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2・目覚めると

 光を得た海底のような、明暗を宿す瞳と視線がぶつかる。


「……っ!」


 青い目が驚いたように見開かれると、私から素早く遠ざかった。


 同時に頭にあった感触が離れたので、相手が私を撫でていたのだとわかる。


 誰?


 ゆっくり上体を起こすと、塔の内壁を背にした黒髪の青年が、緊張した様子でこちらをうかがっていた。


 背はすらりと高くて迫力があるけれど、屈強というよりも細く鍛え上げられた、しなやかな骨格をしている。


 腰には長剣を下げているし騎士か剣士か……彼の旅人風の服装は細部が見慣れないデザインなので、異国の出身のようね。


 だけどその黒髪碧眼の整った顔立ちと容姿なら、この国では、おそらくどの国でも、もてることは間違いない。


 人を寄せ付けないような、でも惹きつけられてしまうような……涼しい美貌の彼は瞬きもせず、私を見つめている。


「フィリシア……?」


 低く響くいい声が私の名を呼んだ。


 つまり彼は、私のことを知っている。


 まさか目覚めたばかりのタイミングで、私の死体を確認する人が来たのかしら。


(正直疑っていたけれど……。ディノ、あなたのおかげで助かったみたいね。だけどどこにいるの? 無事なら返事をして)


 ディノが従姉のルネのように人質(猫質?)に取られている可能性を考えて、私は思念を送りながら見回した。


 返事は無かったけれど、塔の床がひび割れだらけになっていたり、壁も風化したように崩れていることに気づく。


 建物が驚くほどボロくなっているのはなぜかしら?


 疑問に思いながら見回していると、青年が慣れた様子で身を構えた。


 あ、見事な動き。


 このままだと絶対捕まるわ。


 それとも殺される?


 迷っている余裕はなかった。


 私が手を振りかざすと、彼の目の前で空気が弾けるようにバン! と威勢のいい破裂音を立てた。


 思ったより威力が出なくて、ここが魔力を封じ込める塔の中だったと思い出す。


 ただ少しは発現したのだから、塔の劣化で魔力抑止効果が薄れているらしい。


 それでも、不意の衝撃と音に彼は一瞬ひるんだ。


 私はその隙を逃さず、彼が開けてくれたらしい入り口から外へと飛び出す。


 すると見知らぬ光景が広がっていた。


「ここは……どこ?」


 塔の外は森だった。


 周囲には建物や塀などの人工物の形が残っているけれど、どれもが草やつたに覆われていて、自然に埋没した遺跡のような風景になっている。


 おかしいわ。


 ここは要塞ややぐらが備えられた、切り開かれた平原だったはずなのに……。


 呆然とする私の前に人影が回り込む。


 思わず後ずさると、黒髪の青年は私の左右に両腕を突きつけた。


 私は背後にある塔の壁と彼の腕に阻まれ、退路を断たれる。


 適当に謝っても許してくれそうにない、研ぎ澄まされた鋭い視線が私を見下ろした。


「逃げるな。聞きたいことがある」


 声は低くて心地よいけれど、有無を言わせない口調だった。


 それにこの至近距離。


 先ほどのように力を使って逃げようとしても、魔力暴発が私自身にまで当たることを想定しているのだろう。


 つまり、降参するしかない。


 と、思っているのね?




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