に知られると面倒だからレオルに使うなと止められていたんだわ。
それにもしこっそり使っても、ちょっとした手の腫れだってレオルなら目ざとく見つけてしまいそうだし、あまり心配はさせたくないのだけれど……。
「リシア、心配なのは魔物だけじゃないよ。リシアがひとりで外を歩いていたら、何も知らずにかわいそうな男たちが寄って来るかも。自分の命が暴発の危険にさらされることも知らないで」
「それは迷惑ね……」
万が一そんなことになったら、レオルやお世話になっているハーキス一家に迷惑がかかってしまう。
真剣に悩む私に、ディノがにっこりと微笑みかけてくる。
「リシア、護衛はレオルに頼めばいいじゃないか」
「やっぱりそうなるのかしら」




